「いつまで寝てるんですか、起きてください。」
低い声が微かに聞こえる。声色がどこか色っぽく感じるのは気のせいだろうか、重い瞼をそっと開けるとぼやけた視界に彼の姿が入る。
「やっと起きたか…。全く、こんな所で寝ていたら風邪ひきますよ。」
ほんのりと紅い頬に独特の香りを纏う身体、ああ、彼は酔っている。
「法正、さん…。酔ってますよね、お酒の香りがします。」
「俺ですか?ええ、宴がだいぶ長引いてしまいましてね。
全く、彼らと付き合ってると疲れますよ。」
酒豪な奴らが多い、と溜息を零す彼。
傾いた身体を起こして隣に腰掛けると、法正は静かに空を仰ぐ。
「これだけ空気が冷たいと、酔いもだいぶ醒めるな。
…所で、貴女は何故こんな所で寝ていたんですか。俺が起こさなかったらどうなってたか…。」
その言葉に疑問を抱く、どうなってたか、という事はどういう意味なのだろう。
風邪をひく以外に何かあるのだろうか、無意識に首を傾げる行為をする。
辺りが暗い所為か、普段以上に怖い表情を浮かべて見えるように感じる。
「どうなってたか、と申しますと…。」
はぁ、と頭を軽く抱える法正。
「鈍い方ですね、そんな無防備な姿を見せておいて何が起きるか。」
言葉の意味を理解したと同時に、はっとなる。
彼の顔は少しばかり苦笑ってるようにも見えるのは気のせい、では無いようだ。
「やれやれ、やっとお気づきになりましたか。酔った奴らが何気なくふらりと歩いて、ふと魔の手が差して、貴女を襲っていたかもしれないんですから。
…少しは自分の身を守る警戒心を持ったほうがいい。」
俺だったからいいものを、声色が先ほどと打って変わり、空気が張り詰める様な低重音。どっちとも言わない恐怖が私の中で生まれた。
気をつけます、と頭を垂れて深く反省すると、彼の大きな手が私の肩を掴み寄せる。
突然の事に思わず肩が上がってしまったが、不思議と嫌ではなかった。むしろ、安心感が内側から広がる様な感覚である。
「俺が怖いか?」
耳に残るような声がすんなりと入る。
首を横に振ると、そうか、と彼は肩を寄せる手に力を込めた。
「ま、そんな奴らがいたら俺は貴女より真っ先に復讐してやりますよ。」
復讐、その言葉に横を見ると彼の顔が近かく、そのまま唇が軽く重なる。
触れるだけの口付けをすると、彼は立ち上がり懐から朱色の布を出した。
冷えるから首にでも巻いてください、とそのまま歩いて暗闇に消えてしまった。
唇に残った感触とほんのりと香る酒の匂いに暫く酔いしれる私だった。
(酔った勢いで口付けをした訳ではないですよ)
(まさか、好きになるとは、な)