彼という薬

「俺は言ったはずだ、倍にして返すと。」

床がひんやりと冷たいくせに、身体は燃える様に火照っている。
笑みを薄っすらと浮かべた法正に組み敷かれている。

「ね…私…何かした…?」

今にも消え入りそうな枯れ声で問いかければ、腕を掴む手に力がこもり思わず顔を歪める。しかし痛いなんて言えばもっと痛みが増すかもしれない。
抵抗せずじっと見つめれば冷たく見下ろす鋭い目が私を撃ち抜く。

「徐庶と随分と楽しく話していたが、感想はあるか?」

「そんな…徐庶さんは、友人…。恋心なんて抱いてないよ…?」

ああ、その事だったのか、と。
彼は私が男の人と話すのを嫌悪してる事は分かっていた。報告の為やむを得ず話をしていた訳で。しかし運悪く会話が盛り上がったのを彼に見られていたのだろう。

だのに不思議と怯える気持ちに反して身体が求めてる、私の身体は衣類をろくに纏っていない。そうだ、彼が剥がしてそのまま、



「俺にはそんな風に見えなかったが。」

月明かりに照らされた肌に紅い華が散らされ、更に引き締まった肢体の所々には白い華が散っている。

「…ごめんなさい、ごめんなさい、もう…話さないから…。」

「そう言ってお前は何度裏切った。」

中で蠢く欲が私の心を掻き乱す。無理やり飲まされた媚薬が切れているはずなのに。彼が好きだからこそ失いたくない。このまま離さないで欲しい。離したくない、離したくない。

「いや…いや…だよ、法正、いなくなるの…。」

声が掠れて苦しいのに涙が止まらなかった。しかし、どうしても気持ちが抑えきれない。
ぐしゃぐしゃになった顔を隠す事が出来無いが、正直今はどうでも良い。
そんな姿に満足したのか、彼は笑みを薄っすらと浮かべて耳元で囁く。

「そうだ、もっと俺を求めろ。そうすればたっぷりと快楽を味わせてやる…。」

掴む手が緩むと同時に無意識に腕が彼の首に回る。漏れる吐息は彼の唇にかかるくらいに近く、互いの鼻の先が当たる。

「愛してる…から、お願い…私の全てをその手で縛って、離さないで。」

自分は何もしてない筈なのに、罪悪感で満たされた気持ち。それでも彼が満足するなら私は自分を責め続けるだろう。
彼は悪くない、全て私が悪い。

「ああ、俺も愛してる…だが、裏切れば代償は大きいのを忘れるな。」

そうして私の口内に新しい薬が広がっていく。





何度も罪悪感が襲っては何度も快楽に溺れる。

その為最近は身体の調子がおかしい、おそらく私はもう彼との子を宿したのかもしれない。

これで私は完全に彼の物になったのだ。

この流れる涙は果たして喜びなのか、はたまた悲しみなのか、今も分からず複雑な感情の渦に巻き込まれた日々を過ごしている。

(お前は俺がいないと生きてはいけないだろう)

(だから、死ぬまで劇薬を飲ませてやる)