森の奥にぽつんと建っていた古びた教会は、誰のためでもない祈りに満ちていた。
リックたちは押し入るように中に入り、祈りに来ていたであろう元信徒たちを薙ぎ倒した。
血飛沫が飛んだ壁や像に、外からあたり一面に響き渡る鐘の音はグレンの手によって止められた。

中へと足を踏み入れたキャロルには祭壇には崩れかけた十字架と、誰かが置いていった花束の残骸を見つめた。

「…ソフィア」
キャロルの声は、どこかに届くことを信じるように震えていた。

奥のベンチに、誰かが座っていたような痕跡があった。埃の積もり方が少しだけ違う。そこに誰がいたのか、誰も確かめようとはしなかった。

ダリルが壁際に残る泥の跡を指でなぞる。小さな草の繊維と靴跡。それがソフィアのものかどうか、判断はつかなかった。

「…違うな」と、誰にともなくつぶやく。

だが彼の視線は、教会の出入口ではなく、森の奥の方へと向いていた。
その方向に何があるか、彼だけが知っていた。

誰かが、別の目的でここを訪れていたかもしれない。
それは、あくまでも黙っておく種類のことだった。


▽▲▽


農場での暮らしに、少しずつ時間が流れ始めた。カールはまだベッドに伏せたままだったが、命は助かっていた。
安堵した両親であるリックとローリは、徐々に農場で"これからも"暮らしていくことを意識し始めた。

ハーシェルの静かな視線を背に、リックたちは再び森に入る準備を始めていた。ソフィアのために。

「あのとき、あの人も一緒にいてくれたらって思うことがある」
グレンが、何気なくつぶやいた。
ダリルは言葉を返さず、ただ弓の弦を張り直していた。
「…何も言わずにいなくなるってのは、きついわよね」
アンドレアが言った。誰に対してでもなく、ただ空気に向かって。

キャロルは、畑に伸びるトウモロコシの葉をゆっくりと指でなぞっていた。
その人がソフィアの名前を、どんなふうに呼んだのか。思い出そうとしても、声は霧のように曖昧だった。

夜、農場の裏手に灯るランタンの光に、ダリルがふと立ち止まる。

森の奥へ続く一本道を見つめるとき、
何かがそこに立っていた気がして、次の瞬間にはもう消えている。
そんな気配が、一度だけあった。