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部屋を見渡してもただただ白いだけだった。
鉄格子のはめられた窓を覗いて見ても白い世界がずっと向こうまで広がっている。
ある看守が一言漏らしたことがある。
「下はあんなにも暗いのに。幸せだなお前は」と。

彼のいう下とはどれくらい下なのだろう。
そこではディメンターが私を逃すまいと四六時中見張っているらしい。だから逃げようとしても無駄だと、最初に釘を刺された。
そんなこと、初めから考えていないのに。

白が幸せ、何をもってそんなこと言ったんだろう。
ここは本当に白くて白くて。
白すぎるくらい何もなくて。
普通なら気が狂って3日も持たないんじゃないかな。
最初にここに通された時、私が感じた1番最初の感想はこれだ。

私がここに来たのは10歳のときだった。
そしてもうすぐ14になる。
丸3年、もうすぐ刑期を終えて晴れてここから出ることが出来る。

未成年の引き渡しには保護者の付き添いがーー

誰かがそんなこと言ってたな。
保護者なんてもういないのに。

お母さんーー
此の期に及んでお母さんの顔が浮かぶなんてどうかしてる。
もうお母さんなんて私の前に現れてはくれないのに。

そしたら私の引き渡しには誰が来てくれるんだろう。
誰も来てくれなかったら私は一生ここにいなきゃならないのかな。

もういいや。
なんでも。どうでも。
なるようになったらいい。


コツ、コツ、コツ、


そのとき誰かがやってきた。
それが誰かを確認する前に扉は開かれ
「出なさい」
ただそれだけを告げられる。


ああ、ついに。
ついにやってきたんだ。
この時が。

バタン。

「アズカバンに入って生きてる間に出られるなんて運がいい」

扉を閉じて地上に降りるための乗り物に乗ってる間、彼はこれだけを(私に言うというよりは独り言のように)口にし、それ以降はすっかり黙ってしまった。
私も特に話す必要などなかったので、2人とも沈黙したまま私は彼にひたすら付いて行った。

日の光が見えたのはそれからしばらく経ってからのことだった。



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