永久の愛と代償

「俺が入り浸って、貴女に近づく者が減ったかと。」

矢のように雨が降りしきる外を眺めながら徐に口を開いたかと思えば、法正は目を細めて隣で佇む彼女に呟いた。

「…………どうかなさったんですか?」

「この屋敷は以前もっと賑やかで、貴女の周囲にはいつも人がいましたよね。ですが、今ではこうして静けさが目立ちます。」

「はい……確かに人は沢山いましたけど、皆さん忙しいみたいで、なかなか来れないみたいです。」

「本当にそうですかねえ。」

「…………?」

こてんと首を傾げるななしを見下ろして、純粋というか天然というか、人を疑う事を知らないその瞳に法正は上機嫌そうに喉を鳴らして笑う。

「別に法正さんがいるから来ない、という事はないと思いますよ?」

「やれやれ、本当にお人好しというか……。これでも俺は悪党ですよ、人徳なんてつくづく無に等しいかと。」

「…………。」

「ああ、やはり貴女は、少し変わったお人だ。」

苦々しく笑む法正。暫し黙り込んだ後、ななしは法正の横顔を見上げながら、

「例えそうだったとしても、私にとって法正さんは……最愛の人です。」

「……………、…………そうか。」

その言葉は誰よりも嘘偽りがないのが分かる。かれこれ彼女との付き合いは四年と少しになるが、今でもその絶対的な信頼性が色褪せる事はない。数々の裏切りや流言を浴びてきたこの身であるからこそ、ななしのような真っ直ぐで芯の強い女性に強く惹かれたのだ。

例え自分の行いの所為で周囲が彼女を忌避する結果に導いてしまったとしても、今更手放すつもりは毛頭ないし、最後まで守ってやれる自信もある。劇薬だろうが報復だろうが何でもやる。でなければこうして毎日顔を会わせたりしないだろう。

「ななし。」

その白く細い手を握って、ゆっくりと立ち上がらせる。自分より背の低い彼女に目線を合わせながら、不安そうに曇らせた表情に応えるように、

「……寂しいとは言わせませんよ。この悪党が、何人分でも相手しますから。」

手の甲に口づけを落とす法正。

「そ、そんな、寂しいだなんて……。」

「ええ、知ってます。貴女が俺以外を求めた事なんてありませんからねえ。」

意地悪そうな笑みを見せつければ、気恥ずかしそうに目を逸らして小さく唇を結ぶななし。

「どうせ酷い雨だ。啼いたって誰にも届きはしない。」

嘸かし甘い声を聞かせてくれるんだろう?耳元で低く囁やけば彼女はふるりと肩を震わせて、余裕の表情で口角を上げる彼の胸元へ縋るように額をくっつけた。
















「あっ……ん…………。」

「あんまり煽らせないでくださいよ……ただでさえ理性を保つのに苦労してるんですから。」

「そんなこ、と、言われて、も。」

「………、あんまり愛らしい事をすると、俺も手加減しませんよ。」

法正によって剥ぎとられた衣服は不要と言わんばかりに皺くちゃに放り捨てられ、骨張った指が這う度に靭やかな身体をくねらせてななしは必死に声を押し殺す。

「……ふ、いつ見ても、唆るな。」

曝け出されたふくよかな二つの果実が淫靡に揺れ動けば、それに誘われるように自然と唇は引き寄せられていく。ぽってりと艷やかな唇でぴんとした突起部分を含み、厭らしく舌を這わせれば、びくびくと四肢を痙攣させて蜜壺をしっとり濡らしていった。

「あぁ……っ、や、だ………おかしく、な……ちゃ…!」

「それでいい。もっと、俺の前で乱れてみせろ。」

「ひ、あ……ああぁ…。」

空いた指を一本、また一本、双丘の狭間を往復しては粘液を絡めていく。上で必死に唇を噛み締めて堪えようとするななしだが、柔い肉壁を割って異物が侵入した途端それも容易く崩れていく訳で。

