人魚の片思い
「はは、やー、すげえ堂々と寝るんだな」
ふわふわ君の前の席に座っている金髪が話しかけてくる。彼らはいつも一緒にいるイメージがあるが、金髪も席替えをしたのだろうか。彼らは私を興味深々に見つめてくる。堂々と寝ることに対しての興味かと思ったが、どうやら違うらしい。私の頭をじっと見ているような気がした。
「あの…?」
「ん?ぬーしたんば」
名前が分からないのでそれとなく促してみる。
「…あー!わんは甲斐裕次郎さー。斜め後ろの席座ってたんやが…」
「そういえば自己紹介してなかったやー。わんは平古場。ゆたしく」
苦笑いをするふわふわ君もとい甲斐裕次郎君と、名前を言わない平古場君。一度の自己紹介だけでも、個性的な分ちゃんと覚えられる気がした。私は寝る準備を終えたので、彼らに向き合う。
「私はホワイトイリス。よろしくねー。ゆたしくって、よろしく?」
そーそーと頷く平古場君。名前は名乗らなかったものの、朝甲斐君に「りん」と呼ばれていたのでそれが名前だろう。
「なー、やーの髪って染めるんば?」
「染めてるよ。バラ色。」
似合う?と髪を少し手で梳くって見せると、「バラ色…」と言いながら平古場君が笑う。その気持ちは分からなくもない。
友人と美容院へ行って「人生バラ色な色に染めてください」と伝えられたのだ。美容師も、とても良い表情で染めてくれた。私の意志はないのだ。
「ちょっと、笑うのはひどくない?」
「はは、悪ィ…ははっ」
ケタケタと笑う平古場君を尻目に、甲斐君が好奇心を隠しきれない顔でジッと見てきた。「触る?」と訊ねると、嬉々として触りに来る。
髪を染めている人が少ない分、彼らにとって珍しいのだろう。それも赤とピンクが混ざったような派手な色だ。へぇ〜と言いながら触っている甲斐君の、飽くなき好奇心を持った瞳に苦笑いしてしまう。
「なんかたのしそ〜。何話してるの?」
髪をいじられる私を見つけ、グループから花が戻ってきた。
「髪の毛の色が気になるんだって。」
「だぁるねー。私も気になってたさぁ。可愛い色よね。」
可愛い、と言ってもらえて照れてしまう。転校して1週間、誰も髪色について触れてこなかったからだ。平古場君と甲斐君、そして花がはじめてだ。約1名には笑われてしまったが、花にかわいいと言ってもらえたので良しとしよう。命拾いしたな。
「バラ色だってよ、バラ…」
「そろそろ怒りますけど」
いまだにケラケラ笑う平古場君、よほどツボに入ったのだろう。色名が「バラ色」なんだから仕方ない。よくよく彼を見てみると白いジャケットに金髪という組み合わせのせいか、このクラスの誰よりもホストらしい見た目をしていた。悪いと言いながら、なんとかツボから外れた頃には、既に次の授業を知らせる予鈴が鳴っていた。