変わらない日常
「ラミアせんせー!」
「なんですか?Mr.ウィーズリーにMr.ウィーズリー」
グリフィンドールとハッフルパフ三年生の授業の後、声をかけてきたのは問題児で有名な双子だった。
「…………それ呼びにくくない?」
「名前で呼んでくださいよ〜。」
「名前で呼んだら、どっちがどっちか考えなきゃいけないですから。いいです」
本音を言ったら双子は顔を見合わせて笑った。
というか、この双子は時々敬語が抜ける。無意識なのだろうが舐められているのだろうか。
「本当にハッキリ言うんだ」
「噂は本当だったな!」
「うわさ……?」
「「ラミア教授は本音しか言えない!」」
失礼な。
本音しか言えないわけではない。つい本音が出てしまうだけだ。
「話はそれだけ?」
「あ、違う違う。質問があったんですよ」
珍しい。
そう思って質問を聞けば、授業とは関係のないものだった。
だが、質問に対してキッチリ〈本音を〉言ってやれば満足気に帰って行ったのだった。
ハリーがクィディッチのシーカーに選ばれたようだ。
私は学生の頃、レイブンクローのチェイサーをやっていた。クィディッチは大好きだ。
1年生でシーカーだなんて、どんな実力なのかと試合を見に行った。私は席に座らずに端に立って見ていたのだが、予想外なことが起きた。
ハリーの箒がコントロール不能となっているようなのだ。その不可解な動きに呪いをかけられているようだ。周りを見渡せばセブルスの口が動いている。
まさかと思って他を見れば、なんとクィレルも同じように動いているではないか!
私は急いで杖を取り出しハリーに向けるが、その動きは予測ができない。集中してハリーと箒に目を向ける。
どうにか杖を振り魔法に干渉すればその動きは止まり、ハリーはシーカーとしての動きに戻る。
ホッとしてセブルス達の方へ目をやると、何故か慌てていた。
後から聞けばセブルスのローブに謎の不審火が上がったらしい。なんというか、ご愁傷様だ。
結果としてグリフィンドールが勝った。デビュー戦としては最高のものだろう。
おめでとう、ハリー。
クリスマス休暇がやってきた。
殆どの生徒が家に変えるため、ホグワーツ城はガランとしている。
クリスマスイヴにはパーティが行われた。通常は4つある長机が1つになっている。数少ない生徒が同じ机に寮関係なく座っている。
なんとなく眺めていれば、バチっと目が合った。
ハリーだ。
「…………」
「…………」
なんとなく気まずい。
ひとまず微笑んでおいたら、パッと目を逸らされた。謎だ。
クリスマス当日。目が覚めるとベッドの脇には沢山のプレゼントが積み上がっていた。
「今年も多いなぁ」
そんなことを呟きながら一つ一つ開いていく。
ダンブルドアからは百味ビーンズとレモンキャンデーの詰め合わせーーー1粒目はシナモン味だった
マクゴナガル先生からは折れにくい羽ペンセットーーーこれは大助かりだ
セブルスからは〈新版 世界の滅びた呪文集ーーーこれであなたも古代人!〉ーーー興味深いが古代人になれというのだろうか
生徒からのプレゼントもいくつかあったが、名前のないものもあった。
名前のないものはひとまず除けておく。
「これは………双子?」
恐ろしく派手な箱には、あの2人の名前の書いてあるカードが挟まっている。
恐る恐る開けてみれば、バーン!!という音とともに大量の紙吹雪が飛び出した。所謂ビックリ箱というやつだ。クリスマスカードを改めて読む。
〈ハッピークリスマス!ラミア教授。来年も楽しい授業を待ってるぜ! フレッド、ジョージ・ウィーズリー〉
元気な子達である。
家からも届いていた。屋敷しもべ妖精のサッティからは手作りクッキーだった。彼女のクッキーはとても美味しい。
屋敷にサッティと共に住んでいる彼からは、バレッタが送られた。
自分の瞳と同じ色したそれに、つい頬が緩む。5年ほど前から身元を隠して仕事にありついた彼は、容姿を隠しながら外に出ている。
物を彼からもらったのはいつぶりだろう。嬉しかった。
そうしてもう1人、毎年私にプレゼントを送ってくれる人がいる。彼は学生時代の友人だが、今でも時々手紙を送ってくれる。
無意識に最後に回していたようで、例年通り箱には天馬の書かれたカードがついている(昔一度どうして天馬なのかを聞いたら、なんとなくと答えられた)。
包みを開ければ、なるほど彼らしい。入っていたのはカエルチョコレートの詰め合わせと棒付きキャンディだ。チョコレートを1つ口に入れ、甘いなぁとこぼした。
因みにハリーとその友人、ロナルド・ウィーズリーとハーマイオニー・グレンジャーにもプレゼントを送った。
あの子達はきっとこの先も厄介事を引き起こすだろうと思い、役に立ちそうなものを送った。
ただし、匿名で。不審に思わないでくれればいい。
大広間に向かえば、殆どの教職員が既に席に着きクリスマスのご馳走を味わっていた。
「おはよう、ラミア」
「おはようございます、ダンブルドア。プレゼントありがとうございます」
「こちらこそ、綺麗なオルゴールをありがとう」
ダンブルドアにはその時の気分にあった曲を奏でるオルゴールを送った。
喜んでもらえたようでよかった。ある意味一番悩んだと言っても良いほど、ダンブルドアへのプレゼントは毎年困るのだ。
何人かの先生方と挨拶を交わし、いつもの席に座る。
「おはよう、セブルス」
「ああ、おはよう、ラミア」
「プレゼントありがとう。興味深い本ね」
「それはよかった。こちらこそお礼を言う。材料の整理に困っていたんだ。」
〈Mr.キラキラの整理箱ーーー綺麗好きの頂点へ〉は気に入ってもらえたようだ。
ご馳走にありついていると、巨大な音がした。生徒たちがクラッカーで遊んでいるようだ。飛び出したハツカネズミと戯れている。
少し悪戯しようか。
私は杖を取り出し、クラッカーから飛び出していた海軍少将の帽子に魔法をかけてやる。
それに気付いた双子が私の方を向いた(実に勘のいい子供達である)のでジェスチャーでかぶるように伝えると、双子は自身の兄であるパーシー・ウィーズリーに無理やりかぶせた。
するとぼん!という音と共に海軍帽子はカラフルな三角帽子になり、パーシーの頬にはサンタとツリーのペイントが浮かび上がった。そして極め付けは可愛らしい真っ赤な鼻だ。我ながらいいトナカイになったと思う。
生徒たちの笑い声と共に、ラミア教授最高!!という双子の叫びが聞こえた。
「そのペイントと鼻は、今日1日取れませんからね」
その声はしっかり生徒たちに聞こえたようで、パーシーの叫び声が大広間に響き渡った。
ダンブルドアのクスクスという笑い声が聞こえたが、セブルスの呆れたようなため息は聞こえないふりをした。
こうしてクリスマスはすぎていった。