観戦と憧憬

「クィディッチ選抜に合格しました」

「え……? いつのまに……」

「チェイサーです シーカーが良かったんですけど、今のシーカーが今年で引退するそうなので、チェイサーで通りました。」

「チェイサーって点取る人だっけ?ボールもって」

「もしかしてクィディッチそんなに知らなかったりします?」

「します」



 ここは図書館。いつも通り2人小さな机で向かい合って各々読書や勉強をしていると、レギュラスから思わぬ報告があった。
 


「貴女の兄であるカイル・セルウィンはグリフィンドールで名ビーターとして活躍しているのに?」

「へぇ 活躍してるんだ 兄さま」



 レギュラスは驚いて声も出ないようだ。



「クィディッチの観戦には……?」

「行ったことない ルームメイトはいっつも見に行っているみたいだけど」

「驚きです 純血で、身内が活躍しているにも関わらず、見に行ったことがないなんて…!」

「純血は関係ないと思う」



 クィディッチが嫌いなわけではない。箒で空を飛ぶのは好きだし、得意だし、楽しいとも思う。だがわざわざ見に行くほどクィディッチが好きなわけでもない。



「今度、僕の初戦があるんです 見に来てください」

「え……」

「僕のデビュー戦です」

「………」

「来てくれないんですか……?」

「っ…… 行くよ!見に行く!」



 レギュラスにお願いされて断れるわけがない。それに折角のレギュラスの初戦、見に行こうと初めて思った。



「ちなみに対戦相手はレイブンクローです」

「え………」

「僕を応援してくれますか……?」

「んー」



 言っておくが私は自分の寮が好きだ。だからスリザリンを応援するわけにはいかない。しかしレギュラスの初戦……。



「じゃあ、基本的にはレイブンクローを応援する けどレグがクアッフルを持ったらレグを応援する それでいい?」

「はい!」



 レギュラスは嬉しそうに笑った。あまり感情を表に出そうとしない彼にしては珍しいほど清々しい笑顔だ。
 見に行く価値はあるようだ。











「え?! ラミアがクィディッチを見に行く?!」

「そんなに驚かなくても……」



 寮に戻り友人二人に話をすると、とても驚かれた。まあ今まで興味を全く示さなかったのだから仕方ないことなのかもれない。




「どうゆう風の吹き回しですの?突然」

「酷い言いようだね。レグがクィディッチ選抜に合格して、次の試合デビュー戦なんだって」

「スリザリンのレギュラス・ブラック?」

「うん」

「相変わらず仲がいいのね」



 ルームメイトの二人は私とレギュラスの関係について深くは聞かない。ただ図書館にいるときは必ず私たち二人が一緒にいることを二人は知っていた。というか隠すことではないと思い正直に話した。図書室に行くたびどこにいるのかと聞かれては堪らないからだ。



「ブラック君を応援しますの?」

「彼がクアッフルを持った時だけね 基本はレイブンクローを応援するよ」

「ならよかった さすがにレイブンクローの生徒がスリザリンの応援をしたら目つけられるもん」

「そうかなぁ……」



 個人の自由ではないかとも思ったが、やはりそうはいかないだろう。
 初めてのクィディッチ観戦、とても楽しみだ。








 
 レイブンクロー対スリザリン当日。スタジアムは熱気に溢れていた。こんなに盛り上がるものなのか…と一人関心しながら選手入場を見る。レギュラスが出てきたと思うと、スリザリンの客席から大きな歓声が上がった。



「な、なに?!」

「レギュラス・ブラックは人気なんだよ?知らなかった?ラミア」

「レグが人気?」



 コーディ曰く、レギュラスは純血の名家ブラック家の次男で長男ほどではないがとても容姿端麗。そして物腰の柔らかな話し方から、ファンクラブができるほどの人気ぶりなんだそうだ。



