※「法正先生と私」続編
「ななし、今日俺の家に来い。」
「………何故ですか。」
「理由は自分の心に聞いてみろ。」
「それって、テストについてですか…。」
「ご名答、そうでもしないと真面目にやらないだろう。」
放課後になり、漸く自由時間がやって来て寛げると背伸びをしたのも束の間、法正先生は単刀直入に言い放った。
貰ったカンニングペーパーだけでは心配という理由で直接監視がつく事になってしまう事態に。それより何より二人きりという時間が気まずい、先日の行為の所為で。
「先生、私大丈夫です。アレさえあれば百人力ですし。」
「あれで全てじゃないのは理解して言ってるな?」
「……!まさか最初からそのつもりで数を少なくしていたんですか!?」
「ああ、残念だったな。全て知りたければ俺の家に来る事だ。」
肩をがっくりと落として酷く悄気げる。法正はそれを見て愉快そうに喉を鳴らして笑った。
「うう……巧みに嵌めるその手口、前世軍師とかやってましたか。」
「さぁ、どうでしょうね。」
口を尖らせて拗ねていれば、不意に腕を引かれて距離が縮まる。顔がうんと近くなり気持ちが一気に迸った。
「あ………。」
「どうした、行為でも思い出したか。」
「………変態先生!」
少しでもときめいた自分が馬鹿だった。
怒鳴る様に腕に力を込めるが、どうにも彼相手だと調子が狂って意思を上手く動かせない。それを見て彼の口は三日月に割れる。
「その変態と交わったのはどこの生徒だ。」
「………っ。」
卑怯な、悔しいが言い返す事が出来ずにいれば手を引かれて車へと連れて行かれる。黒い車のドアを開けて入るよう促されたので恐る恐る乗っかり、身体を優しく受け入れる柔らかい椅子に心地良く感じながらエンジンの掛かる音を聞いた。
ハンドルを握って運転を始める彼の横顔をチラチラと見ては落ち着かない気持ちを抑えようとする。
「……何だ、人の顔を見て。」
「な、何でも……ないです。」
二人きりという展開がやって来ると思うと気が気でない。親に何も言わずに行く事にも若干ながら罪悪感はある。
「ああ、親にはきちんと連絡しておいたからな。」
その抱えていた不安を消す様に彼は言った。心でも読めるのだろうか、それはそれで厄介なのだが。
「あの、今日中に帰してもらえるんですよね?じゃないと泊まりは流石に心配するし…。」
「ご安心を、俺が全身全霊もって彼女の安全を保証しますと言ったら喜んでお願いしますと言っていました。」
あっけらかんとした母親にただ呆れるしかなかった。年頃の娘に対してどうも思わないのか。ましてや先生と生徒、身体の関係まで進展している。
「何にもならないと、いいんですが。」
溜息を吐いてそう思っていると車はあるマンションの前で止まる。窓越しから見上げる程の高さに思わずぽっかり口を開けてしまった。
「降りろ、車置いてくる。」
言われるまま車から降りてまじまじとマンションの外装を見つめる。明らかに金持ちが住んでいそうな豪華な雰囲気に圧倒されてしまった。
そう呆気にとられていると後ろから誰かに背中を押される。上を見上げれば法正の姿、そのまま何も言うことなく鍵は開けられ、エレベーターで上って行く。
「……なんか、漫画の世界みたいです。こういうマンションに住んでいる、なんていう展開よくありそうで。」
「…あんまり考えた事ないな。」
部屋の前に辿り着き、中に入る。
リビングは広く、家具も至ってシンプルで整理整頓されている。男の人にしてはしっかりとした環境だ、綺麗好きなのだろうか。
「思っていたのとは大分違いました。」
「俺は汚いのは好まない…綺麗にしないと落ち着きません、というか普通そうでしょう。」
その言葉に自分の部屋には招けないと思った。それでもいつか家庭訪問する日が来たら全力で片付けようと心の中で強く頷いた。
「一人暮らしなんですか?」
「そうだな、女を引き入れた事は無い。故にお前が最初の客人だな。」
はぁ、と喜んでいいのか分からない生返事をした。
「そこに座れ、早速やるぞ。」
「は……はい。」
そうして暫く勉強の時間が続いた。
「………疲れた。」
今までにない勉強量が襲い掛かり、ななしの目はすっかり虚ろになり精神的に疲労しきっていた。それでも涼しい顔で続ける法正は疲れ知らずなのだろうか。
「まだ3時間しかやっていないだろう。」
「すみません普段1時間しかやらない人間がその3倍力を発揮すると命の削り方が尋常じゃないんです。」
「ああ…それだからいつも成績が悪いのか、もう少し努力をしたらどうだ。」
失礼な、と渋々側にあった菓子に手を取ろうとする。しかしそれを彼の手によって阻まれてしまった。
「………あの。」
「仕方ないから褒美をやる。」
そう言ってななしの身体は容易く後ろに倒れ法正が上にのしかかる。
「あの、褒美はそこのお菓子でいいですから。」
「何、犯して欲しいだと?」
「耳までイカれてるんですか!」
怒鳴る様に抵抗するが、耳元まで顔を寄せ舌を捻る様に侵入させる感覚につい可笑しな声が漏れてしまう。
「あっ!」
ぴちゃぴちゃと耳に直接響く水音が厭らしく、力が抜けきってしまう。
「嫌か、それならもっと抵抗してみせろ。」
法正は目を細めて悪人の様な面構えで挑発をする。それが出来ないと分かっているからこそ悪戯にからかうのだ。
ぐうの音も出ない彼女は目をすっと逸らして見ないようにする。しかしそれは無意味な事であり、スカートに忍ばせる右手で呆気無くその目を見てしまうのだった。
「やっ……!ここでするんですか!」
「なんならベッドの上でも構いませんが。」
「そういう、意味ではありません…!」
くつくつと笑って下着を器用に外そうとする。必死に足をばたつかせたが、するりと外れて空気が直接当たる形になった。
「う……恥ずか、し……。」
「どうせならこの状態で勉強するか?」
「嫌ですよ!返してください…!」
スカートに隠れて見えるか見えないかの境目に思わず唆る様なシチュエーション。捲られでもしたら丸見えになってしまうだろう、何という羞恥プレイだ。
動かずに固まるがスカートの上からなぞられる指の動きに焦りが止まらない。
「あ、ん……!」
「そうは言うもの、欲しいのでは?」
彼の誘いに流されてはいけない、分かってはいるが開けたシャツから覗かせる浮き出た鎖骨や骨張った指、色気を存分に含んだ瞳や唇が何もかも狂わせる媚薬にしか見えない。低い声で誘う様に招かれればどんな女も曝け出して落ちてしまうだろう、恐るべき男だと改めて実感する。
実はとんでもない者を好いて好かれてしまったのではないかとすら思った。今更そう思っても遅い事には変わらない、後はゆっくりと頂かれるだけなのだ。
「ああ、勿論俺だって貴女が欲しい。だがそれを3時間も堪えた。……そろそろいいだろう?」
辛抱堪らん、そう言わんばかりに首筋に噛み付いたのは夕日が沈む午後6時の出来事。
(二人きりで何もないなんて訳がない)