またと願う

「ダリア」

「あら、シリウスじゃない。いらっしゃい」



白いベッドの上で1人読書をしていたダリア・スカーレットにシリウス・ブラックは声をかけた。ダリアは本を閉じ膝へ降ろす。



「ほら、この前の」

「ああ!ありがとう」



シリウスはひょいと小さな箱をダリアに投げる。その中には小さな真っ赤な花が一つ。



「でも意外だったわ。あなたがこんな可愛らしいものを作れるなんてね」

「これでも引く手数多なんだよ。このくらい作ってプレゼントすれば相手は喜ぶ」

「そうね。効果絶大だわ」



ダリアはその花を箱から取り出し光にかざすように眺める。その手は細く簡単に折れてしまいそうだ。ダリアは本当に綺麗と小さく呟いた。
その小さな手にシリウスは泣きそうになる。でもそれを出すことはプライドが許さない。シリウスはベッドの横の椅子へ腰を下ろす。



「どうやって作るの?」

「それを教えたら、お前はもらってくれなくなるだろう?」

「さあ?そうかもしれないわね」

「なら教えない。欲しいならいつでも作ってやる」



少し口をとがらせて言うシリウスにダリアはクスクスと笑った。



「そんなに安売りしていいの?」

「特別だ」

「あら。シリウスには特別がたくさんいらっしゃるのね」



ダリアはわざとらしく言って見せる。しかしとても楽しそうだ。シリウスはムッとしてダリアの手の中にあるそれをひったくる。



「ちょっと!」

「そういうこと言うやつにはやらない」

「狡い。私がその花好きなの知っているくせに。」

「自分の名前と同じ名前の花が好きだなんてなかなかのナルシストだな」

「あなたにだけは言われたくないわ!」



 真っ赤なダリアの花を加工して作られたコサージュ。ダリアはどうしてもそれが欲しいのだ。



「どうしたらくれるの?」

「ダリアが自分は俺の特別だって認めたら」

「認めているわよ。ただ他にも………ああ、わかったわよ!私はシリウスの唯一の特別。これでいい?」

「ああ!」



とても投げやりになっていたがシリウスは満足したようだ。珍しく笑顔でダリアにコサージュを渡す。ダリアは大切そうにそれを受け取った。
ダリアは微笑んだまま胸元へそれをつける。



「もうちょっとちゃんとしたドレスとかを着ないとダメかしらね?」

「いいや、似合ってるよ。とても」

「ふふ、ありがとう」



 優しく微笑んだシリウスにダリアも笑みを返す。



「また作って?」

「いいぜ。次は何がいい?」

「そうね、リコリスなんてどう?」

「……わかった。次会う時までに用意しとくよ」

「ありがとう」



次に会う時。それが訪れると2人は信じている。



「しばらく来られないかもしれない」

「そうなの?なら頑張って生きていないとね」

「……そうだな」

「私、リコリスのコサージュ欲しいわ」

「……ああ」

「だから早く来てね」

「ああ、もちろん」



きっと彼女が一番自分の命の短さを知っている。だからシリウスは何も言わない。何も言えない。
諦めないで生き続けてくれなんて、言えない。



「ずっと待っているわ、ここで。綺麗なリコリス、持ってきてね」

「世界一綺麗なリコリスを持ってきてやるよ。だから待っていてくれ」

「ええ、楽しみにしているわ」



 彼女は幸せそうに笑った。






彼にとって彼女は特別。彼女にとって彼は特別。

2人に残された時間はあと、少し。




ダリア:移り気、優雅、不安定
リコリス:次会う日を楽しみに

嫌いな色で塗りつぶして