それはまるで

「あ……?」



シリウスは自分の部屋で小さく声を上げた。片手には羊皮紙の地図、片手には杖を持ったまま、首をかしげる。



「どうしたの?シリウス。忍びの地図に何か写った?」



同じ部屋でこの地図〈忍びの地図〉の製作者の一人であるジェームズはベッドに腰掛けたまま問いかけた。

〈忍びの地図〉はつい最近漸く完成した悪戯道具の一つで、ホグワーツ中の隠し通路が載っているだけでなく、誰がどこにいるかもわかる素晴らしい魔法道具だ。
もともとは人目を避けて移動することが必要な同じく同部屋のリーマス・ルーピンの手助けにと考えて作られたものだ。高度な魔法を使ったおかげで、形ができて一年が経った今でも不具合が絶えないが、少しずつ完璧に近づいていた。



「別に大したことじゃ……」

「それを決めるのは君じゃないよ」

「……人が消えたんだ」

「十分大したことじゃないか!誰がどこで?」

「……あ、うん」



 どうも歯切れの悪いシリウスにジェームズはシリウスにより、その手の中の地図を覗き込んだ。シリウスが見ていたのはホグワーツ城の五階。ジェームズでもそこへは地図を作る時ぐらいしか訪れたことのないような場所だった。



「ここに誰かいたの?」

「さっきまでな」

「誰?」

「……ラミア。ラミア・セルウィン」

「ラミアが?」



 なぜ彼女がこんなところに?それより消えたとは?



「ここって肖像画が並んでるだけの廊下だったよね」



ジェームズはシリウスのベッドにこしかけて問いかける。



「確かそうだな。目立った何かはなかったはず」

「秘密の通路があるとも思えなかったけど…」



しばらく二人で頭を回転させるが、謎は深まるばかりだ。何となしに地図の五階を眺める。すると思いがけない人物がそこへ現れた。



「レグ……?」



地図に現れたのはシリウスの弟レギュラス・ブラックの名前だ。レギュラスは五階廊下の突当りまで来ると唐突に歩みを止め、次の瞬間には消えた。



「は…?」

「消えたね……」

「なんでレグが……?」

「ここに何か通路か部屋かがあるのは確定みたいだね」



ジェームズは地図をトントンと指でたたいて小さく笑いながら言う。



「この際、君がなぜラミア・セルウィンの文字を追っていたのかは聞かないことにするよ」

「な……!!別に……」

「その代り、ここ見てきてよ。何があるのか」

「はぁ?!」

「あわよくば部屋に入って!」

「ジェームズは?!」

「僕はこれからクィディッチの練習なんでね。この時間ならあんまり生徒もうろついてないし、簡単だよ」



 呆然とするシリウスをジェームズは無情にも置いていった。







「はぁ……」



シリウスは5階までやってきて溜息を吐いた。忍びの地図を完成させたい。その気持ちは当然シリウスにもある。しかし、この状況はいかがなものか。



「何にもねえじゃねえか……」



そう。そこには不審なものなど何もないのだ。並んでいるのも何の変哲もない動く絵画たちだけ。他の廊下と何一つ違いなどないのだ。

ただこの近くにラミアとレギュラスがいる。ただそれだけ。

シリウスは両手で頭をがしがしとかき回した。何とも言えない感情が頭をぐるぐるする。弟とその親友が共にいる。その親友がラミアだというだけなのに。
クリスマス前にラミアとホグズミードに言ったことを思い出す。目的はレギュラスのプレゼント選び。悪い言い方をすれば相手を利用し、彼女も自分を利用していた。しかしその時からだ。『弟の親友』から『ラミア・セルウィン』という1人の相手として見るようになったのは。



「ラミア・セルウィン……」



 誰もいない廊下で小さく名前を呟く。それだけで顔が熱くなるような気がした。


 まるで みたいだ


 そんなことを考えてバカみたいだとまた溜息を吐く。
 

 シリウスにそれ以上滞在する理由はなかった。







「わからなっただぁ?!」

「ああ。はっきりいってなんの変哲もないただの廊下だった。信じられないならジェームズも行ってみればいい」



クィディッチの練習から帰って来たジェームズに正直に伝える。声を荒げた彼のもとに親友たちが集まって来た。リーマス・ルーピンとピーター・ペティグリューだ。



「大声出してどうしたの?」

「何かあったの……?」

「このホグワーツにはまだ僕らの知らない隠し部屋があるようなんだよ!それの調査をシリウスに頼んだのに、何もわからなかったって……!」

「隠し部屋……?」

「ああ。昼間にラミアが5階の廊下まできて地図から消えたんだ。」



怒るジェームズに対しシリウスは冷静、というか心ここに非ずといった感じだ。



「またラミアを追ってたの?シリウス」

「またって?今までもあったのかい?リーマス」

「お、おい!ムーニー、プロングス!」

「往生際が悪いぞ、パットフット。さあ話してくれたまえ、ムーニー」

「僕も聞きたいなぁ」

「ワームテールまで!こういう時だけ良い笑顔しやがって!」



シリウスにはもはや味方はいない。親友3人の楽しげな顔といったら……!

 リーマスはシリウスがことあるごとに忍びの地図で彼女を探していたことを事細かに語った。周りを観察することが好きなリーマスにとってそれほど面白いものはなかったらしい。



「これってやっぱりさぁ、あれだよねぇ」

「あれだろうねぇ」

「うん、あれでしょ?」

「なんだよ、ニヤニヤしやがって」



シリウスの機嫌は最悪だ。それを3人はニヤニヤと眺める。



「でも成長したよね。あのシリウスがさ」

「確かに。特定の子って初めてだし」

「シリウス、モテるからなぁ」

「なんのことだよ」



苛立ちを隠そうともしないシリウスの問いにジェームズは何でもない様に答える。



「だってそれ恋でしょ?」

「はぁ?」

「シリウス・ブラックはラミア・セルウィンに恋をしている。違う?」



まるで恋みたいだ



 あのとき思った馬鹿な考えは、的外れでもなんでもなかった。



 ジェームズに言葉に呆然とするシリウスが顔を真っ赤にするのはもう少し後のこと。







おまけ そのころラミアとレギュラスは……


「けほ。すごい埃」

「この部屋だけは手を付けたくなかったんですが……」

「そうも言っていられないよ。ここ仮眠室みたいだし、使えるようになったら便利じゃない?」

「あなた寮に帰らない気ですか……?」

「ま、まさか!ちゃんと帰るよ!」

「まったく。あなたのルームメイトがあなたを見つけられないとなったら誰のところへ行くと思ってるんですか?」

「レグです……」

「わかっているのなら無断外泊はしないでください」

「なんか言っていることがお父さんみたいだよ」

「文句があるの?」

「いいえ、ありません!」

「すごい早口」





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ユニカ拝様リクエスト
「ヒロインと弟の関係を知ってモヤモヤするシリウス、忍びの地図で冥界の部屋まで辿り着くもキーッとなるシリウス、そしてそんな彼を恋煩いだとからかう悪戯仕掛人」というリクエストでしたが、キーッとなってない……!ort
一応恋心に気づいていながらもシリウスの中でのプライドがなかなか認めず、でも親友の一言で自覚してしまうシリウスでした。ここのシリウスはあまりヘタレではありません。ラミアのこともレギュラスのことも想って行動します。だからレギュラスがラミアを泣かせたりレギュラスがいなくなったりすれば、容赦なく落としにかかります。不憫です←
ユニカ拝様のみお持ち帰り可です。
リクエスト通りの内容になったかは怪しいですが、楽しんでいただければと思います。リクエストありがとうございました!

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