「や、っ……ああっ……!」

「ああ、癖になりそうですよ……。」

関節を曲げて刺激すればそれに反応して収縮し、加えて飾りを舌で転がして歯を軽く立てれば余計に締まりが良くなっていく。法正はその快感がどうしても忘れられず、思い切り突起を吸い上げれば、押さえていた筈の甲高い声が一気に漏れ始めた。そして蜜壺の潤いが更に増しては押し込めていた指に生々しい液体がねっとりと絡みついていく。

「どうです?貴女も癖になりそうでしょう……。」

「あ、う……っ、法正、さ………っ。」

「……字で呼べ……ななし……。孝直と、その愛らしい唇で、俺の名前を呼んでみせろ………。」

口を魚のようにぱくぱくさせて、乱れた呼吸のまま彼の闇い瞳を見つめる。

「孝、直………孝直………さ……っ………。」

「そうだ……そうやって俺だけを求めろ……どうせ此処にいるのは俺とななしだけだ………。」

引き抜いた指は滑くる液を纏わせながら、そのまま己のそそり立つ男根と入れ替わるように先端が濡れそぼつ丘に充てがわれる。先程とは桁違いの異物に反応して、胎内が震えてそれを今かと待ち侘びていた。

「このまま、一生誰も来なくていい………いっそ、二人だけになってしまえば………こうして………。」

存分に愛せるのだからと、色気に包まれた法正は妖しく笑う。そうして狭い中を割って容赦なく奥へと挿入していく感覚にななしも思わず身体を浮かせて息を呑んだ。これが初ではないとはいえ、未だ硬い肉壁が彼の物を弄るように刺激していく。

「ぐ………これだけでも、吐き出しそうですよ……。」

「あっ………や、くる、し………っ!」

「ここで、退いたら、生殺しもいいところだな……!」

しっとりと額に汗を浮かべた法正だが、彼女の腰を掴んでは深く沈めて、最奥まで押し込めると混ざり合った透明な液が勢い良く溢れ出した。太腿を撫でるようにその液は流れ落ちて、じんわり床に染みていくのを眺める法正はやけに満足気だ。

「此処も、外と同じで洪水だな。」

「おねが、い……耳元は、だ、め……。」

「ぞくぞくするでしょう……?こんな雨じゃ声も届かないので、敢えて耳元で言ってあげてるんですよ。」

「うう、意地悪な、ひと………あんっ!」

ずぶ、敏感な内部を擦るように動けば、ななしの身体はみるみる快感に飲まれて崩れ落ちていく。それを支えようと法正は彼女の腰部分をより一層強く掴むが、それが逆に刺激を増幅させてしまったようで、逆らう意思とは真逆に甘ったるい嬌声が響きわたった。

「意地悪なのはどっちですか。俺をこんな風にさせたのは唯一人貴女だけですよ。」

首を横に振って懇願する様がより堪らなく興奮させ、ぶつけて、ぶつけて、鍛えられた腹筋は彼女の白い柔肌を蹂躙していく。首から足にかけてつけた赤い花弁は自分の所有物と言わんばかりに鮮やかに散らされていた。

(まるで、犯しているようだ)

普段から慎ましく大人しい彼女だが、この時ばかりは淫らに堕ちていくのが分かる。しかし、他の女とは違って自ら喘いだり媚びたり、男を喜ばせようとわざとらしい声を上げる事は一切しない。自然とその身を委ね、無意識に相手をその気にさせてしまうのだから、法正は己が手で自ら攻めたくなってしまうのだ。

「あっ、そ、れ…っ、嫌ぁ………!」

「嫌じゃないだろ……っ、良がっている証拠に、身体は素直に受け入れてるぞ………。」

わざと接合部を擦り合わせて艶めかしい音を聞かせれば、耳まで真っ赤に染めて涙を浮かべるななし。

「孝直………さん………っ。」

「……………っ。」

呼び声に応えるようにそのまま開いた唇を塞いでは舌を捩じ込ませ、逃げる彼女の舌を捕まえて執拗に攻め立てていく。互いの唾液を絡めながら深い接吻を繰り返し、器用に腰を揺らして下の口も塞いでいく。

