消えてしまった者たちへ
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     年も明けて春になる。そろそろホグワーツに分霊箱の捜索と防御壁の張り直しに行きたいのだが、なかなかダンブルドアからの許可が出なかった。

    「焦りは禁物ですよ、ラミア」
    「わかってるよ」

     そうは言ったもののラミアはもともと気の長い方ではない。もういっそ押しかけてしまおうかと思っていると、見透かされたようにダンブルドアから手紙が届いた。
     内容はハリーが無事にスラグホーンから分霊箱の個数を聞き出したということと、そのハリーがマルフォイに怪我を負わせたということだった。
     前者に関しては本人を含めて七つだろうという推測だった。それならば破壊が済んでいる日記、指輪、ロケット。入手はしているが破壊はしていないカップ。見つかっていない髪飾りと、おそらく分霊箱となっているだろうあの蛇。これですべてのはずだ。髪飾りを見つけてさえしまえば、あとは蛇をどう表に出すか、という問題になってくるがそれはまた考えればいい。
     後者に関してはクリスマスの教訓が残念ながらハリーにはあまり響いていなかったということになるだろう。マルフォイは怪我だけで済み、すでに全快しているようで少し安心した。ハリー自身もちょっとした怪我のみで、もう傷もないようだ。
     そして最後にホグワーツへの入城の許可の旨が書かれていた。ほかの団員からの援護もあったのかもしれない。ラミアは急いで準備を済ませると、レギュラスにひとつキスをしてサッティの手を取った。

    「気を付けて」
    「うん、行ってきます」

     サッティの魔法で直接ホグワーツへ向かう。ラミアにできることはあと少しだった。



     時間はすでに深夜。ホグワーツに辿り着いたラミアはサッティの手を借りながら天文台の上へ向かった。視界は最悪だが、誰かの手を借りれば歩いたりすることにはかなり不自由しなくなっていた。とはいえたった一人で出歩くのは未だ不安は多い。サッティに助けられつつ塔のてっぺんに辿り着くと、ラミアは杖を取り出し振るった。
     樫の杖は黒檀の杖に比べれば防御に劣っているものの、この程度の防御魔法を使うには十分なコントロール力がある。完璧な壁を複製するのに時間はかからなかった。
     ダンブルドアから依頼されていたのはただ防御壁を張ることだけではない。ヴォルデモート卿や死喰い人はラミアが死んでいると信じているため、今後も防御壁が継続し続ければその死を疑う可能性があった。そのため外部からはその防御壁が徐々に消えかけているようなカモフラージュをしてほしいと頼まれたのだ。
     そんなことをすればラミアの死は疑われなくとも、ホグワーツに死喰い人が侵入しようとする恐れがある。しかしダンブルドアが考えもなしにそんなことを言い出すとは到底思えず、ラミアはひとまず言われた通りに魔法を施した。しかし今の時点ではほとんど変わらず二か月ほどで徐々に薄くなっていくように見えるだろう。

     ひとまず目的の一つを終え、髪飾りの創作は翌日に回すことにした。ラミアはサッティにハリーへの手紙を渡し届けてもらうと、また彼女の手を借りてガランサス邸へ帰った。


     翌日の夜、ラミアは冥界の部屋を訪れていた。少しすると冥界の部屋の扉が開き、ハリーがやってきた。

    「ラミア! いつ来たの?」
    「つい先ほどですよ」

     ラミアはハリーに座るように促し紅茶をいれる。ハリーが一口紅茶を飲んだところでラミアは口を開いた。

    「ミスターマルフォイに怪我をさせたそうですね」
    「……聞いたの?」
    「えぇ。理由は聞きません。ですがクリスマスに私が行ったことは覚えていますか」
    「覚えています」
    「ならいいです。自分でもそれが必要だと少しは思ったようですね」

     恐々と視線を落としているハリーはそれ以上は何も言わなかった。


     紅茶のカップが半分ほど減った頃、ハリーは漸く口を開いた。この沈黙に耐え切れなくなったのだ。

    「ラミアは何しに来たの?」
    「少し、探し物を」
    「探し物?」
    「そう。レイブンクローの髪飾りというものです」

     ラミアは杖を振って本を取り出すと、そのうちの一ページをハリーにみせた。そこには美しいティアラが載っていた。

    「どうしてこれを?」
    「あなたがスラグホーン教授から分霊箱の数を聞き出したそうですね。このティアラはその分霊箱にされている可能性があるんです」
    「分霊箱に?」

     ハリーは改めてじっとその絵を見つめる。そのティアラを見たことがあるような気がした。ホグワーツにいるのだからどこか銅像などで見たことがあるかもしれないが、ごく最近にこのティアラを間近で…。
     年老いた醜い魔法戦士の像……その頭にハリー自身が鬘を被せ、その上に古い黒ずんだティアラを置いた…。

    「ラミア、僕このティアラ知ってる…」
    「本当ですか! どこで!」

     ラミアは乗り出してハリーに興奮したように言った。

    「必要の部屋だ」

     つい先日、上級魔法薬の本を隠したその場所で、そのティアラを見たことをハリーは思い出したのだ。


     廊下を誰も歩かなくなるような深夜になって、ラミアはハリーの案内の元必要の部屋へ向かった。ハリーは何もない壁の前で「隠されたもののある場所が必要、隠されたもののある場所が必要、隠されたもののある場所が必要」と心の中で唱える。現れた必要の部屋の扉に二人で入り込む。
     ハリーは数日前の記憶を呼び起こすように隘路を通り抜けていった。辿り着いた酸をかけられた戸棚の前に、それはあった。

