ぬくもりの先

 スラグクラブ。それはホラス・スラグホーン教授のお気に入りの生徒を集めたクラブで、定期的にパーティが行われていた。
 ラミアは三年生のころからずっと招待されていたが、適当な理由をつけて断っていた。卒業した兄の代わりに招待されていると気付いていたからだ。
 しかし五年生になりそろそろ断る口実も尽きてきた。それにレギュラスは既に何度か参加をしているそうで…。本人は寮監である教授の誘いを断れないのだと苦笑いをしていたが。


 届いた手紙にはパートナーを一人連れてきてもいいと書かれている。今のところそんな当てもなく、ラミアはレイブンクローの談話室のソファーで1人紫のリボンを巻かれた招待状を眺めていた。



「それパーティの招待状か?」

「サイラス」



 彼はサイラス・ナイト。昨年卒業したレイブンクローのシーカー、ラディア・チェンバレンの後任で二つ下の三年生だ。サイラスは背が高く体格もいい。しかし箒に乗ると恐ろしくすばしっこく小回りが利くのだ。そんな外見と内面のせいか、ラミアは砕けた口調であることに何の違和感もない。寧ろそうでなければ違和感があるとすら感じていた。キャプテンであるアントニーはそれが少し気に入らないようだが。



「スラグホーン教授からの招待状だよ。流石にもう断れなくってね」

「いいじゃん!パーティ!すっげぇ楽しそう!」

「パーティ好きなの?」

「まあ、そうだな。俺の家貧乏だからそんなにパーティとか行ったことねぇんだ。華やかなんだろうなぁ。なんせスラグホーン教授のお気に入り、名門生徒ばかりなんだろ?」

「そんなことないと思うけど……」



 そう返して、ラミアは思いついた。なかなかいい案だと自画自賛しながら、サイラスに招待状を見せた。



「サイラス、私とパーティに行かない?」

「いいのか?!」

「もちろん。パートナーを連れてきてもいいと書いてあるからね」

「いや、そう意味じゃなくて…。俺でいいのかってこと」

「どうして?」



 ラミアは少し首をかしげて見せる。サイラスは頭を掻く仕草をしながら答える。



「だってラミア、レギュラス・ブラックと付き合ってるんだろ?」

「え…?あ」



 そういわれて気が付いた。つい先日ヒルダ・カヴァデールと出し抜くときにその嘘を使ったことを。



「あれね、嘘なの」

「はあ?」

「内緒だけど」

「何となく理由は想像つくな。でも、俺に話してよかったのか?」

「内緒にしてくれるなら?」

「なんで疑問形なんだよ」



 まあいいだろうとラミアは思った。それによって何かリスクがあるとも思えなかったからだ。



「まあ、そういうこと。じゃあ土曜日ね」

「ああ。ありがとな」



 きっとレギュラスはレギュラスでパートナーを見つけているだろう。そう思ったラミアは招待状を片手に部屋へ戻っていく。



「チャンスはあるってことか……」



 サイラスのつぶやきは聞こえなかった。






「来るんですか?スラグクラブ」

「うん、流石にね」

「めずらしい。そういうの嫌いでしょう?」

「嫌い。でもそろそろ断れないんだもの」



 冥界の部屋で2人向かい合って座り、読書をする。いつもと同じだ。しかしその日のラミアはいつもより機嫌が良いように見えた。



「機嫌がいいですね。嫌いなパーティに行くことになったのに」

「パートナーが面白い相手なの」

「パートナー?」



 レギュラスは眉間にしわを寄せラミアに尋ねるが、その表情にラミアは気が付かない。



「ええ。サイラスを誘ったの。パーティに行ってみたいって言うから」

「サイラス?シーカーのサイラス・ナイト?」

「そう。そのサイラス・ナイト」



 同じポジションである彼を当然レギュラスは知っている。知っているからこそ気に入らなかった。レギュラスはラミアがスラグクラブに来るならパートナーは当然自分であると思っていたからだ。



「レグは誰と行くの?」

「………」

「レグ…?」

「……まだ決めていませんよ」

「そうなんだ。楽しめるといいね」



 ラミアは笑顔で言う。それに他意がないことはわかっているが、レギュラスのいらだちは収まらなかった。






 土曜日の夕方、ラミアは着慣れない可愛らしいワンピースに身を包んでいた。会場の近くで待ち合わせをする。ラミアがそこへ行けば、サイラスは既についていた。



「ラミア!こっちこっち」

「サイラス!ごめん、遅くなって……」

「まだ時間あるし大丈夫だろ。それに可愛い!」

「え。あ、ありがとう」



 突然の褒め言葉にラミアは照れたように目をそらし、手を口元へ寄せる。慣れない服装に少し自信がなかったのだ。



「サイラスもかっこいいよ。ちょっとびっくりした」

「だろ?ラミアの隣にいてもおかしくないようにしないと」

「なにそれ」



 サイラスはニッと笑って見せる。格好は変わっても笑い方の変わらない彼にラミアもつられて笑った。





「おお!ラミア!来てくれたのか!」

「来るって言ったじゃあないですか、スラグホーン教授」



 会場にはすでに多くの生徒が集まり華やかな空気が流れていた。ラミアが現れたことで一瞬空気が止まるがすぐに元に戻った。そんな中スラグホーン教授は目ざとくラミアを見つけ話しかけてきた。