「確かに顔はかっこいいね」

「なに、今気づいたの?」

「……ん 考えたことなかった」



 彼が容姿端麗なのは認める。性格も悪くはない。そう言われてみれば彼がモテるのも理解できるかもしれない。しかし



「少し面白くない」

「あら……」

「なに?ラミア、嫉妬?」

「んー」



 これは嫉妬なのだろうか。私は今まで彼の一番そばにいると思っていたが、それはただの思い込みだったのだろうか。



「今は試合に集中しますわよ 今年こそレイブンクローは優勝よ!!」

「シンシア、クィディッチそんなに好きなの?」

「試合の時はいっつもこんな感じだよ」



 今思えば試合のたびに私を誘っていたのはシンシアだった。なるほど、これが原因だったのか。














「おはよう、レグ」

「おはようございます、ラミア」



 次の日、図書室に行けばレギュラスは私より先に来ていた。



「昨日は残念だったね」

「…そうですね まあスニッチを取られてしまったんですから、仕方ありませんよ」

「レグすごかった 箒乗るの上手だったんだ」

「そうじゃなきゃ選抜に受かったりしませんよ」

「それもそうだ」



 クスクスと二人で笑いあう。昨日の試合は途中まではスリザリンの優勢だったが、レイブンクローのシーカーがスニッチを捕まえ、結局はレイブンクローの勝利となった。レギュラスはスリザリンのチェイサーとして初試合とは思えないほど活躍し、人気の火に見事に油を注いでいた。



「クィディッチの試合、初めてちゃんと見たけどすごい迫力だね。あれは嵌る」

「貴女にもクィディッチの良さがわかったようでよかったです」

「私もやってみたいな」

「え……?」

「私もクィディッチの試合出てみたい」



 箒には乗ったことがある。というか長期休みには兄に誘われてよく乗っていた。森の中を飛び回るくらいだが……。



「今年はもう選抜終わってるだろうから、来年かな?」

「はぁ……」

「?どうしたの?ため息なんてついて」

「いや… 貴女の対応の速さに呆れ……感心しているんですよ」

「今、呆れって言ったでしょ 良いじゃん別に」

「悪いとは言ってませんよ」

「呆れは否定しないんだね」

「………」



 

 その後もレギュラスは試合で活躍していたが、本命はやはりシーカーらしく来年こそはと意気込んでいた。





 そして年度最後の試合。スリザリン対グリフィンドールの試合が始まる。



「この試合、ラミアのお兄さんの最後の試合でしょ?グリフィンドールを応援するの?」

「しない レギュラスを応援する」

「お兄様、泣くんじゃなくて?」

「今更妹の応援なんていらないでしょ? 名ビーターらしいし」



 溜息を吐く友人二人を後目に、目の前の試合に集中し始めた。




 試合はどちらも譲らない展開を見せた。レギュラスは今回も好調なようで、どんどん点を入れていく。稀にブラッジャーに邪魔されながらも、確実に点を稼ぐ。兄様が優秀というのは本当らしい。



「グリフィンドールも負けてないわね あのチェイサー、ジェームズ・ポッターですわ!」

「おお!すごい!」



 ジェームズ・ポッター。一つ上のグリフィンドールの生徒で、頭がよく人当たりの良さでとても人気なんだそうだ。今まで何度か大広間などで派手ないたずらを仕掛け、先生に怒られていたのを見たことがある。
 彼の動きは見事だ、と思った。目で追えないほどすばしっこく、的確なコントロールでキーパーの死角を突き点を入れる。



「すごい技術…… 本当に三年生?」

「確かに… あの飛び方、凄すぎる!」



 言いようは酷いが、本当にそう思った。


 こんなにクィディッチが面白い競技だとは思わなかった。私はこの数カ月で確実にクィディッチの虜になっていた。

 


「スリザリンのカウンターだ!!」



 知らない生徒の叫びで試合へ意識が戻る。スリザリンのキーパーがクアッフルを止め、チェイサーにクアッフルがまわったのだ。グリフィンドールのチェイサーが先回りし、スリザリンを止める。咄嗟の判断で、そのクアッフルはレギュラスへと投げられた。



「あ!!」



 そのはずだった



「ジェームズ・ポッターですわ!」



 それは一瞬だった。ジェームズ・ポッターがレギュラスへのパスを掠め取り、そのままレギュラスの頭を超えゴールへ直行。他の選手は状況を呑み込めていない。そしてジェームズ・ポッターはゴールした。

 スタジアムは一瞬の静寂。次の瞬間大きな声援へと変わった。



「なにあれ!すごい!」

「コーディ、さっきからすごいしか言ってませんわよ ですが、今のは本当に……!」



 シンシアは感動して言葉にならないようだ。私は目の前の状況に未だついていけていなかった。レギュラスが悔しそうに顔をゆがめている。それを見て自分の中に何か火が付いたような気がした。




 結局試合はグリフィンドールの勝利、そして寮杯はグリフィンドールのものとなった。レイブンクローはスリザリンに続く三位。ある意味例年通りだと何人かの先輩は言っていたが、私は自分が卒業するまでの必ず一度は寮杯を手に入れてやりたいと心から思った。

 勉強しかできないなどと思われてたまるか!

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