    「これ、は…」

     ラミアは震える手で魔法戦士の胸像の頭にのせられたティアラを手に取る。その瞬間背筋を這うような闇を感じて確信した。これで間違いない。

    「ハリー、お手柄ですよ」
    「探し物だった?」
    「ええ、間違いありません」

     ラミアは一つ深呼吸をして、ティアラを懐にしまい込んだ。早まる鼓動を抑えられないまま必要の部屋を出る。

    「ハリーはもう部屋に戻りなさい。私は校長の所に行きます」
    「一人で大丈夫? 見えないんじゃ…」
    「この程度の明かりがあれば問題ありません。おやすみなさい」

     ハリーはついてきたそうにしていたが、さすがにこれ以上深夜に彼を連れまわすわけにはいかなかった。ラミアはハリーと別れ校長室へ向かう。事前に聞いていた合言葉を言い、螺旋階段を上がっていった。



    「こんばんは、ラミア」
    「こんばんは、ダンブルドア。深夜にすみません」
    「大丈夫じゃよ。その様子では、よい報告が聞けそうじゃ」

     ラミアは懐からティアラを取り出し、机の上に置く。ダンブルドアは嬉しそうに笑ってそれを手に取った。

    「確かに分霊箱のようじゃな」
    「はい。ハリーのおかげです」
    「なんと。そうじゃったか」

     ダンブルドアはティアラをしげしげと見つめてテーブルに戻す。そしてラミアに向き直った。

    「では残りはあの蛇だけ、ということになる」
    「ええ。一番厄介ですね」
    「そういうわけでもないかもしれん」
    「どういうことです?」

     ダンブルドアは立ち上がり、部屋を歩きながら話し出す。

    「ドラコがわしの命を狙っているようじゃ」
    「ミスターマルフォイが? 何かを企んでいる可能性があるとは聞いていましたが、まさかあなたの殺害だなんて」
    「そうじゃ。そしてこのホグワーツに死喰い人を侵入させようと策をめぐらせておるようでの」

     一旦言葉を切ったダンブルドアにラミアはドキリとする。まさか。

    「おびき寄せようって魂胆ですか。防御壁の依頼も、それが目的ですね」
    「時が来たら知らせよう。セルウィンの防御壁が消え、そのタイミングでわしがこのホグワーツを離れれば、必ず死喰い人が動く。そのタイミングで分霊箱が複数破壊されれば、トムも出てこざるを得ないじゃろう」
    「正気ですか、校長。犠牲が出ますよ」
    「どう転んでも犠牲なくトムを殺せると思ってはおらんよ」
    「そうでしょうけど…」
    「生徒たちは寮にいれば安全じゃ」

     ダンブルドアらしくないとラミアは思った。とはいえ彼にも時間がないのは事実。私は懐からあの防御魔法のかかったブレスレットを取り出しテーブルに置いた。

    「これをお渡ししておきます。その片腕では十分に戦えないでしょう」

     ダンブルドアはそれを見たが、手を伸ばそうとはしない。そして驚きの言葉を口にした。

    「ハリーは死ななければならない」
    「は…?」

     ラミアは顔を驚愕にダンブルドアをじっと見つめる。ダンブルドアはラミアと目を合わせないまま続けた。

    「ハリーはトムの分霊箱になっている可能性がある」
    「何を言って…っ」
    「二人の杖が繋がり、ハリーは蛇語を理解できる。ハリーの中にトムの魂の一部が入っておるからじゃ」
    「そんなまさか…、分霊箱は本人を含めて七つのはずでしょう!」
    「トムにも自覚はないじゃろう。気が付いていればハリーを殺そうなどとするはずはない」

     ダンブルドアの言葉をゆっくりと咀嚼し、そしてようやく彼の言いたいことを理解する。

    「……私に彼を殺せと言うのですか」
    「そのブレスレットを持たせればよい」
    「完成はしましたが、完璧ではありません。ハリーに宿るヴォルデモート卿の魂を消すだけの死の魔法を、このブレスレットが防御できるとは到底……っ」
    「それでもやるのじゃ。きみの類稀なる魔力のコントロールなら、できると信じておる。たとえ魔力が減っておっても、支配することはきみの得意分野じゃろう」

     分霊箱となったハリーを殺す。考えるだけでも恐ろしいことをこの校長は簡単に言ってのけた。

    「それが失敗すれば私は私の光を失うのに?」
    「そうじゃ。だがきみがやらなければハリーが殺される。ハリーは生きて、トムを倒さなければならない」
     まるでハリーならヴォルデモート卿を殺すことができると言っているようだ。そんな確証どこにもないのに。彼はまだ成人もしていない魔法使いだ。

    「それにリリーの愛の魔法がある状態でハリーを殺すことができるのは、魔法を誰よりも理解するラミアだけじゃ」
    「リリーの愛を欺き、彼を殺し、彼にヴォルデモート卿を殺させる」
    「そうじゃ」

     ダンブルドアの言っていることは理解できる。だが、理解できるだけだ。ラミアは呆然とブレスレットを見つめる。彼の言うとおり自分ならできるのだろう。だがラミアは絶対の自信をもって彼に緑の閃光を向けられない。

    「時間を、ください」
    「もちろんじゃ」

     ラミアは夢であればいいのにと思いながらホグワーツを後にした。


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