始まりはいつだったか
ホグワーツに勤めて5年。今年はあのハリー・ポッターが入学してくるらしい。最近のセブルスの機嫌の悪さはこれが原因のようだ。
「私に八つ当たりしないでよ」
「そんなものしていない」
いつになく頑なだ。私とセブルスはホグワーツに通っていた頃からの知り合いだが、学年も寮も違っていた(私の方が一つ下で寮はスリザリンとレイブンクローだった)ため深い親交はなかった。距離を縮めたのは卒業後。共に騎士団に属し、その後同じ職場にいれば仲良くもなる。歳が近いためお互い話しやすいのだ。
「一年長そうだね」
「他人事過ぎるだろう」
「一年生は私の授業ないからあと二年は安心よ。三年生からだもの」
セブルスはため息を吐いた。相当嫌らしい。だが、我慢してもらうしかないだろう。
「なんかあれば、手伝いはするよ。大した力にはならないだろうけど」
「なにかあれば…な」
「あ、そういえば今年、賢者の石を預かるんだっけ?」
この前の会議でのダンブルドアの言葉を思い出す。
「対策はもう終わらせたのか?」
「うん。迷路作っといた」
「………迷路?」
「心に迷いがあると迷う迷路」
「対策になるのか?」
「………さぁ?」
すごく呆れた顔をされた。謎である。
そんな会話をしているうちに、もう外は暗くなってきていた。明日から新学期だ。
ハリーは入学式から目立っていた。〈生き残った男の子〉と呼ばれるだけある。遠くてよくは見えなかったが、なるほど父親のジェームズによく似ている。それをセブルスにボソッと言えば一瞬眼光を鋭くした後、性格もソックリだと言われた。褒めているわけではないようだ。マクゴナガル先生曰く、目はリリーによく似ているという。少し気になり、無意識に右耳のピアスを弄る私がいた。
ハロウィンは余り好きではない。何故って甘ったるい香りが城中を埋め尽くすからだ。甘いものは嫌いではないが、甘過ぎるのは嫌だ。だが、面倒ごとはもっと嫌だ。やっと一日が終わる、とディナーで気を抜いていたというのに、まさかトロールが入ってくるとは。それも退治したのは、あのハリー・ポッターとその友人と言うではないか。何はともあれ、無事でよかった。
その日の夜セブルスの部屋に行くと、足に怪我をしていた。
「なにこれ?噛み傷?」
「何しに来た」
会話が成り立たない。何をしにって、魔法薬についての本を借りに来ただけだ。
「マダム・ポンフリーの所には?」
「…………行ってない」
呆れた。私はセブルスに無理やり足を出させると治癒呪文を唱えた。応急処置ぐらいにならなるはずだ。
「………礼を言う」
「いえいえ」
簡単な会話をしてから本を借りて部屋を出る。本音を言えば、このハロウィンの日に独りで部屋にいたくなかっただけなのだ。
部屋に帰って私はアルバムを広げた。そこには懐かしい人たちが私に向かって手を振っている。かつてこのホグワーツで悪戯仕掛人と呼ばれた4人と赤毛の女性。
十年前の今日、私の友人三人が殺された。
ジェームズ、リリー、ピーター
アルバムを撫でながら、3人の名前を呟く。
ジェームズはいつだってホグワーツのムードメーカーで。傲慢で自意識過剰なのとこもあったけど、誰よりも友達思いで頼りだった。リリーは何があっても私の味方で。優秀で、それでいて優しくて。姉のような存在だった。ピーターは何にでも一生懸命で優しかった。困っていれば解決する最後まで一緒に悩んでくれた。
十年前のハロウィン。私は悲しみと虚しさとそして驚きに苛まれた。どうして、どうして3人が。
どうしてあなたが………。
私の中に憎しみはなかった。それ以上の喪失感だけが、私の中にはあった。そしてあのピアスは十年経った今でも外すことができないでいる。