※「法正先生と私2」続編
「……………………はい?」
「だからね、恋のライバル。」
目の前にいる友人、明希から出た言葉に理解が出来ず能天気な頭をゆるゆる回転させていく。
「私、女、恋、ライバル、敵。」
「そう、だからななしは結構ピンチよ。しかも相手は大企業のご令嬢らしいじゃんか!…家柄では完全に負けたわね。」
彼女が言うにはやや大企業の社長の娘と法正先生が婚姻関係を持っていると言う噂話。彼の追っかけである女子生徒がウェディング店で二人が仲睦まじく歩いているのを目撃したらしく、間違いないという証言がここまで広まったのだ。
先日の勉強会という名の強制執行で法正先生も相当の金持ちだという事は分かっている。故に話の筋は通っているし、彼にそういう女性がいてもおかしくはないだろう。
だとすれば今の自分は、
「えっと、つまり私の立場は浮気女って事になるのかな………。」
「でも先生はななしの事が好きだって言ったんでしょ?だったら……でもそうか…そんな言葉は幾らでも出るっていうか……ああもう、とにかく今は様子を見るしかないんじゃないかな。
ましてや噂話、嘘かもしれないしね。」
「……先生と生徒の関係、そんなのって……相手に最悪な印象を与えてしまうかもしれない………ううん、絶対に与える。」
そんな感じでうだうだしながら貴重な昼休みは過ぎていき、話題の中心である彼の授業が始まった。
見る限りではいつもと変わらない雰囲気、ぼんやり彼の姿を見ているとふと合う視線。
「…………っ。」
危ない、彼の目は獲物を狙う獣の目付き、ずっと合わせていたら後々食べられてしまうだろう。バレないようにさり気なく前髪を耳にかけて教科書へ目線を落とす。
好きな低い声は先程の話の所為でほとんど耳から抜けていき、授業がまともに入ってこない。
仮に女性がいるのなら、自分は結婚するまでの遊び相手なのだろうか。何れ飽きたら捨てる、最初からそのつもりだった、そんな言葉を突きつけられそうでいよいよ怖くなってしまう。
「…………ああ。」
本当に処女を捧げてよかったのだろうか、それすら疑う程にじわじわ追い詰められていた。
「さようなら。」
すれ違う先生方に挨拶を済まして廊下を重い足取りで歩く。明希は部活の集まりで一人で帰ることになったので、仕方なく今だけは孤独と仲良しこよし。
が、ふと先の話を思い出すなり足を止めて再び考え込んでしまう。
「………ふう、これから、どうしようかな。」
「どうするんだ?」
「ん………そうですね、とりあえず話し合いか………ら?」
独り言に誰かが割り込んだ事に思わず肩を震わせ、咄嗟に後ろを向く。するとプリントを何枚か携えて面倒くさそうに立っている、今は出来るだけ関わりたくない法正先生の姿。
「あ……いえ、買い物の話です!今日は何を食べようかなーっと……母親と一緒に。」
「………そうか。」
触れようと彼が手を伸ばした瞬間、自分の身体は無意識に後退りをしてしまう。目を見張りそれを怪訝そうに見る法正。
刹那、瞳が揺らぐのを見逃さなかった。
「………どうした。」
「………いえ、何でも無いです。えっと……ごめんなさい、急いでるのでさようなら、先生。」
横を過ぎ去って一気に走り抜ける。鞄につけた二つのストラップが複雑に絡まる程無我夢中に足を動かし、そうして彼の姿が見えなくなったのを確認して切らした息を整える。
「………どうして。」
そんな愛おしそうな目を向けるのだろう。
「…………あ。」
無事に帰宅し携帯のディスプレイを見ると彼からのメールが一通届いていた。
『机に手提げを忘れている』
しまった、呆けていた所為で横に掛けていた手提げ鞄をすっかり置いてきてしまった。急いですぐに取りに行きますと返信して着替えたばかりの服を脱ぐ。
