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結論から言うと、私の保護者として引き渡しに来てくれたのはハグリッドという名前のそれはそれは大きな人だった。話を聞いてみると、ハグリッドは私のお父さんと仲が良かったそうで、娘に何かあればと後見人を依頼していたそうだ。ハグリッドはこう言ってはアレだけど見た目とは裏腹に気さくで親しみやすく、私とは初対面のはずなのに「迎えに来たぞ」と、まるで本当のお父さんのように接してくれた。

「ほんでもってサラはお父さんと同じようにホグワーツへ行くっちゅーことでええんだな?」

ホグワーツはお父さんの行っていた魔法学校だ。
お母さんも同じように通っていたはずだけど、あまり多くは語らなかったし、私が知っているのは確か寮がスリザリンということだけ。

「うん。今からでも通えるなら..」
「それは大丈夫だ。ダンブルドア先生が是非にと言ってくださっちょる」
「ハグリッドも行ってたの?」
「ああ。俺とお前さんのお父さんとはそこで出会った。お母さんともな」

なんとなくだけどハグリッドはお母さんとはあまり仲が良い方ではなかったんだと思う。
お父さんのことを話す時はキラキラ輝いているのに、お母さんのことを口にするときはどこか遠慮がちだ。
もしかしたらお母さんが私から離れてしまったことを知っているのかもしれない。
そうは思いつつも私からもそれ以上聞くことはできなかった。

「ホグワーツからの手紙は俺が預かっちょる」

ほれ、と渡された手紙を開くと案内状と書かれて、新学期に必要なものがズラリと一覧で並んでいた。
ちょっと待って。私1番大切なこと忘れてたけど。

「ハグリッド!私お金持ってないよ!」

余分にというわけではなく、むしろ1シックルたりとも持ち合わせてはいない。
なんていうかホグワーツうんぬんの前にこれからどうやって生活して行くかの方が大問題である。

「安心せぇ。お前さんのお父さんがしっかり残してくれちょる。」

銀行にちゃーんとな。
なぜかハグリッドが胸を張ってそう言うけど、私は心中決して穏やかではなかった。



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ハグリッドがグリンゴッツ銀行に行くと言うのでついて行くと、あれよあれよとトロッコに乗って金庫の前にたどりついた。
「お前さんのお父さんが残してくれたものだ」
そう言って扉を開けると、目に入ったものは金銀財宝の山という山、もしかしたら一生遊んで暮らせるんじゃないかと思うようなものが部屋いっぱいに詰め込まれていた。
「嘘でしょ」
目が飛び出るとはまさにこのことである。

「お父さんが俺に鍵を預けていた。いつかサラに渡してくれってな」

そう言ってハグリッドは金庫の鍵を渡してくれた。
しかしこんな大金詰め込んだ金庫の鍵を家族以外に預けるってどうなの。いくら親友とはいえ普通預けれなくない?

心の中で何度も問いかけては見たものの一向に答えは出なかったし、ハグリッドに聞くのも野暮かと思ってこの件はサラリと流すことにした。


とはいえ、これでヘタしたら一生分のお金の心配は要らなくなったわけで、私の心はつい数分前とは違い晴れ渡っていた。

「今日はもう疲れたろ。買い物は明日でも出来るし、今日はここに泊まったらええ。」

着いた先は漏れ鍋という宿場で、部屋も予約してくれているという。
なんて素敵な人なんだろう。正直なところ引き渡された時はそのままの流れで身売りされるかもと思ってしまったけれど(ごめんハグリッド)、たかだか親友の娘ってだけでここまで面倒を見てくれるなんて。感動しすぎて涙が出そうだ。

「ハグリッド本当にありがとう」
「ええんだ。サラ、詳しい理由を俺は知らねえがきっとつらいことがあったんだろうな。でも心配すんな。これからは俺もいるし、学校で友達もたーくさん出来る」

だから大丈夫だ、とハグリッドはニカッと笑って励ましてくれる。

「うん。私頑張るね。おやすみハグリッド」
「おやすみ、サラ」

そう言って別れた後も、私は彼が見えなくなるまでずっと手を振り続けた。
「ハグリッド、ありがとう」
ハグリッドに会えて良かった。
外の世界に出てこられても私には居場所なんてないと思っていたのに、大丈夫だと言い切ってくれた。
もし万が一友達が出来なくても、私にはハグリッドがいてくれる。

それだけで前を向いて頑張れるように思えた。



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