チャイムと同時に学校を誰よりも速く教室を飛び出した。後ろから友人の「苗字テスト勉強はー?」という声が聞こえたが、そんな事より今は見届けなければいけない事がある。
(あ、いた!)
潤一と以前話した公園。乱れた息を整えながら、様子を見守るだけ、と心に決めて、集まった潤一達からは見えない位置に身を顰めた。
自分と潤一達の間の遊具の影に、見慣れた二人の後ろ姿がある。なんだ、みんな見に来てるじゃん。
「話が....、話があるんだよ!」
大和達から少し離れた位置で潤一が声を張り上げる。潤一の反対に立った男の子たちは数人いて、小石を潤一に向かって投げているようだった。なんで一人に向かって石なんて投げるんだよ、と苛立ったが、ふぅと息を吐いて込み上がる怒りを鎮める。暑くて汗で張り付いた前髪を掻き上げる。落ち着くのは俺の方だ。
「もうやめたら?話があるってるんだから」
「当てるわけじゃねーよ!」
拓海の声がして、静止するかと思いきや、大和は手の上で弄んで投げてた小石を、もう一度潤一に向かって投げた。
その石は、潤一が避けた事で右足のあったところに落ちる。
「避けんじゃねーよチクリ菌!」
大和がそう言うと、他の子たちも口々に「チクリきーん」と言って潤一は眉を八の字にして俯いた。
それに笑った大和が「今度は当ててやるよ」ともう一つ小石を拾う。
「大和くん!」
注意するような声色で潤一が名前を呼んだが、大和の投げた石は、カンッと音を立てて潤一の立つすぐ横の滑り台に当たった。
「あっ」と思った瞬間、目の前にいた大人二人が立ち上がって視界が遮られる。
「ちょっ、見えないんですけど」
「名前くん!?」
しーっ、と人差し指を口元に当てれば、驚いて振り向いた二人はもう一度子供達の方を向き直して凝視する。
至近距離まで距離を詰めた大和が、潤一の目の前で石を投げよう手を上げる。潤一がギュッと目を固く瞑ったかと思うと
「やめろー!!!」
石を持った大和の右手を潤一が両手でつかんで止める。大和は潤一を足で蹴って捕まれた腕を振り払うと潤一は砂の上に倒れ込んだ。
「なにすんだよーっ!」
起き上がった潤一が大和にしがみつくが、大和に殴られてしまう。
何度倒されても、その度に起き上がり挑む潤一の姿に、思わず名前は手をきつく握りしめた。
「おい行くぞ!」
「やめろよ!1対1だろ!」
大和に加勢しようとした子供達が潤一に近付こうとすると、拓海が叫んだ。しかしその言葉を無視してその場にいた拓海以外が大和に駆け寄って加勢する。
「止めないとっ!」
「だめ!」
慌てて飛び出そうとする摩耶の腕を引いて止め、だめだと何度も首を振る斉藤さん。
その顔は辛そうに歪んでいて、摩耶を握る手は震えていた。
「泣いてんじゃねーよチクリ菌」
蹲って泣き出す潤一に、大和がとどめと言わんばかりに足を振り上げる。が、しかしそれは潤一が避けたことで、空振りに終わった。
「痛ってぇー!」
転んで尻餅をついた大和が大袈裟に足を庇って蹲る。すると加勢していた子供達が大和を支えて立ち上がらせ、「行くぞ」という大和の一言に公園を去って行った。
残された潤一と、最後まで手を出さなかった拓海が、何も言わずに視線を合わせる。
「...大丈夫?」
拓海が潤一に歩み寄り、潤一の目の前にしゃがむと手を差し出す。
「...うん」
それを握って潤一が立ち上がると、「ごめん」と拓海が頭を下げた。
「...うん。僕も悪いとこあったし」
「行こ」
「うん」
潤一に拓海が肩を貸して、二人はゆっくりと公園を出て行った。
「...まだ解決はしてないけど、第一歩だよ...あれ?摩耶、いつからいた?」
「えぇっ!?いつからって、ずっといたし、あたしが出て行こうとしたら斉藤さん止めたじゃん!」
「あぁ〜、そうか...」
「そうかって...斉藤さんも必死だったんだね」
「だけどさぁ、拓海くん言ってくれたね、「1対1だろ」って」
「いや〜、一人で立ち向かって行く潤一くんはかっこよかったよ〜」
「...おーい、そこの親馬鹿2人」
名前が呼ぶと、振り返った二人は顔を見合わせて笑った。
「...だけど、あの子達はあの子達、あたし達はあたし達。子供に愛情を注いでも、あたし達の所有物じゃないんだからさ。二人ともありがとね、来てくれて。」
「...別に」
「よーし、おはぎ食べまひょー!」
「えぇ〜?また〜?」
「名前くんも来るでしょ?」
「いや、俺は帰ります」
「えっ帰るの?」
「一応受験生なんで」
そう言うと摩耶は「受験かぁ〜、拓海もあと5年もすれば、受験なんだよな〜」と呟いた。
頑張ったな、潤一。
拓海もよく勇気出したよ。
熱くなった目頭を押さえて、名前は帰路に着いた。
あっ優里ちゃんからライン