消えてしまった者たちへ
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  • 同族と信用


     九月に入りホグワーツでは新学期が始まったようだった。ラミアは徐々に体調を回復させ、ようやくレギュラスの手を借りつつグリモールドプレイス十二番地を訪れていた。

    「ラミア! 元気そうでよかったわ!」
    「モリー、心配をかけてすみません…」

     モリーは連絡の通り訪れたラミアを抱きしめると、随分回復した体に安心したように笑った。しかしその瞳を見て少し心配そうに表情を歪める。ラミアは右目に眼帯をしていた。

    「見えなくなったんですってね」
    「ええ。でも片目でも十分生活はできます。少し距離感がつかめなくなりましたが」
    「困ったことがあれば言ってちょうだい。私にできることがあれば力になるわ」
    「ありがとう、モリー」

     モリーは一年前に比べれば随分好意的になったと思う。彼女の中でどんな心境の変化があったのかはわからないが、ラミアからすれば特に何も変わらないというのが本音だ。
     するとその後ろからラミアとレギュラスの声を聞きつけたクリーチャーがとたとたと駆け寄る。

    「レギュラス様! ラミア様!」
    「ああ、クリーチャー。問題はない?」
    「もちろんでございます。お二人が不在の間もクリーチャーは不本意ながらこの者たちの世話を…っ」
    「よくやったな」

     レギュラスがクリーチャーの目の前にしゃがみ込み彼の頭を撫でると、クリーチャーは猫のように目を細めて顔をゆがませた。慣れていないのだろうが笑っているようだ。

    「みんな食堂にいるわ。長い話にはならないと思うけれど、体調は大丈夫かしら」
    「大丈夫ですよ。一年前に比べればずっと元気です」

     正直にそう答えればモリーにも伝わったらしい。ラミアはレギュラスに手を引かれたまま、ともに部屋に入っていった。


     ホグワーツには数名の団員が交代で警戒に当たっているらしい。ホグワーツ城の防御魔法などを考えれば過剰な警備なのだろうが、生徒たちの安全にもつながると考えたらしい。

    「ラミアの防御魔法はまだ効果があるんだろう?」
    「ええ。ただそれもあと一年持たないと思います。夏前にはおそらく切れてしまう。さすがに遠隔で張りなおすことはできないので、私としては一度ホグワーツに行きたいのですけど」
    「ダンブルドアが反対しているんだって?」
    「もう少し様子を見てから、と」

     ダンブルドアのことだ、何かしら考えがあるのだろう。しかし防御壁の期限もあくまでラミアの主観に過ぎない。それよりも早く消えてしまう可能性だってある。

    「それに一度個人的にホグワーツに入りたい事情があります。できれば冬が終わるまでに、一度」
    「それはダンブルドアを説得するしかなさそうだな。きみの防御魔法以外に壁があるとはいえ、多いに越したことはないし」

     リーマスの言葉に数名が頷いてくれた。ラミアだけの説得ではなかなかダンブルドアも折れてはくれないだろうから、ありがたい加勢である。
     その後は近況報告などが続き会議は大きな問題もなく終了した。
     


    「魔法は使えるようになったのか」

     会議の終了後、部屋を去ろうとしたラミアはマッド・アイに急に声をかけられ足を止めた。七月にマッド・アイがガランサス邸を訪れたときは会話をほとんどしなかったので、声を聴くのは久しい。

    「完全ではないですが、大方。レグにも手伝ってもらってますが、一般魔法は問題なく使えますよ。コントロールは変わらずできるので、消費の多くない古代魔法でも油断さえしなければ使えるでしょう」

     ラミアはマッド・アイの隣に腰を下ろし、言葉を続けた。

    「どうして何も言わずに帰ったんですか?」

     あの七月の話だ。様子を見に来ただけなのだろうし、特に話したいこともなかったのかもしれないがあまりに不自然だった。マッド・アイは一瞬黙り込んで、義眼をぎょろりと動かした。

    「お前が生きているのを確認できればよかった。お前も片目を失ったのだな」
    「色も、ですけど」

     お揃いですね、とは口に出さなかった。嫌な顔をされるのはわかっていたからだ。

    「義眼が必要なら言え。紹介する」
    「冗談でしょ。死んでもお断りです」

     どうして自分にそんなに義眼をつけたがるのだ。そう思いながらラミアは心から嫌な顔をして見せた。マッド・アイはまるで心外だとでもいうように表情をゆがませる。

    「義眼を付けたって見えるようにはなりませんよ。私の父だってどうやっても聞こえないままだったでしょう」
    「そうか…」
    「まあ、ありがとうございます。その気持ちだけもらっておきますよ」