「信じていなかったわけではないよ。少し意外だったのだ。君はこういう場所好きではないのだろう?」

「わかってて呼んだんですか?」

「ははっ。なかなか君とゆっくり話す機会がないものだからね。で、君のパートナーはサイラスか!」

「俺とラミア、仲良いんで」

「ほっほう。そうだったのか。君の活躍はよく耳にするよ」



 スラグホーン教授がサイラスとの会話に夢中になっているうちに、ラミアは周りを見回してみる。すると一人の男子生徒と目があった。



「ラミア・セルウィン?」

「ダーク・クレスウェル?貴方も呼ばれていたのね」

「ああ。君が呼ばれていたのは知っていたけど、今回は来たんだ」

「珍しく、ね」



 ダークはレイブンクローの同学年だ。ラミアの記憶が正しければ彼はマグル出身だったはず。スラグホーン教授は差別をしないらしい。スリザリンの寮監らしくないと思った。



「自分で言うのか、それ」

「事実だもの。」

「そうかよ。まあ、楽しもうぜ」

「そうね」



 そんな会話を交わして、ダークと別れる。サイラスもスラグホーン教授との会話を終えたようで、一緒に食事を始めた。



「思ったより知り合いもいるもんだな。」

「魔法薬学は一年生からあるもの。スラグホーン教授の目に留まる機会は多いのかも」

「確かにそうか」



 そんな話をしていると、ラミアは後ろから名前を呼ばれ振り返った。



「ラミア」

「ん……?レグ!」



 名を呼んだレギュラスにラミアは駆け寄る。



「さっきはスラグホーン教授に捕まっていましたね」

「見ていたの?」

「目立っていましたから」



 クスクスと笑うレギュラスと共にサイラスの方へ戻る。するとサイラスはお久しぶりですと珍しく敬語でレギュラスに挨拶した。



「この前の試合ぶりですね」

「次は負けません。」

「チェイサー対決はともかくシーカー対決で負ける気はしませんね」

「あ、それはわかる。サイラスはまだレグに勝てないよ」

「ちょっとラミア!レイブンクローでしょ?!どっちの味方?!」

「大丈夫、次はスニッチ盗られても負けないくらい点取るから」

「スリザリンはチェイサーを鍛えないとですね」



 サイラスは不機嫌そうに抗議するが、2人の言っていることが最もなのだ。サイラスの実力ではレギュラスより早くスニッチを捕らえることはできない



「俺だって強くなる!」

「期待しているよ」

「期待しています」



 2人の言葉が綺麗に被って、2人は楽しそうに笑っていた。



「絶対負けねぇ!」



 いろんな意味でもとサイラスは意気込んだ。



「レグ。レグのパートナーは?」

「さっきまでは一緒にいたんですが、スラグホーン教授に捕まってしまったようで。」

「それは不幸だね。」

「彼女、魔法薬学の課題出してなかったみたいですよ」



 そう言ってレギュラスは苦笑いした。



「あ、漸く終わったみたいです。僕は戻りますね」

「あ、うん。またねレグ」

「はい、また」



 少し会話をしたのちレギュラスはその彼女の元へ戻っていった。彼女は自然な動作でレギュラスの腕に自信のそれを絡め、可愛らしく微笑む。レギュラスも微笑みを返していた。その微笑みが作っているものであることは知っている。それでもラミアはそこから目が離せなかった。



「ラミア?」

「あ。ごめん………。ぼーっとしてた。」



 ラミアの視線の先がレギュラスであることに気が付いたサイラスは、ラミアの手を取り笑顔で引く。



「あっちのテーブルにも行こう!」

「……うん、そうだね」



 満面の笑みにラミアも返す。今だけは彼の笑顔に救われた気がした。








 自分の隣で笑う彼女に、自分も笑みを返す。その彼女が自分の想い人でないことにレギュラスは苛立ちを抑えられない。だがそれを表に出すことはしない。
振り返り先ほど別れた二人を見れば、手をつなぎパーティを楽しんでいる。この手のぬくもりの先が、どうしてあの人でないのか。そんなどろどろとした感情が胸に広がっていた。
 しかしそれを悟られるつもりはなかった。誰にも気づかれないまま、自分の中へ押し込めるのだ。


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いらか様リクエスト
「レギュラス相手で報われない感じ」というリクエストでした!
一応5年生という設定です。
書いてて何度も報われそうになりました笑
ダメですね、気付いたらレギュラス甘々になってます笑
というわけで切なさ全開にしたつもりです(当社比)←
レギュラスの、夢主が違うパートナー選ぶんだったら自分も選ぶ!からの嫉妬です。でもそれを表に出すのはプライドが許さないレギュラスと、これは嫉妬?私はレグが好きなの?な夢主です。夢主は恋人(仮)事件から恋心を自覚しつつあります。レギュラスは随分前。
↑というのをちゃんと学生編でやりたい……!

いらか様のみお持ち帰り可です。
お楽しみいただければと思います!
リクエストありがとうございました!


補足
ちなみにダーク・クレスウェルは原作登場キャラです。6巻と7巻に出てます。が、年はわかりますが寮は不明なので捏造してます。

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