「あ、あ……もう、わた、し……。」

「……たっぷり味わえ……。」

じゅぶじゅぶとわざとらしく卑猥な音を立てながら抜いて挿して、絶妙な快楽を味わいながら法正は更に加速させていった。子宮口を叩くように幾度も激しく穿てば、遂にななしの身体は弓が撓るように綺麗に反れて、強力な締め付けと共に彼は息を詰まらせて思わず顔を歪ませる。

「……………っ、ぅ……………。」

「…………随分と長い間一緒に過ごしてきたが………何も、変わらないな………。」

「…………勿論、です。………私は、あの時からずっと貴方の事だけを考えていましたから。」

仰向けに寝転ぶななしの髪束を掬って鼻先を寄せ、その花のような甘い香りを嗜む。

「悪党な俺を忌避せず、いつまでも慕ってくれる。一生かけても恩返ししきれないでしょうね……。」

「いいえ、恩返しは、もう十分、貰いました。」

「…………まぁ、恩返しだけが全てではないですからね。俺だって愛する心くらいは人並み程度に在る。

実際、恩返しなんて口実に過ぎないし、ななしを愛した事は偽りなき本心ですよ。」

「ふふ………嬉しいです。でも、私から見ると……貴方からは、人以上の温かい愛を感じます。」

微笑むななしは法正の髪をそっと撫でて、

「とても優しい人です、孝直さん。」

これ以上はないと言わんばかりの穏やかな声色でそっと語りかけた。

「………………。」

面を食らったように目を眇める法正は未だ繋がったままの中にさらなる熱を感じ取り、いよいよ堪えかねて苦悶の表情を見せた。

「…………っ、あの、そういえばまだ……。」

「ええ、そうですよ。貴女だけが快楽に溺れて、俺はこの通り置いてけぼりです。」

「………ごめんな、さ………。」

再び掴まれたら、もう逃げられない。

「ああ、俺は優しいですからね……三回で許してやる。」

「ひっ………それは、私の言う優しさじゃあ……ああっ!」

それから腰はすっかり砕けて、中が溢れる程に満たされたのは言うまでもない。

















「どうも、今日も平和ですね。」

「はい、すっかり二人だけになりましたから。」

「寂しいか?」

「いいえ、全然です。」

あれから月日は経ち、この屋敷に訪れる者は殆どいないに等しくなった。それでもななしは寂しがる様子もなく、法正といる時間をより大切にしている。

「行かなくて大丈夫ですか?」

「ええ……まだ少し時間ありますからね。それに、こうして貴女の顔を見ないとやる気も出ません。」

「う……なんだか、照れます。」

「それ以上の事をしているのにか?」

「もう、言わないで下さい………!」

ぱしんと背中を叩くが、悪びれる様子もなく笑う法正。

「でも、ありがとうございます。更に元気が出ました。」

「それは何より。軍議が終わったら何処か行きましょうか。」

「はい、貴方となら喜んで何処でも。」

どちらからともなく交わされる口づけ。時間の許す限り甘い時間を過ごして、名残惜しそうに法正は軍議へと向かっていく。

それを見送りながら、一人ななしは晴れた空を大きく見仰いで

「………もう、随分と一緒にいるんですね。」

ふと、本当の恋が始まった昔日を思い出した。
まだ此処に来て日も浅い頃、あらゆる方面から法正という男の噂を耳にし、口を開けば根っからの悪党だの徳性はないだのと印象は頗る最悪だった。しかし実際に出会ってみて話していく内に彼の良い所を沢山知り、気付いたら恋に落ちていた。

……分かっている、この屋敷に人が一切立ち寄らなくなった確かな理由を。加えてこの身さえも忌避されている事を知っていながら、それでも愛する彼の為に最後まで笑顔でいようと決めたのだ。

「例え全てを失ったとしても、貴方だけは絶対に失いたくない。」

永遠の愛と引き換えに己の自由を差し出す。

「心から愛しています。最期の時まで、どうか、私に守らせて。」

彼から貰った首飾りを握り締めて、祈る様にそっと瞼を閉じた。