     マッド・アイは納得したのかそれ以上は何も言わなかった。



     その後もラミアはガランサス邸とグリモールドプレイス十二番地を行き来しながら徐々に体調を戻していった。魔法に関しても少しは無理もしなければ戻らないとレギュラスに付き合ってもらいながら使用を重ねていった。
     目に関しては稀に距離感を違えることあるが、色がないことにはかなり慣れてきていた。それでも夜は明かりがなければほとんど何も見えず、魔法などの光に頼るしかない。

    「もし暗い中に取り残されたら、ひとまずその場を動かないのが最善かもしれないね」
    「僕が必ず見つけるから、むやみに魔法は使わないでくださいね」
    「わかったよ、レグ」

     過保護なくらいのレギュラスの言葉につい笑ってしまう。まあきっと自分から魔法を使ってレギュラスを探してしまうのだろうなと、ラミアは心の中で思った。





     ホグワーツのクリスマス休暇、ハリーとロン、ジニー達がグリモールドプレイス十二番地を訪れる日に合わせて、ラミアとレギュラスも彼らに会いに来ることにした。

    「お久しぶりです、ハリー」
    「ラミア! もう大丈夫なの?」
    「ええ。もう不自由はありませんよ」

     ハリーやほかの子供たちはラミアの眼帯姿に多少なりとも驚いた様子だったが、それでも彼女の元気な姿に安心しているようだった。

    「ブレスレット、ちゃんと身に着けていますか?」
    「もちろん。これが完成品なんでしょ?」
    「ええ、きっとあなたたちを救ってくれます。まあ発動しないのが一番いいのですけれど」

     ハリーとロン手首のブレスレットに安心する。ディゴリーを救ったときに比べればかなり改良が加わっており、万が一発動して蘇生したとしてもあの時のように本人の魔力を根こそぎ持っていくようなこともないだろう。

    「スラグホーン教授が魔法薬学に復帰したそうですね。彼の授業はどうです?」
    「まあまあかな」

     肩をすくめて苦笑いをするハリーに何かあったのだろうかと思うが、詮索はするべきではないだろう。

    「ねぇ、ラミア。半純血のプリンスって知ってる?」
    「プリンス? いえ、私は知らないですね。新しいあなたの肩書ですか」
    「まさか」

     ハリーは自分が今使っている魔法薬学の教科書の元の持ち主だといった。発行年から言ってラミアが在学していた頃の教科書らしいということだが、少なくともラミアには全く心当たりはない。

    「魔法界に王子はいませんからね。そう名乗る誰かがいなかったとも限りませんが、私は知らないです」
    「そっか。ありがとう」

     ハリーは少し残念そうにしていたが、すぐに話題をくるりと変えた。

     その後マルフォイとスネイプが何かを企んでいるらしいという話がハリーの口からされた。スネイプとナルシッサ・マルフォイが破れぬ誓いを立てたというのだ。

    「なるほど。まあミスターマルフォイが何かしらを企んでいるのは事実でしょうけど、セブルスはそれを聞き出そうとしただけでしょう」

     ラミアの言葉にハリーはまたかというように顔を曇らせた。きっとほかの団員にも同じことを言われたに違いない。

    「みんなそういうけど、それはダンブルドアがスネイプを信用しているからだって。ラミアも?」
    「私はダンブルドアがセブルスを信用しているとかそんなことは興味がないですね」
    「じゃあどうして」
    「簡単ですよ。私自身がセブルスを信用しているからです」
    「えぇ?」
    「私とセブルスをよく似ているんですよ」

     ハリーはひどく嫌そうな顔をしてそんなわけないと小さく叫ぶように言った。

    「どこが似てるのさ」
    「色んなところですよ。それに言ってしまえばその複雑な立場にいるのはレギュラスも一緒です」
    「まあ、そうだけど…」

     全く同じとは言わないが、ハリーには最低限届いたらしい。

    「この状況下では疑うことは非常に大事です。ですが必要以上の警戒は自身の視野を狭めることにつながる。少なくともあなたの周りにいる大人たちはそれを防ぐことに長けていますよ。一度深呼吸をして、よく考えてみてください」
    「わかったよ、ラミア」

     ラミアはハリーの頭を撫でる。であった頃に比べればずっと成長した彼だが、大人と子供の間にいるハリーにとって今は一番大人が信用ならないだろう。

    「ハリー、あなたは賢い。だからこそ立ち止まって振り返ることも大切なんですよ」

     贔屓目が入っていることは否定できないが、少しでも迷い悩む彼の力になればいいとラミアは思った。

    嫌いな色で塗りつぶして