真実を知るもの
晴れた初冬のある日、レギュラス・ブラックの葬儀が行われた。ラミアによって伝えられた弟の死にシリウスは未だそれを信じられずにいた。
「シリウス、大丈夫かい?」
「ジェームズ……」
いつになく暗い顔をしたシリウスを心配したように親友のジェームズ・ポッターが声をかける。
「おかしいよな 仲が良かったわけじゃない、最後に何を話したかも覚えてないんだ それなのに俺はまるで信じようとしないんだ」
「…僕には兄弟はいない けどそうゆうもんなんじゃないかな 何があっても血を分けた兄弟、それが揺らぐことはないんだよ」
ジェームズの手がシリウスの肩に乗る。少しだけ視界がはっきりした気がした。
故人の遺体のないまま葬儀は続いていく。ラミアは人気のない式の端でただその進む先を見続けていた。
「レグ……」
レギュラス・ブラックは例のあの人に恐れをなし死喰い人を抜けようとして仲間によって殺された。まことしやかに囁かれるそれにラミアは愕然とした。しかし真実を知っているのはきっと自分と例のあの人だけなのだろうと、どうしようもないのだと思い知らされた。
少し遠くにシリウスとジェームズの姿を見た。するとジェームズもそれに気が付いたようで、シリウスに短く耳打ちをすると一人でラミアのところへやって来た。
「久しぶりだね、ラミア」
「うん……」
「今回のことは残念だった…」
ラミアは視線を下げジェームズの言葉を聞き流そうとした。しかし、ジェームズの言葉は予想外だった。
「レギュラスくんは本当に死んだの?」
「え………?」
「死体がないのもそうだけど、あの杖彼のじゃないだろう?」
魔法界では故人の杖は共に埋葬するか火葬するかまたは誰かが受け継ぐのが一般だ。例によってレギュラスの杖は故人のいない墓に埋められるよう計らわれていた。
今まさに埋められようとしているその杖を視線で指し、ジェームズは何でもないように言った。
「どうして?どうしてそう思ったの?」
ラミアはいつもと変わらない様子で聞いた。しかし今までラミアにジェームズを騙しとおせたことなんて一度もなかった。
「わかるよ。レギュラス君は杖の持ち方に癖があったからね。付け根の近くに爪の痕があったのを見たことがあるんだ。」
「爪の痕……?」
「そう。でもさっき見たらそれがなかった。あれは彼の杖じゃない。」
ジェームズは杖を見たまま答えた。
「ラミア、何か知っているんだね?」
それは問いというより確信に近いものだった。ラミアは小さく頷くと杖を取り出した。
「人に聞かれるわけにはいかない」
杖を振れば誰にも会話は聞かれない。
ジェームズは感心したように周りを見回した。誰も自分たちに気付いていない。
「生きているんだね、レギュラス君は」
「うん。今はセルウィンの屋敷にいるよ」
「どうして死んだことに?」
「記憶がないんだ……」
「記憶が……?!」
ラミアはゆっくりと落ち着いて話をした。話を終えるとジェームズは顎に手を当て考える素振りを見せた。
「確かにその状態じゃあ生きていることにするのは危険だね。あのヴォルデモート卿を裏切ったんだから。……そのロケットはどこに?」
「クリーチャー……ブラック家の屋敷しもべ妖精が持ってる。壊せと言われてもどんな魔法でも壊せないうえにどんなものか全くわからないし……」
「僕も調べてみるよ。闇の魔術の類だろうけど、ヴォルデモートがそこまでして隠して守りたかったものなんだから……」
ラミアは小さくありがとうと言った。ジェームズは一瞬驚いたようにラミアの顔を見たがその泣きそうな表情を見て優しく笑った。そして彼女の頭にぽんと手を乗せると言った。
「君は親友を守っただけだ。何を背負っているのか僕にはわからないけど、君のしたことは間違ってないよ」
「っ……!」
「それにお礼はいらない。その代り……」
「代り……?」
「うん。そうだなぁ……」
「考えてないの?」
そこまで言って何も考えていないとは。ラミアはつい呆れた声を出してしまった。ジェームズは楽しそうに考えて見せる。そしてものの数秒で笑顔をラミアに向けた。
「僕たちの子供を守ってくれるかい?」
「子供?……できたの?!」
「いいや、まだだけど」
できてもいない子供を頼まれるとは……。
「でもあなたたち二人がいるんだから私は必要なの?それにシリウスもいるよ」
「それでも、君は身内に対しては甘々だからね。それを僕たちの子供にもしてほしいだけさ。それに人間何があるかわからないじゃないか」
「物騒な」
「物騒なのは僕じゃなくてこの時代さ」
言っていることは最もだがその代りの頼みはなんともジェームズらしかった。
「ちなみにレギュラス君のことを知っているのは?」
「私とジェームズとクリーチャーだけ」
「わかった。安心していいよ。僕、口固いから」
「うん、ありがとう」
「ロケットのこと、毒のこと、記憶のことは僕の方でも調べてみるから。何かあったら連絡するよ」
「わかった。セルウィンの屋敷に入れるようにするよ」
ラミアの言葉にジェームズは少なからず驚いたらしい。入っていいのかい?とジェームズは問うた。
「いいよ、別に。それにあまり手紙でやり取りするべき内容ではないから」
「それもそうか。ひとまず抱え込まないように!僕もリリーもシリウスも心配するから」
「ありがとう リリーにもよろしくね」
「了解。またね」
「うん、また」
魔法を解いて2人は何もなかったかのように離れる。だがラミアは少し楽になったように感じた。一人で背負うにはそれは重すぎたのだ。
ジェームズとリリーの子供。女の子でも男の子でもきっと可愛いんだろう。ジェームズが言ったように身内に甘い自覚はある。
ズルいかもしれないが既にその子を光にしようとする自分がいることにラミアは気付いていた。それが正しいことなのかそうでないのか、きっとわかるのはもっとずっと先のことだとそう言い聞かせて。