速攻返信が来たので脱ぎかけのまま携帯を見れば、
『持っていく』
との一言。つまりこの家に来る事。
「………いやいやいや!」
慌てて文字を高速でタッチする。すると下でインターホンの音が響いた。
「いやまさか……宅配ですよね。」
窓の隙間から下の玄関を恐る恐る覗くと、それはもう驚く事に涼しい顔で立っている法正先生。黒い車が端の方で待機しているのを確認し、どうりで早いわけだと渋々納得せざるを得ない。
同時に母親は翌日まで帰らない事を不覚にも思い返す。それどころか父親も出張で暫くは家に帰って来ることもない。偶然が偶然を呼び、つまるところ、この家には
「…………完全に、終わった。」
何度も鳴り響くインターホンを他所に、膝を付いておいおいと悲嘆に暮れた。重い足取りで延々と続きそうな階段を降りて行き、鍵をゆっくり解錠。遠慮がちに開けば少し不機嫌な先生が見える。
「………ほら。」
「わざわざありがとうございました。」
手提げを貰おうと手を伸ばすが何故か鞄を後ろに引っ込めてしまい、玄関に出していた片足がつんのめって体勢を崩してしまう。当然身体は彼に向かって倒れていくので咄嗟に目を閉じた。
しかし襲ってくるのは痛みでなく、彼が優しく抱く逞しい両腕。
「……………ごめんなさ……っ!」
「………どうして避ける。」
離れようと押し返すが、がっちりと硬められて抵抗が出来ない。
「さ、避けてなんていませんよ。ほら、今もがっちり抱きしめられています……し。」
慌てて言葉を探していると一層強くなる抱擁。その度に心は酷く痛んだ。
「………離してください、もう平気ですから。」
「………嫌ですよ。」
返答はまるで駄々をこねる子供の様。
「お願いですから。私、最低な女になりたくないんです…。」
「……どういう事だ?」
「………自分の心に聞いてみてください。」
かつて言われた台詞をそのまま返す。腕の中で無理に笑って手提げを取り、緩んだ隙に体を離して階段を駆け上った。
だが、開いたままの扉は拒む事なく彼を中ヘと誘う。
鍵をしていない彼女の部屋へと歩み寄ったら最後、法正の理性は音を立てて崩れ始めたのだ。
「ひ……っ!やだ、や………ぁっ!」
「……っは、どの口が言うんだか。」
蛇の様に這い寄る舌は彼女の敏感な所を隈なく弄り、引き剥がそうと抵抗する努力も虚しく脚はがくがくと暴れだす。捲れたスカートは所々透明な液に塗れ、それが邪魔になったのか彼はホックを外して無造作に放り投げてしまう。ぺちょっと重い音を立てて床に落ちたスカートを見て尚顔を紅潮させた。
「嫌という割に下は随分と素直に糸を引くものだな。どうだ、生温くて粘りのある新鮮な気分は。」
「あぁ……駄目……!」
「お陰様で指もすんなりと食われる。」
太く長い指が肉壁を擦るように蠢いては次々と快感を覚えさせ、拒もうとする気持ちが次第に書き換えられていく。すっかり目も虚ろになり、口角からはだらしなく唾液も流れ出した。
そんな蕩けた姿に法正は唇に弧を描いて色っぽく喉を鳴らす。
「この前まで初とは思えん淫乱っぷりだな………。まぁ、そうさせたのは誰でもない、俺なんだが。」
「お願い……許して……。」
「3時間勉強するのと3時間性行為をする……貴女にとってどちらが楽なんでしょうね。……まだ始めて30分ですし、試してみますか?」
わざとらしく首を傾げて笑う法正。しかし返事はなく苦悶に満ちた表情を寄越すななし。
「………………。」
「どうして俺を拒むのか……教えろ。」
「………だから、自分の心に……。」
「聞いても、返ってこない。」
問い掛けるその間にも、ずぶずぶと指が飲まれて奥へと堕ちていく。嘸かし甘いのに息が詰まる程に苦しい、まるで永遠の拷問のようだと、いよいよ涙が溢れだしそうになった。
