恋人なので俺を優先しますよね?

助けて、助けてと、言葉に出来無い思いを何度心で叫び続けたか。しかしそんな祈りも虚しく悪党の手によって掻き消され握り潰されていく。愛という盲目なる想いを馳せながら、ただ一人の女を狂った様に追いかけ熱に浮かされたかの如く愛の言葉を囁く。
しかしその狂おしい愛はあまりにも純粋な彼女には重過ぎた。手首を布で縛っては脚の間に脚を割り込ませ、薄い衣類をたくし上げては絵に描いたような豊満な果実を一齧り。

「貴女は本当に俺を酔わせる………ああ、もっと啼いてくださいよ。泣きじゃくる声すらこの耳には心地良い。」

「違う………こんな愛し方……やっぱり…違います………。」

「最初に申し上げた筈です、俺を好いたからには徹底的に閉じ込めると。何があっても手放さない、と。」

長く太い指を喉に滑らせて浮き出た鎖骨を撫で上げる。ぴくりと身体を反応させると法正は愉しむように尖った喉を震わせた。

「それに愛し方など人それぞれ、俺が偶然こういう愛し方なだけだった…それだけですよ。最初から正常も異常も有りはしない。」

喉元に手を掛けて、少しだけ指先に力を込める。嗚咽をするかしないかの瀬戸際で、苦痛に顔を歪める姿さえも愛おしいとこの男は感じていた。自分だけが見れる表情だと、誰にも見せない顔や躰、全てを独占出来るという喜びを今この時確かに感じていたのだ。

そして法正はななしの腰に跨がり、目と鼻の先と言わんばかりに整った顔を接近させる。凛々しい眉を寄せて、射貫くような鋭い瞳を向けて、上げた口角を更に吊り上げて。

「俺に見惚れたような顔ですね。ああ失礼、流石に自惚れていたか。」

これこそ黙っていれば色男、その証拠に何人もの女が法正を好いては身を寄せていたのをななしは知っている。振り向いてもらう為に美しく着飾っては彼の傍で花のように咲き誇ろうと必死になっていた。しかし、その花すら彼にとっては道端に咲く花と同価値であり、彼女以外の女が幾ら彼女以上の身なりになろうとも、決して勝る事はない。

彼女を愛してしまった事で、それ以上の物を全て消してしまった。何に置いても優先されるはななしへの愛情を注ぐ事、それを阻む者や奪う者は誰であろうとも跡形も無く葬り去る。そこまで法正はななしに心酔しきっていた。

「先日付けた痕が消えかかっているな……。」

そう言って指先でなぞるは深紅の花弁。首に胸、腹に背中、愛した証を上書きするかのように生温かい唇を当てて色っぽい音を鳴らした。その度に否定的だったななしの感情が次第に昂っていく。

許してはいけないのに、悲しい顔を一度向けられてしまうとその歪んだ愛を受け入れたくなる。これが策略と分かっていても簡単には突き飛ばせないのは、未だななしの全てを許す善と彼を愛する思いが邪魔をするからだ。正しさよりも目の前の未知数な愛を欲しいがままに手に入れてしまっている。

「随分と嬉しそうな顔していますね、やっぱり好きなんでしょう?こういうのが。」

「違い、ま…………。」

「違うと言うのは、一体どんな意味だ?」

そこじゃない、そのふっくらとした唇を押し付けるのは、もっと喜ぶところ。心の隅で誰かが囁いている。

「ん………駄目……………。」

「ああ、勿論わざと焦らしてるんですよ。」

いやだ、早くその愛を唇で示してほしい。心の隅で誰かが求めている。

「……っは、物欲しそうに目を潤ませるか。……ぞくぞくしてきましたよ、純情な貴女が悪党であるこの俺を欲する瞬間こそ最上級の幸福。こうなると徹底的に犯したくなるものだな、この手で嫌という程に。」

赤い舌を僅かに覗かせて、この乾いた唇を濡らしていく。軽く触れるだけでは物足りない彼は噛み付かんばかりに激しい口付けを施した。口腔内を満たす程の甘い液を送り込み、銀糸を引いてはまた複雑に絡ませていく。そうして法正の両手はいつしかななしの耳を塞ぐように包み込んでいた。世界に溢れる音を遮断して、彼の声と鳴り響く水音だけを聞かせるように。

「あ……法………法正さ……ん……。」

「俺を求めろ、ななし。お前の愛があれば俺はどんな修羅にでも耐えていけるだろう……。」

震えるこの手が伸びていく、彼の濡れた頬を撫ぜる様に。

「俺が貴女を優先するように、貴女も俺を優先して下さい。何があっても、どんな事が起きても。

……でなければ、嫉妬に狂って殺してしまうだろう。」

その優先された奴を、法正は冷たい目で見下ろしては地に這うような低い声で言い放った。理不尽極まりない言動だが彼は至って本気だろう。かつてななしに近付いた男が翌日亡骸で見つかった事件が起きている、しかし誰が殺めたと言うのは誰も知る由ない。しかし彼女だけは感じていた、劇薬を飲ませる事が出来るのは彼だけという事を。

思う事は恐怖という二文字。逆らえば自分も殺されてしまうかもしれない。幾度も劇薬を流し込んだ彼の手によって。

「愛していますよ、ななし。だからこそ、この気持ちにその身体できっちり応えてもらうぞ。」

手首を鎖で繋いでは脚の間に熱を割り込ませ、一糸纏わぬ姿に曝しては甘美なる果汁を一啜り。上げていた悲鳴もいつしか甘ったるい嬌声へと変貌を遂げ、自ら秘密の花園へと男を誘いこんでいく。

法正も知れずと衣類を脱ぎ捨て、浅黒く逞しい肉体を彼女と重ねては欲のままに支配する。いつ子を成しても可笑しくない位に彼は絶倫の如くその身体を貪り尽くした。幾度も果てては穿かれ、流れ込む熱を感じながら呪文のように贈られる愛の囁き。

そんな日々が延々と続き、ななしは心と身体の痛みに耐えながら、出会ってごめんなさいと涙を流しながら心の底で謝罪をしたのだった。





(謝る必要なんてありませんよ、貴女を愛する事は必然の理なんですから)