人魚の片思い
「イリス、おはよー」
「おはよ」
席が近いために仲良くなった女の子と挨拶を交わす。いわゆるいつメンというもので、彼女のグループに入れてもらっている。
「今日も早いねー」
「迷子になるの怖いじゃん」
「東京よりならないでしょ」
訛りのある口調で、私の軽口に返してくる彼女の名前は「椎名花」。綺麗なショートカットの黒髪に、少し焼けた肌の彼女は、誰にでも分け隔てなく話してくれるムードメーカーだ。初めて比嘉中にきてできた友達だから、色々と頼ってしまっている。
花は地元の子と話すときは、訛り全開の方言で話しているが、私と話すときは気を遣って方言をなくしてくれる気配りのできる女。何を言っているのかさっぱり分からない私にとってとてもありがたい。
花と他愛のない話をしていると、いつの間にかクラスには全員集まっていて、予鈴まであと5分もない時間だった。
「あいひゃー!間に合ったさー!凛ー!へーくしにー!」
「へーへー…あーしににりた」
予鈴がなるギリギリに音を立てて入ってきた2人組み。これが先ほど言っていた金髪とふわふわ君だ。何を言っているのかは良く分からないけれど、2人は慌てて教室に入り後ろの席に着席する。私の斜め後ろ窓際の席に、ふわふわ君、真ん中後ろの席に金髪が座る。ちょうど先生も入ってきて、朝礼が始まった。
「ね、ね、花」
「ぬ〜やが?怒られるよ?」
朝礼のなか、前の席に座る花に小声で話しかける。怒られると言いながらも、ちゃんと返事をしてくれる花は優しい。
「しに…にり?ってなに?」
「え?あ〜にりた?しんどーって感じ」
しに、がつくとすごくしんどいってなるんだよ。と花は私に丁寧に教えてくれる。なるほどね〜、と逐一方言を解説してもらっていると、どこか異国に来たのかという錯覚を覚えてしまう。いつか方言にも慣れるのだろうか。ごほん、という先生の咳払いに苦笑いを返した。少し居心地が悪いのでなんとなく窓に目をやる。隣の席の男の子は既に寝ていた。窓の外から8月のような日差しが差し込んでいる。教室は冷房が効いているため、暑さを気にすることなくいつでも快適だ。体育以外は。
朝礼が終わり、あと10分もすればすぐに授業が始まるわけだが、次は国語の時間だ。国語は寝てもいい時間。せっせと机の上に快眠できる準備を始める。
「やー、ぬーしてるんばー?」
「寝る準備…え?」
疑問系で話しかけられたので、なんとなく今していることを伝える。声の主の方をみると、ふわふわヘアーの男の子だった。いつもかぶっている帽子は、さすがに室内だからか外していた。ふわふわ君はいつの間にか私の隣の席に座っている。寝ていた子は、ふわふわ君の席で眠っていた。いつの間に席替えをしたのだろう。