この行為も、今までの行為も、全て己の気まぐれに過ぎないと思えば思う程、これ以上彼を愛したくないと拒絶する気持ちと、彼を失いたくないという背徳的な衝動とぶつかり合って頭が狂ってしまいそうになる。
いっそ全て忘れられたら楽なのに。
「………私が悲しむ前に……いえ、彼女が悲しむ前に……終わらせたいんです。」
「………彼女………?」
「………聞きました。婚約者がいるという事を。」
「…………。」
「話によれば相手はご令嬢………所詮は、先生と生徒の関係………っ………叶う訳も、敵う訳もないんです………!だから、今日限りでこの関係を終わらせましょう………これ以上誰も苦しむ事のないように………お願いします、先生。」
先生という無機質な単語が、散々堪えていた涙腺を崩壊へと繋げた。
短い仮初の恋だったけれど、日常で滅多に無いであろう先生と生徒という境界線を超えた、そんな素晴らしい思い出を授かっただけでも十分満足だ。そう言い聞かせてななしは瞼を閉ざす。
「………ななし。」
顔も見えない闇中で呼ばれた名前が余計に苦しい。
ただ終わりを告げる言葉を待つ中、法正だけは違ってギリッと唇を噛み締めた。
「……………馬鹿が!」
今まで見た事も聞いた事もないような、まるで臓腑を抉られたかの如く歪む顔つきでななしを睨んだ。
「………せん、せ………い………?」
思わず瞼を開くと何とも言えぬ表情にななしもまた酷く傷心する。しかし、いつの間にか抜かれていた指の感触とは別の何かが下腹部に突如襲い掛かり、堪らずけたたましい悲鳴を上げた。
「やだ……っ、痛……ぁ…!」
突き上げたそれは熱を孕んで猛々しく、彼女の胎内へと確実にのめり込んでいく。前戯のお陰で中は潤滑とは言え、いきなりの異物は些か痛みを伴い、声にならない声を微かに漏らした。
だが、それも法正の吐き出す感情によって無に還るのだが。
「俺は、ただのお遊びで、ほんの軽い気持ちで、お前と関係を結んだと?ふざけるな。何処の馬鹿がそんな事をほざいたか知らんが、婚約者など全く身に覚えがない事だけはハッキリと断言してやる。」
一字一句逃さず聞こえた愛おしい声は、果てしない怒りと哀しみを孕んでいる。溢れる涙を他所にななしは呆然と、ただ呆然と、返す言葉を忘れて見つめる事しか出来なかった。
「嘘…………。」
「ああ………誰だ………勝手な妄想話をあちこち法螺吹いて、ここまで事を大きくした輩は………。」
げんなりと、うんざりと、報復を約束する様に鋭い目付きをしたかと思えば、ななしに向かって眉を顰めては哀しそうな目を見せ
「悪いが、限界だ。」
と、彼女の腰を無理矢理掴んで陰物を更に深く入り込ませた。
「ん、ぁ………っ……せん、せ……!?」
「馬鹿への報復は後日だ……それよりも、目の前のお前をどうにも犯したくて仕方ない。」
先生が生徒を犯すなんて言葉は、通常であれば禁忌であろう。しかし彼女にとってはそれは願ってもない事、むしろ誤解が全て解けた喜びの方が大きく、疼いていた身体は素直に歓び始めるのだ。
開けた衣服から覗かせる下着を口で器用に取っ払い、現れた豊満な胸に唇を寄せては先端の突起を舌で遊ぶように転がす。法正の歯が軽く当たる度にチリチリとその箇所が熱くなり、無意識に彼の頭を掴んで迫り寄る快感に酔い痴れた。
「気持ちいいか………?」
「……っ…。」
こくり、何度か首を縦に振れば満足気に笑む法正。
ガラ空きな片方の胸を徐に掴むと嗜むように揉みしだき、指先でも再び突起を厭らしく弄りだす。喘ぎが止まない指遣いと舌遣い、そうして暫く上に執着するかと思えば、否、最奥に先端が当たる度に甘い嬌声が舞い上がり、痺れるような快楽に足のつま先がピンと伸びた。
法正はそんな彼女の痙攣する太ももを持ち上げて、一番悦ぶ場所を探り当てては容赦なく摩擦を引き起こす。
