無意識に追う
「今日はどうする?パッドフット?」
「そうだなぁ。面白いことねぇかなぁ」
「図書室で何やるつもりなの?」
「あんまり騒ぐとマダム・ピンスに怒られるよ……」
悪戯仕掛け人。ホグワーツでその名前を知らない者はいないだろう。それほど有名になり始めた彼らが5年生になった今年、その活動は今までになく活発になっていた。年も明けて寒さに磨きのかかる2月、彼らは図書室に集まり悪戯の機会を伺っていた。
「マダム・ピンスに見つからないように。それがスリリングでいいんだろ?ワームテール」
「そうかもしれないけど……」
「安心しろって。俺たちが失敗したことあるか?」
「先週フィルチに捕まって罰則受けそうになってたじゃないか」
「そこは監督生であるお前が助けてくれるだろ?ムーニー」
シリウスはリーマスに調子よさそうに言う。それを否定できないリーマスは肩をすくませて少しだけニヤッと笑った。ほどほどにねとだけ言うと、心配そうなワームテールと対照的にジェームズは任せろと杖を手にした。
「僕は気付いてしまったんだよ。出来れば気づきたくはなかったけど。」
「そうか?俺は楽しそうだと思うけど…」
小声のままシリウスとジェームズはニヤニヤと笑い同じ方向を見る。その先には一組の男女。
「エバンズとスニベルスだ」
そこにいたのはジェームズの思い人であるリリー・エバンズとその友人セブルス・スネイプだ。
ジェームズとシリウスはにやけた顔を隠さないまま杖を握り直し、お互いを見て頷く。2人に存在を気付かれないよう、ゆっくりと近づくジェームズとシリウス。それを呆れてみるリーマスと心配そうなピーター。
「驚かすだけだよ、リリーがいるんだから」
「わかってるよ」
本棚の陰に隠れジェームズは杖を構える。スネイプに標準を合わせるのをシリウスは隣で見ていた。しかしその時リリーとスネイプの先に見覚えのある二人がいることに気が付いた。
「ちょっと待て!ジェームズ!」
「え、なに?!」
声を潜めたままシリウスはジェームズの杖を持った手に自分の手をかける。しかし既に呪文は杖から先へ向かっていた。
バシュン!
呪文が当たったのはスネイプのその先。偶然その場にいた、ラミアとレギュラスの真横の本棚だった。
1時間ほど前、図書館にやって来たラミアとレギュラスは変身術で出された課題に頭を悩ませていた。
「レグ、こっちにはみつからないよ」
「こっちにもないですね……。はぁ、マクゴナガル教授も意地の悪い問題を出しますね」
1時間近く経った今でも手掛かりすら掴めない2人はもう当てもなく本棚を見て回っていた。
「ああもう見つからない!図書室にならヒントがあるかと思ったんだけど…」
半ば叫ぶような声を出すラミアだが、マダム・ピンスに気づかれることはない。レギュラスが多少の物音なら響かないように魔法をかけているからだ。そうすれば2人で普通の会話をしていても誰も気づかない。2人はその魔法を図書室で見つけ、多用していた。
「あら、ラミア?」
「リリー!」
話しかけてきたのは一つ年上の友人リリーとスネイプだ。リリーはレギュラスを見て一瞬近づくのを戸惑うが、ラミアは気にせず駆け寄る。レギュラスは気にせず本を探し続けていた。スネイプは少し苦笑いをするとレギュラスの方へ行った。
「2人で勉強?」
「変身術の課題。マクゴナガル教授の授業が……。リリーたちは?」
「マクゴナガル教授、時々とても難しい課題を出すもの。私たちは魔法薬学について話していたの。私もセブも魔法薬学は得意だから。」
魔法薬学が他の科目に比べて苦手意識のあるラミアはただすごいと思った。スネイプとは今までほとんど会話をしたことがないため、魔法薬学が得意なのは初耳だ。
少しだけ世間話をして別れの挨拶をするとちょうどレギュラスとセブルスも話を終えたようで、ラミアはまたレギュラスと図書室を回り始めた。
「何の話してたの?」
「世間話ですよ。どちらにしろ寮に行けば会えますし」
「それもそうか。あの2人仲良いね」
「そのようですね」
後ろにいたリリーとスネイプに目をやると2人は楽しそうに話をしている。しかしレギュラスは興味なさそうに答えた。その様子にラミアは少しだけ笑うと、視線をレギュラスに戻す。
後ろから冷たい空気がラミアの背を撫でた。
バシュン!
