謎の助手
グリモールドプレイスにラミアが現れなくなって二週間が過ぎた。その間に会ったハリーの誕生日にすら顔を出さず、ただ一つプレゼントとして防衛呪文についての本が届いていた。ハリーはハーマイオニーからラミアの兄についての話は聞いていたがお礼の手紙にそれについてを書くことは出来ず、ただ掃除していたら出てきた不思議なものを羅列するだけだ。
その間も不死鳥の騎士団員が何人も出入りしている。ハリーの知らない魔法使いも多く、その度にコーディに名前を聞くもののあまり覚えることはできなかった。
八月に入ってからはレギュラスはグリモールドプレイスにいることが増えていた。彼の家なのだから当然と言えば当然なのだが、七月はいないことが多かったのだ。ハリーはノックをしてそうっとレギュラスの部屋の扉を開いた。
「レギュラスさん」
「どうしました? ハリー」
あまり広くはない部屋でレギュラスは本を読んでいた。ハリーの訪問に顔を上げると、快く迎えてくれる。
「その、ラミアはどうしてる?」
「ああ、新学期の準備に追われているようですよ」
「準備?」
まったくグリモールドプレイスに来られないほどなのだろうか。なおさら心配になって顔を歪めてしまう。
「余り体調は良くないようです」
「え……」
「私からは何度かホグワーツに戻るのをやめるべきだと言って、彼女も悩んでいたようで」
「戻ってこないの?!」
「いいえ。状況が変わりました」
レギュラスが真剣な表情で本を閉じると、ため息をついてハリーを見た。
「いつもよりホグワーツからの手紙が遅いでしょう。闇の魔術に対する防衛術の教員がずっと見つからなかったんだ」
「そうなの?」
「まあ、死んだり止めたり監禁されていたりだから、誰もやりたがらない。ただ、先日それがようやく決まった」
「誰になったの」
「それは言えない。ホグワーツに行けばわかるよ。ただそれを聞いたラミアはホグワーツに戻ると言い切ったんだ。戻って、生徒に最後の授業をするとね」
新しい教師がどうしてラミアに関係があるのかわからない。ラミアの体調を考えれば戻らない方がいいのだろうが、それでもまたホグワーツで彼女の授業を受けられるのはうれしかった。
「ただラミアは去年以上に授業を受ける気だ。今までは三、四、五年生のみだったのが、今年は他の学年も授業を受けられる。あくまで希望式だけど」
「それ、ラミアは大丈夫なの?」
「大丈夫ではないだろうな。だから助手を呼ぶ予定だって」
「助手?」
「そう。ラミアがなかなか逆らえない相手」
そんな相手がいるのかときょとんとしてしまう。その様子にレギュラスは噴き出した。
「いるんだ、そんな相手が一人だけ」
「僕、会ったことある?」
「ないと思うよ。ここには来たことないから」
「騎士団の人ではない?」
「いいや、団員の一人ではある。ただ忙しいらしい。私は全く連絡とったことないから知らないけれど」
レギュラスは「楽しみにしているといい」とまた笑う。それ以上は何も語らなかった。
ホグワーツから手紙が届いたのはそれから三日ほど経ってからだった。新しい教科書は二冊のみ。そしてロンとハーマイオニーの手紙には、監督生のバッジが入っていた。
「懐かしいわ、監督生」
シンシアはふふふと笑いながら言う。彼女は学生時代レイブンクローの監督生だったらしい。
「監督生になってよかったことってあるの? シンシア」
「んー、大浴場が使えたことくらいかしら」
ハーマイオニーの問いにシンシアはそう答えた。隣にはコーディがクッキーを食べながら体を揺らしている。
「私は減点される側だったからなぁ。よくリーマスには怒られてたなぁ」
「それはコーデリアが夜中に他寮に忍び込んだり、ほかの授業に紛れたりするからだろう」
「え、そんなことしてたの?」
リーマスの苦笑いにコーデリアはカラカラと笑った。
「気分でいろんなところに行ったよ〜」
「それなのに成績が悪くないから先生も大変だったみたい」
「ねぇ、ラミアはどんな学生だったの?」
ラミアはここにいないが、彼女のルームメイトや学年の近いリーマスもいるから聞きたくなったのだろう。ジニーはワクワクしたような表情で質問した。
「どんな、かぁ。知識に貪欲で自分の好奇心の赴くままに自由に生きている感じ?」
「そうね。良くも悪くも自分勝手で狡猾で。多分レイブンクローじゃなきゃスリザリンね、ラミアは」
「え!?」
「確かにそれは言えてる。ラミアはグリフィンドールには向いてないし、ハッフルパフみたいな公明正大は彼女には全く似合わない言葉だ」
リーマスの言葉にその場の人間がみな頷いている。言われてみればスリザリン気質もあるかもしれないなぁとハリーは思った。
そして九月一日。ホグワーツでの新学期がまた始まる。