空の感触

「これからクィディッチ選抜を始める!テスト内容は簡単だ ただ希望のポジションについて練習試合をしてもらう 今年の募集はチェイサーとビーター。その他のポジションには現在のレギュラーがつく 重要なのは勝敗ではなくチーム内での働き 理解したものからくじを引いてくれ!」




 レイブンクロークィディッチチームのキャプテンの声が響く。ラミアは兄から借りた箒を片手にくじの列へ並んだ。
 並んでいると突然後ろから話しかけられた



「セルウィンさん?」

「ん?あなたたちは?」



 ラミアに話しかけてきたのは二人の男子生徒。多分同い年か一つ下くらいだろうか。



「あ、初めまして レイブンクローの2年、セオドア・コレットと…」

「アントニー・クロムウェルです。去年のホグワーツ行きの列車の中で、僕たちの幼馴染のリリス・クレイトンが助けてもらったんです」

「去年の特急…?」



 ラミアは記憶を手繰り寄せた。確か上級生に道を塞がれていた時に、怯えていた1年生を何となく思い出した。



「ああ!あの時の女の子!リリスっていうんだ 元気?」

「はい、学校が楽しいみたいです」



 セオドアの言葉にラミアも笑う。



「でも、どうして名前を?」

「それはリリスが… セルウィンさん、順番です」

「ありがとう」



 気が付けば順番が回ってきていたようで、ラミアたちは一旦会話を終わらせるとそれぞれくじを引いた。ラミアはチェイサー、セオドアとアントニーはビーターだ。
 引いたくじにはAの文字。



「セルウィンさん、一緒です」



 アントニーが同じくAと書かれた紙を見せてくる。セオドアは面白くなさそうにこちらに紙を見せた。Bだ。



「ちぇ アントニーと一緒が良かったのによ」

「合格すれば一緒にできるよ」



 アントニーは面白そうにクスクスと笑っていた。








 ラミアは夏休みの間、兄に飛び方を教わっていた。もともと飛ぶことは得意だったが、スピードの出し方や切り返しのやり方、そして相手を欺くような飛び方を新たに覚えたラミアはクィディッチにおいて重要なスキルを身に着けた選手になっていた。
 セオドアとアントニーも抜群のバランス感覚とブラッジャーのコントロールは他の選手に比べて群を抜いていた。



「箒には昔から乗っていたの?」

「まさか、ホグワーツ入ってからですし。僕もセオも」

「え?」

「あ、僕たちマグル出身です」

「え?!」



 試合後、アントニーと話しているとラミアは予想外の言葉を聞かされた。てっきり魔法族の出身だと思っていたからだ。



「マグル出身でその飛行… 才能?」

「ですかね?」



 アントニーはよく笑うとラミアは思った。対してセオドアはムスッと立っている。同じチームの同じビーターのコントロールが悪くイライラしたらしい。







 試合を無事終え、十分ほど待たされる。上級生で話し合いが行われたらしい。
 レイブンクローが今年募集しているのは、チェイサー2人、ビーター2人だ。昨年チームの半分近くが卒業してしまったのだ。ラミアはそれを聞かされていたからこそ今年がチャンスだと思った。
 出てきたキャプテンは小さな羊皮紙を片手に持っていた。彼の声は良く響くとラミアは思った。



「それでは結果を発表する まずはチェイサー 3年ラミア・セルウィン、4年オーガスト・ベル」

「やった!」

「よし!」

「次にビーター 2年セオドア・コレット、同じく2年アントニー・クロムウェル」

「よっしゃ!」

「よかった セオ、がんばろう!」



 ラミアは結果を聞いて頬が緩むのを抑えられなかった。無事にセオドアやアントニーも合格できたことを嬉しく思った。



「合格者は残ってくれ それでは解散!」







 キャプテンの言葉にぞろぞろと生徒たちがスタジアムから去っていく。残ったのは今回の合格者4人とキャプテン、そして選手2人だ。







「合格おめでとう 君たちを歓迎するよ 俺は5年のキール・ライリー ポジションはキーパーだ キャプテンは今期から よろしくな」



 先ほどとは雰囲気が変わり、少し柔らかくなったような気がする。4人は少し緊張したように小さく会釈を返した。



「同じく5年、ルーク・リオンだ ポジションはチェイサー」



 ルークはラミアとオーガスト・ベルを見てよろしくなと笑った。好青年という感じだ。



「6年生のラディア・チェンバレンよ!ポジションはシーカー」



 ラディアは快活そうに言った。黒人だ。



「2年アントニー・クロムウェルです 経験は浅いですが、よろしくお願いします」

「同じく2年セオドア・コレットです よろしくお願いします。」

「3年ラミア・セルウィンです チェイサーに憧れて入りました よろしくお願いします」

「4年オーガスト・ベルです 去年はチェイサー募集していなくて諦めたんで、今年入れてよかったです」



 4人がそれぞれ自己紹介する。そしてまたキャプテンのキールが話し始めた。



「今年最初の試合は一月後のグリフィンドール戦 今年は選手の入れ代えが多いが、それを生かした新たな戦法で行こうと思っている 最初の練習は来週だ 遅刻は許さないからな」



