約束事は慎重に

「ダンテ、いつまで寝てるの。」

ドアを開ければベッドから手を垂らしてうつ伏せているダンテの姿。揺さぶろうが何しようが寝言のように何か小さく言葉を吐いて再び夢の中に入っていってしまう。下ではバージルが本を読んで気にも止めない様子、言った所で起こしてはくれないだろう。というより斬り掛かってベッドが血塗れになるかもしれないから下手にお願いは出来ない。

「ね、ダンテ、今日は私とお出かけする日でしょ。」

「……………………。」

「ダンテさーん。」

「……………………。」

駄目だこりゃ、だからあれ程夜遊びは止めろと言ったのに。眉間あたりを指でグリグリ押して悩んでいると階段から規則的な靴音が聞こえてくる。おそらくやり取りに痺れを切らしたバージルだろう、鬼の様な形相で迫るのが目に見える。

開けっ放しのドアから顔を覗かせるは案の定眉間に皺を刻ませたバージル。しかし、

「ななし、俺と行くぞ。」

まさかの発言にななしは驚くが、それはもう嬉しい誘いだった。

「え、本当に!?嬉しいな、バージルの方がずっと頼りがいがあるね、じゃあ今日のお付き合いお願いしようかな。」

手を合わせてご機嫌でいると、ベッドから唸り声の様なものが。

「バージルと、行くだと。ななし、お前……浮気か。」

「…………あのですね、バージルは私の為に気を遣ってくれてるんです。」

「愚弟は一日中大人しくシーツに丸まってろ。」

フン、と鼻を鳴らして寝転ぶダンテを見下すバージル、当然そんな挑発に食いつかない訳がなく。

「バージル、てめ………。」

「なんだ、女との約束事をすっぽかして惰眠を貪る奴の事実を言ったまでだ。」

キッパリと言い張るとバージルはななしの腕を引いて部屋から出ようとする。しかしそんな事ダンテが許す筈がない。起き上がって目の前に置いていたナイフを彼に向かって突き付けた。

「…………お前に構ってる暇などない、とっとと眠れ。それとも永眠をお望みか。」

「さぁな、ただ一つ言えるのはその手を離せってことくらいだ。」

何がどうしてこうなった、ななしは殺気立つ狭間で酷く怯えていた。この二人が一度喧嘩をおっ始めたら次の日が昇るまで止めないのだ。それどころか寝る場所すら失われてしまう程多大な被害が襲い掛かるだろう。それは困る、どうにかしてこの場を治めなければ。

「ストップ、ストップ!喧嘩は良くない、怪我なく出掛けるのが目的だから!」

「待ってろななし、この場で雌雄を決す。」

「ああ、完全に目が覚めたからには俺がななしと出掛ける。」

「…………人の話聞いていましたか。」

閻魔刀を静かに鞘から抜いたバージル、ダンテも口角を上げてリベリオンを何処からか出した。そうしていつの間にか彼の掴んでいた手は離れて互いに睨みを効かせれば俊敏に刃を交える。劈く様な音と鈍い光を放つ鍔競合いに両者一歩も退く事ない。

「Foolishness, Dante. 」

「...Come on!」

完全に二人の世界に巻き込まれてしまった。こうなった以上どちらかの身体に剣が突き刺さるまで終わらない、というよりも出来れば外でやって欲しいのだが。如何せんこの部屋は対して広くないのと困るのは部屋の所有主であるダンテだ。

「…………っ。」

掠めた、今完全に顔を掠めた。後ろを振り返ればバージルが繰り出したであろう幻影剣が壁に亀裂を作り抉るように刺さっている。このままでは己の命が危うい。

「お願いだから止めて!こうなったら三人で出掛けようよ!というより出掛けて下さいお願いします!!」

一際高い声を発すれば二人の足の動きが同時に止まる。ダンテが怪訝そうな表情でななしを見た。

「…………三人で、だと?そりゃあ無いな、だって俺と行く約束したじゃんか。」

「これだから愚弟はつくづく理解に苦しむな、これではななしが哀れだ。呑気に寝ていた奴が自分勝手に何をほざく。」

「いいや、少ししたら起きるつもりだった、ななしとの約束放ったらかしにする訳ないだろ。」

「ほう、なら俺があのまま何も言わなければ素直に起きれたと。」

「はいストップ。口喧嘩は剣喧嘩の始まりです。」

制止をかけてとりあえず二人の間に割り込んで距離をとった。睨み合いは続くが流石に武器は構えないだろう。

「確かに私はダンテと行く約束をしました。ですが、起きない貴方の代わりにバージルが気を遣って一緒に行くと言ってくれました。でも、この場を丸く収めるには三人で仲良く出掛ける事が一番良いと私は考えます。」

「いや、俺もう起きたしバージルいらないだろ。」

「折角彼も外に出るって言ってくれたのに、その厚意を無駄には出来ないよ。」

「そういう事だ、お前は罰として荷物持ちをやれ。」

「ななしを抱えるんだったら良いけどな。」

「いや意味が分かりません。」

そんな事言いながらも二人の殺気は収まり、漸く闘いの終止符を打った。ほっと胸を撫で下ろすと不意にダンテが腕を引いて後ろから抱き締めた。

「ダ、ダンテ!」

「貴様………死にたいか。」

「体力が減ったからピザの代わりにななしを堪能。」

してやったり、そんな優越感を醸し出しているがななしにとって目の前の鬼が怖くて堪らない。離れたら離れたでまた出掛ける時間が遠ざかるのだろう、ななしは溜息をついて遠くを見つめていたのだった。



(おいバージル、ななしとの距離近いだろ)

(お前の目の錯覚だ、遠近法を一から学べ)