喪失
ホグワーツを卒業して数か月、ラミアはまだ慣れない仕事に奮闘していた。
そんな中ラミアの屋敷へやって来たのは、ブラック家の屋敷しもべ妖精のクリーチャー。酷く狼狽した彼にラミアはすぐに気が付いた。レギュラスに何かがあったのだと。
クリーチャーは言った。レギュラスは家族には何も言うなと言ったが、ラミアは家族ではないから。そして助けを求めに来たのだ。
そして洞窟の奥、ラミアはレギュラスを見つけた。
毒を飲んだという彼はひどく衰弱していた。しかし、死なせるわけにはいかなかった。場合が場合の為、聖マンゴに運ぶわけにもゆかず、セルウィン家で看病した。セルウィン家の蔵書を片っ端からもう一度読み、レギュラスを助けるためやれることは全てやった。
洞窟から助け出してから、7日。彼は目を覚ました。
「レギュラス!!」
「っ…………」
数日ぶりに開いた瞳は、鋭い光に眩しそうに何度も瞬きした。声を出そうにもヒューヒューと風がなる。
「落ち着いていいよ。ゆっくり深呼吸して。そうすれば声も出るから」
「…………」
目を覚ました彼に、ラミアは浮かれていた。だから違和感に気が付かなかったのかもしれない。もしかしたら気が付いていても認めたくなかったのかもしれない。
「っぁ……」
「レグ?」
「……あなたは…………
誰ですか……?」
「え……?」
レギュラスは記憶を失っていた。
仕事場に頼み込んで新たに4日間の休みをもらった。ラミアにはやることがあった。
「レギュラス・ブラック……」
「そう、それがあなたの名前。」
記憶を失った彼に情報を包み隠さず与えることだ。だがきっと目を覚ましたばかりの彼には信じられないようなことばかりだろう。クリーチャーにはレギュラスが生きていることは誰にも言わないように言った。約束を破ることはないだろう。主人の命がかかっているのだから。
ラミアは屋敷の周りに強固な防御呪文を施した。セルウィンの防御魔法だ。これが効いている限りレギュラスの存在が漏れることはない。たとえ闇の帝王であろうと。
「レギュラス……」
ラミアは一人ベッドに横になり、親友の名を呼んだ。だが、ラミアしかいない部屋から言葉が返ることはない。
コンコン
ノックがなった。ラミアは上体を起こしどうぞ、と声をかける。こんな時間にラミアの部屋を訪ねるのはサッティくらいだ。だが聞こえた声は思いもかけないものだった。
「ラミア様……」
「クリーチャー?」
「こんな時間に失礼します。」
腰を低くしてそろそろと部屋に入ってくる。レギュラスに用だろうかとラミアは考えた。
「どうしたの?レギュラスなら一階の客間にいるよ」
「いいえ。貴女に渡すものがあるのです。」
「私に?」
クリーチャーが差し出したのは一通の手紙。差出人が書かれていない。しかしラミア・セルウィンの字にはラミアにとってとても馴染みのある字体だった。
「これ、……レギュラスから?」
「そうでございます。洞窟へ向かう前日、レギュラス様に言付けされました。ラミア様に渡すようにと」
きっとレギュラスは死ぬ気だったのだ。だからラミアにこの手紙を残した。
「ありがとう、クリーチャー。確かに受け取ったよ」
「はい、ありがとうございます」
クリーチャーは部屋を出て行った。
私は震える手のまま手紙の封を解いた。