 キールはワクワクしたように言った。初めてのキャプテンで不安も多かったが、どうにかなりそうだと思った。













 1か月後、ラミアは初試合。緊張していないといえば嘘になる。しかしそれ以上に興奮していることにも気が付いていた。兄やレギュラスが見ていたのはこんな景色だったのか。


 選手入場と共に地面を思い切りける。スタジアムの空中で周りを見渡し、そして空を仰ぐ。
 深呼吸をして空へ左手を伸ばした。ギュッと握るとドキドキしていた心臓が少しずつ落ち着いてくる。
 さあ、試合の始まりだ。



 グリフィンドールの新たなはキャプテン、ジョニー・グリーナウェイは五分五分の戦いに焦っていた。昨年まではもっと簡単に試合を運んでいたはずだと。今年のレイブンクローの選手の情報が少なかったこと、そして去年までビーターとして活躍していたカイル・セルウィンの卒業は考えていたよりグリフィンドールへ影響を与えていた。


 グリフィンドールのチェイサー、ジェームズ・ポッターは相手側の新たなチェイサーを観察しながら、試合を続けていた。試合中敵を観察するのはジェームズの趣味であり、勝因の一つだと考えていた。それに今回の新人には特異点とも呼べる選手がいることも、ジェームズは理解していたのだ。楽しそうにクスクスと笑いながら彼女へと近づく。ラミア・セルウィンだ。



「君、その飛行はカイルに教わったのかい?飛び方がそっくりだ」

「は……?」



 ジェームズの問いにラミアはあっけにとられたように間抜けな声を出した。しかし次の瞬間。ジェームズへ向かってきたクアッフルのパスをジェームズの手に渡る前に掠め取り、頭上を越えた。



「は……?」



 今度間抜けな声を出したのはジェームズの方だった。
 そのまま誰にも邪魔されることなくクアッフルをゴールへ入れたラミアがジェームズに向かって何か言っている。



 レグの仇だ



 声を発さずに届けられたその言葉にジェームズは一瞬反応できなかった。しかしそれを理解する間もなく試合は続行する。ジェームズはそれまでより楽しそうに試合を再開させた。




 ラミアはすっきりしたように空を飛んでいた。まさかあんな冷やかしを受けるとは思っていなかったが、度胆をぬくことはできただろう。ラミアはひとまず満足だった。

 その後も続々と点を入れていく。そしてラディアの活躍により、スニッチを無事捕まえレイブンクローはグリフィンドール相手に何年ぶりかの勝利をおさめた。












「おめでとうございます、ラミア」

「うん!ありがとう、レグ」



 次の日、図書室でいつも通り集まって話をする。レギュラスは希望通り今年はシーカーになっていた。だからこそ今回のプレイには意味があった。



「ジェームズ・ポッター相手に同じことをするとは思っていませんでしたよ」

「私もできると思わなかった でもレグはもうやり返しできないもんね」



 レギュラスの呆れたような嬉しいような声色に楽しそうに返す。



「レイブンクローが優勝するんだから!」

「スリザリンも負けませんよ」



 新たな好敵手に2人は楽しそうに笑った。













「見事にやられたな、ジェームズ」



 親友の言葉に少しムッとしたが、やられたのは事実だ。



「カイルの妹があんなにうまいと思わなかった…」

「グリフィンドール生の全員が思ってることだな、それ」

「あ、そう言えば」



 ジェームズは試合中から引っかかっていたことを思い出した。



「ねえ、君の弟ってスリザリンだよね」

「レグのことか?」

「そう!それ!」

「はぁ?」



 ジェームズの不可解な発言にシリウス・ブラックは困惑した。弟がどうしたというのだ。



「去年のスリザリン戦、覚えてる?」

「覚えてるけど… そう言えばカイルの妹はあの時のお前をまねたのか?」

「多分ね でも、問題はそこじゃない あの子、レグって呼んでたんだ、君の弟のこと」

「………はぁ?」



 弟のレギュラスを愛称で呼んでいるのはてっきり自分だけだと思っていた。



「あいつ、友達いたんだな」

「それも試合の仇を討つような、ね」



 シリウスは自分の知らない弟の姿に少し困惑したが、それ以上に弟の友人というものが気になった。

嫌いな色で塗りつぶして