赤いカーネーションー後ー


会社勤めを始めた七海とは卒業後も何度も会った。

嫌々という割に飲みに誘えば来たし、電話を入れれば忙しくても折り返して掛かってくる。たまに無視される事もなくはないが。

しかしつい先程七海はW名前の居場所は知らないWと答えた。
高専時代から彼女と仲が良かったのは誰の目にも明白。
灰原の件で二人がどんな話をして名前が辞める決断に至ったのか、想像に容易い。
七海は五条からの追求に至って自然に忙しいと言って電話を切った。
 
何か知っている、五条は直感した。



車を降りた五条は伊地知に待機しているように言うと、サングラスを指先で押し上げて目の前の高い商業施設を見上げる。

先程若い刑事の見せた画面を思い出しながら店内へ入れば、平日の昼間だと言うのに若い女性客が多くいた。五条が歩けば周りから視線が集まり、道が開ける。しかしそんな視線を物ともせず優雅に歩みを進めた。



「ちょっといいかな?」


ここだ、と見つけた横文字のアパレルショップ。入り口付近で商品を畳み直す小柄な女性店員に声を掛けると、いらっしゃいませ、と振り返る。

「忙しいのにごめんね、苗字名前いる?」

数秒時が止まった様に固まった彼女の顔が、ハッと我に返り強張った。眉を顰めた彼女は一瞬僅かに店内を振り返る。その瞬間、店内にいたスタッフ全員の空気が変わったのを五条は察知した。
やはり、何かある。


「......すみません、苗字は一身上の都合により退職しました」

緩く巻かれた長い髪を耳に掛けてそう答えた彼女に、へぇと五条は頷く。真っ黒に塗り潰されたサングラスをずらしてその綺麗な蒼い瞳に彼女を写す。

「やっぱり名前に何かあったんだね」

視線が合うと彼女の頬はみるみる紅潮し、パチパチと瞬きをさせる。もう一押し、と思ったところで五条と彼女の間にショートヘアの女性が割り込んだ。

「お客様、失礼ですが苗字とのご関係は?」

気の強そうな顔立ちに凛とした佇まい、おそらくこの子が店長なのだろう。名前がどこまで自分の事を話しているか分からないが、怪しまれても面倒だ。

「名前は僕の後輩だよ。まぁ、彼女が高校時代の話をしているかは分からないけど」

「高校の...?じゃあ、あの金髪の男の人も知り合い...?」

「七海の事を知ってるんだ、驚いたな。そう、金髪の奴も僕の後輩」


てかやっぱり七海嘘つきじゃん。
名前の同僚が知ってるってことは絶対名前と何かあったじゃん。まさか付き合ってる?それはないか。え、でもヤっちゃったとか?いやいやあの七海だぞ....、ないない。



「......もしかして、五条さんですか?」

「...僕の事知ってるんだ」

「あの、.....少し、お時間よろしいですか」


彼女は神妙な面持ちで蒼い双眸を見つめた。




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