約束の場所

 入学から早くも2週間が経った。寮にも慣れ友人も増えた。だがレギュラスは初日の特急で出会った彼女にまだ会えていなかった。
 闇の魔術に対する防衛術の授業と天文学、薬草学はグリフィンドールと、魔法史と妖精の呪文はハッフルパフと合同授業だ。唯一変身学だけはレイブンクローとの合同授業だが、あのマクゴナガル先生の授業で話なんかできないし授業の前後で話をすることもなかなかできない。そのため目を合わせることすらできないでいた。


 レギュラスは授業の合間や昼休みによく図書室に籠っていた。もともと人付き合いの苦手なレギュラスは、友人とはいえ出会って間もない他人と行動を共にするのを苦痛に感じていた。7年間通う以上慣れなければならないのは本人が一番理解していたが、図書室で本を読むことが癒しになっているのも事実だった。
 その日レギュラスはいつも通り図書室に行った。だがいつも座って本を読んでいる長机には、赤いネクタイをした生徒が多くいた。グリフィンドールだ。レギュラスはグリフィンドール生が苦手だ。理由は簡単。兄シリウスがいるからだ。シリウスは学校内でも二年生にもかかわらずすでに名が知れていて、弟であるレギュラスもそれなりに名が知れていた。シリウスの弟として、ブラック家の次男として。

 レギュラスは他の生徒に気づかれないように、図書室の奥へ奥へ入っていく。記憶が正しければ、奥にも小さな机と椅子があったはずだ。途中必要な本を素早く選び、本棚の先へ向かう。しかし辿り着いたそこには思いがけない先客がいた。


「ラミア……!」

「レギュラス…?」


 そこにいたのは特急で出会った、ラミア・セルウィンだった。彼女は机に何冊もの本を積み重ねそのうちの一冊を手に取っていた。


「レギュラス、久しぶりだね。元気だった?」

「はい。あなたは?ラミア」

「元気だよ。学校って楽しいんだね。」


 ラミアは満面の笑みで綺麗に笑った。レギュラスはその笑顔を見て、すこしほっとした。癒されているような気すらした。


「いつもここにいるんですか?」

「ううん。そういうわけじゃないけど……。今まであんまり家族以外と一緒にいたことがないから……。」

「え……?」

「慣れないんだよね。だから時々一人になりたくて図書室に来るようになったんだけど……。今日いつもより人が多いでしょ?だからさ……。」


 レギュラスは目を見開いた。まさか同じことを考えていたとは。それに気付いて少し安心した。自分だけではなかった、と。


「僕も同じだ……。」

「え?レギュラスも?」

「うん。集団生活って想像以上に疲れるんですね。びっくりしました。」


 レギュラスは小さく微笑んだ。ラミアもそれに答えるように笑う。


「仲間だね。私たち。」

「そうですね。仲間です。」


 仲間という響きが驚くほど心に収まった。ラミアはレギュラスに向かいの席を勧め、自分は本を開いた。


「ここは静かだよ。あんまり人も来ないし、少しくらい話していてもばれない。穴場だね。」

「僕がいてもいいんですか?せっかくの穴場なのに」

「いいの。レギュラスなら。その代り、図書室に来たら、ここに来てね。約束。」


 ラミアは本を開いたままレギュラスに握り拳を差し出した。


「はい、約束します。」


 レギュラスは同じように握り拳を差し出し、こつんと合わせた。つい笑った。


 それから図書室に行くたびに奥の秘密の場所へ行った。独りの時もあれば、ラミアが一緒の時もあったが、レギュラスにとってそれ以上心地いい場所はなかった。

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