「危ない!」
突然頭上で響いた音にラミアは一瞬何の音かわからなかった。レギュラスの声と同時にドンと肩を押されて咄嗟に目を瞑る。背中から床に倒れ自由にはならない手のひらをギュッと握った。
「な…に……!」
「っ……」
上からバタバタと何かが落ちてくる音と、レギュラスの小さなうめき声。すぐに収まったそれにラミアはゆっくりと目を開けた。
「レグ!だいじょう…」
「ラミア!怪我は?!」
レギュラスはラミアに覆いかぶさるようにして、降ってきていた本からラミアの盾になっていた。ラミアの言葉にかぶせられるようにかけられた言葉は、ラミアの無事を確認する者だった。珍しいレギュラスの大きな声にラミアは驚いて返事が一瞬遅れる。
「ないけど…」
「よかった……」
「レグは?怪我ない?」
ラミアの横に座り込んだレギュラスにラミアは手を借りながら上体を起こす。レギュラスはまだ立てないらしく2人は座り込んだままだ。彼は自分の頭に手をやると少し苦笑いした。
「流石に本は痛いですね」
「そりゃそうだよ。でもどうして本が落ちて…」
その言葉にレギュラスはラミアの背後に鋭い視線を向ける。睨んでいるのだ。ラミアは何か嫌な予感がして、ゆっくりと後ろを向く。
そこにいたのは驚いた顔をしたリリーとスネイプ。そして悪名高い悪戯仕掛け人の4人が立っていた。そのうちの1人、ジェームズ・ポッターの手には杖。誰がこんなことをしたのか、一目瞭然だった。
「ジェームズ・ポッター……。あなた私たちに何の恨みが…!」
「違う!誤解だ!」
「何が誤解ですか!」
ラミアが咬みつくように叫ぶ。ジェームズはあわあわと両手を振り否定しようとする。ラミアはギッと睨むと後ろから何の声もないことに気が付いた。レギュラスが何も言わない。どうしたの?と声をかけながら前を向く。
「レグ?……え?」
「レギュラス?!」
ラミアの目の前に目を閉じたレギュラスの顔が落ちてくる。ラミアにはゆっくりとそれが見えた。スネイプの焦ったような声が遠くで聞こえた。
気が付けばラミアの唇にはレギュラスの唇。何が起きたのかわからないまま硬直していると、レギュラスの頭はズルズルとラミアの肩に落ちた。
「レグ?!」
「どうした、レグ!」
レギュラスの兄であるシリウスがすぐに駆け寄る。ラミアはレギュラスの体を支え、反対の手で頬をぺちぺちの叩くが全く反応がない。
「レグ?!聞こえる?ねぇ、ねぇ」
「落ち着けラミア。多分頭を打って気を失ってるだけだ。」
「でも……!」
「大丈夫。医務室に連れていくぞ」
シリウスはジェームズたちの力を借りレギュラスを背負うと医務室へ向かった。
「大丈夫よ、ラミア。男って強いんだから」
「リリー……」
「だからそんなに泣きそうな顔をしないで」
「……うん」
リリーは冷えてしまったラミアの手をギュッと握って微笑んだ。
「ポッターには何か呪いをかけないとね」
一瞬にして変わったリリーの表情をラミアは直視できなかった。
レギュラスはパチリと目を覚ました。頭が重いような気がしてつい首をかしげる。すると上から聞きなれた声が降って来た。
「レグ!!」
「ラミア……?」
ベッドのそばで座っていたラミアは立ち上がり、確認するようにレギュラスの頭を触る。
「頭は?もう痛いところない?」
「ええ。ちょっと重い気がするけど、痛みはもうないよ」
「良かった……。さっきまでみんないたんだけど、図書室の片付けとマダム・ピンスに怒られに行ったよ」
「そっか……」
「水、飲む?」
レギュラスはラミアの差し出したコップを受け取りゆっくりと上体を起こした。そしてもう一人そこにいることに気が付いた。
「兄さん……」
「大丈夫か?」
「ええ。もう平気ですよ。あなたも残ってたんですね」
「一応兄だからな」
シリウスはにやりと笑った。レギュラスの頭にぽんと手のひらを被せると、無茶すんなよとだけ言って医務室から出て行った。
「シリウスがここまでレグを運んだんだよ」
「……そうでしょうね。他の人に運ばれる自分が想像できませんから」
「シリウスに運ばれる自分は想像できるんだ」
「………」
レギュラスは何も言わずに水を一口飲んだ。照れているのだろうなぁとラミアは思ったが、きっと言ってしまえば否定する。ラミアは何も言わずについ笑った。
「ありがとう、助けてくれて」
「いえいえ、咄嗟でしたから。ラミアも怪我はありませんか?」
「レグのお陰でね」
「僕も兄さんにお礼を言わないといけませんね」
「そうだね」
レギュラスはもう痛まない頭を重ねるように触った。
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三日月様リクエスト、学生編で事故チューギャグでした!
ギャグか?これ…ってなっているうえに事故チュー完全スルーしてます。というか当事者のうち一人は気を失っているという……!セルウィン嬢はあまり気にしてません。あら、鈍感←
因みにセルウィン嬢とレギュラス君は4年生です。時系列的には仲たがいの後くらい。シリウスとも普通に交流しているくらいです。
遅くなって申し訳ありませんでした。
これからもよろしくお願いいたします!
三日月様のみお持ち帰り可です。