「っ………う、………!」
「………ふ、もっと声を出せ………その締め付けが、かなり癖になりそうだ………。」
達しそうで達しない中間地点が何とももどかしく、濡れた唇で何度も訴えようとする。
しかし、返ってきたのは別の回答。
「いいか……ななし。俺は、半端な気持ちでお前と向き合った事は一度もない。例えそれが未熟さある生徒だとしても、必ず一人の女として見ている。」
「……………。」
「だから安心しろ。後にも先にもななし以外を愛したりはしないし、他の誰かを愛したくない。」
耳元で囁かれた言葉は散々求めていた愛おしい声だと改めて認識する。込み上げてくる感情は綺麗な涙となり、紅く染まった頬を伝ってはしっとりと落ちていく。
「孝直、さん。」
「……ああ、やっと、呼んでくれたな。」
「本当は………大好きで、大好きで………仕方ないんです………!ずっと、離れたくありません………!」
「………知ってるとも。」
その言葉を待っていたと言わんばかりに法正はななしの額に口付けを落とし、腰の律動を徐々に加速していく。交わる水音と肌がぶつかり合う鈍い音だけが二人だけの部屋に響き渡り、絶頂を迎える頃には激しい息遣いが目と鼻の先で淫靡に交差した。
「……っ、もう、私………!」
「ああ………分かっている……。」
いってしまえ、そう吐き捨てて互いに唇を重ねると、締め付けによって彼の白濁液が勢い良く吐き出されていく。中を巡る熱くねっとりとした感触は、ななしにとって自分だけが愛されている証、霞む意識の中で彼女は小さな笑みを見せた。
「妹、さん。」
「ああ、妹だ。」
どうやら、女生徒の間で広まっていた女性と言うのは何処ぞの令嬢でもなければ婚約者でもない、れっきとした法正の妹らしい。曰くその彼女は近い内に結婚するらしく、兄である法正がドレス選びに付き合っていたそうな。更に言えば兄妹の仲もかなり良く、それが不運にも今回の出来事への引き金にもなったのだろう。
「まさか生徒等の間ではた迷惑な解釈に行き着くとは。……ったく、女の早とちりとは恐ろしく面倒だ。」
「………その、自覚してください。こう見えて結構ファンが多いんですよ、先生。結婚したい先生でダントツ1位なんですから。」
ついこの前だって一人の女生徒から想いを寄せられていたんですし。
自分で言っておきながら無性に妬いてしまった。そんな気まずい表情をなるべく隠そうとするが、どうにも考えがお見通しのようで、呆気無く引き寄せられる身体。
「知った事か。どんな理由であれ報復する事には変わりはない。徹底的に調べあげて、鬼畜な課題を幾つか出してやる………。」
想像しただけで身震いがする。渡されたピルを口の中に放り、ゴクリと生唾ごと飲み込んだ。
「……………卒業したらな。」
「…………?」
「ななしを迎えに行くのも、子供を作るのも。」
「…………っ…………一気に現実味が帯びて、何だか恥ずかしい…………。」
「それまでは辛抱だ。」
ああ、ついでにと、法正は加える。
「早とちりした貴女も、彼女達と同罪ですので。」
「………ご冗談を…………。」
「なに、ちょっとした課題ですよ。………放課後になったら俺の所に来るだけでいい。」
「………嫌な予感がします。」
特に身体への危機を感じる。腰に回された手がその警告を示していたが、しかしそれを拒む理由が一切ないと、ななしは黙って己の手を重ねた。
「ほう?」
そう、むしろ
「貴方にだったら……何されても、良いです………。」
求める瞳が法正の理性を再び惑わせ、
「………上等だ。」
それが第二回戦の始まりの合言葉とも知らずに。
(薬飲んだばかりなのに………!)
(誘ったのはお前だ。しっかり責任取れ)
(うう、親がいなくて良かった………)