雨の中のレイクタウン


普段は寄り道なんてしないで真っ直ぐ帰宅するのに、偶然その日は丁度切らした物があって歩くのも面倒で最寄駅近くのレイクタウンに立ち寄った。着いた頃はまだまばらだった雨粒が、レイクタウンを出る頃には段々雨足を強くさせていた。外階段に差し掛かったところで、下から女性と男性が揉めている様な声が聞こえてきた。
声の方を見れば長い髪を真っ直ぐに下ろした女性が、黒い服の男性に食いかかっているように見える。

「ちょっと!!」

「放せコラ!」

女性が男性の腕を掴む。すると男性が捕まれた腕を強引に振り払うと、その勢いで女性は近くのテラス席へ倒れ込んだ。男性はその様子を見ると、何か吐き捨ててその場を立ち去り、流石にやり過ぎだろ、と慌てて階段を駆け下りる。

「大丈夫ですか」

雨が強くなってきた。倒れた椅子を起こしている女性の上に傘を差して、かばんから取り出した未使用のタオルを差し出す。

「えっ?あ、ありがとう...」

驚いた様子の女性がこちらを向いて、差し出されたタオルを受け取った。うん、確かに気の強そうな人だ。



注意して逆ギレされることは今までもあったし、さっきの男みたいに手を挙げられたのも初めてじゃない。
だから一人で倒れてしまった椅子を起こすことも、私にとっては自然なことだった。むしろ声を掛けてくれる人の方が珍しくて、思わず反応が遅れてしまった。

「あ、ありがとう」

お礼を述べて顔を上げると目が合った。あ、とまた反応が遅れてしまいそうになる。どこかの制服を着る彼は、傍に倒れた椅子を起こし始めた。
もう一度彼を見る。眠たそうな目が印象的な、綺麗な顔の男の子だった。



「ありがとね」

「いえ」

彼は全て元に戻すと、まるで何事もなかったかの様に立ち去った。

いい子だったな〜...まぁ、ちょっと愛想はないけど...

「あっ!タオル!」

自分の首にかかったタオルに気付き、彼の歩いて行った方へ慌てて追いかける。
しかし彼の姿はもうどこにもなかった。



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