色気に酔わされて

「……………。」

ぞわぞわと、浴衣に纏われた中身が欲情した彼を欲している。

「いいですね、こういうのも、悪くはないでしょう?」

目の前で不敵に笑みを浮かべては髪で隠れていない左目で恍惚なこの眼差しを決して見逃さない。

「や………っ。」

法正は乱れた浴衣を無造作にたくし上げてひんやりと冷たい太腿に手を這わせた。ぞくぞくと快感が足の爪先から頭の天辺まで満遍なく侵食して、ななしは思わず彼の耳元で故意か無意識か甘ったるく喘いで見せる。

「…………散々付き合わされたんだ。今日の恩はたっぷり返してもらいますよ。………どういう風に、犯して欲しい?」

























「わぁ、美味しそうなリンゴ飴!でもこっちのチョコバナナも美味しそう!」

屋台のあちこちを見て回っては爛々と子供の様に目を輝かせ、半ば疲れ気味の法正を引っ張り回しているななし。

「ななし……もう少し落ち着いて見れないのか。」

「え、あ、私ってば……こういう所に行かないと食べれない物があると思ったら、つい。」

慣れぬ草履で地面を擦り、長い黒髪に映える簪を凛と鳴らして、朱い袖から伸ばした白い手が法正の手をしっかりと握り直す。

ああ、綺麗だ。不意にそう思った法正は目を逸らせなくなった。

「……やれやれ。」

そう呆れながらもこんな嬉しそうな笑みを返されてしまったら。満更でもない法正はとことんコイツには甘いなと自分を嘲笑う。

「どうしたんですか?」

「いいえ、別に。」

「あ、法正さんも何か食べましょうよ。さっきから一口も食べてないじゃないですか。はしゃいでるの私ばっかりですし…。」

「俺はいいですよ。」

別に腹は空いていない、と口にしようとしたのも束の間、彼女は何を思ったのか突然ある店に向かって小走りし始めてしまう。

「おい。」

俺から離れたら、また迷子になるぞ。

そう、彼女は度々迷子になる。こうして自分が付いていないとあれよあれよという間に遠い場所まで迷い込んでしまうのだ。

「……ったく。」

離れていった指先が妙に寂しさを覚え、彼女に触れようと足早になるのが分かる。
興味津々に並んだ品を見渡すななしの傍まで寄り、再びその空いた手を握り締める。

「あ。」

「あのですね、」

それを見つけるこっちの身にもなって欲しいものだ。女一人であちこちをウロウロされては、万が一お前の身に何かあった時に俺はどうすると思う?

「………ごめんなさい。」

「……………。」

なんて口にする前に眉を下げて謝るななし。思いが通じたのは結構だが、出来れば俺だってこういう時ばかりは困った顔をさせたくはない。唯でさえ自分は忙しい時ばかり過ごしてななしとすれ違ってばかりだ、折角時間が作れて恋人らしい事が出来るというのに。

いや、寂しい、という自分勝手な理由で彼女を縛りすぎるのもよくないか。法正は己の女々しさに溜息をこぼすしかなかった。

それを見ていたななしは、何かを察し

「…………ね、法正さん、これ買ってもいいですか!」

ふと元気な声が耳を掠め、これに目を向けると視界いっぱいに飛び込んで来る白くて大きな綿飴。甘ったるい香りが鼻につき、思わず顔を顰めて首を引くが、ななしは嬉しそうにずいずいと目の前まで差し出してくる。

「こんな大きな綿飴、私一人じゃ食べきれません。でも、どうしても食べたいんです………だから法正さん、お願い!」

勝手に動き回ったりしませんから!と、顔の前で手を合わせるななしに、法正も断る事が出来ず仕方無く一つ購入し、人気の少ない所で腰を下ろす。ふんわりと白い綿が彼女の口の中に放り込まれると、それはもう幸福感を得た笑みを浮かべた。

「うん………!甘くて美味しい!お祭りに来たっていう実感が沸きますね。」

「そりゃ良かった。」

「あ………さっきのお願い、聞いてくれますよね。」

お願い?疑問を含んだ目で返せば、はい、あーん、と大きな塊が口の前に差し出される。

「………大きすぎません?」

「大丈夫ですよ、すぐに溶けてしまいますし。」

遠慮がちに口を少し大きく開けると、容赦なく奥まで突っ込まれる綿飴。思わず咽返りそうになるが、

「あ………。」

「……………。」

度が付く程に甘くて柔らかい食感と、唇に触れる指先に法正も堪らず舌を巻く。どうやらその勢いで彼女の指も僅かに口内まで侵入していたようだ。

「………えっと。」

「……………。」

ちろっと舌先でその固定された指を舐めれば、驚いた様に瞠目させて紅く染まる頬。

嫌なら引っ込ませればいいものを、そういう素振りもしないから、悪戯してやれ。法正は離れないように目の前で固まったままの手を取り、彼女に纏わりついた綿を器用に舐め取る。

「あ……え……法正、さ………!」

色っぽく指を舐める姿に魅了され、言葉を失ってしまう。妖しく細められた目付きは放心状態のななしを見下ろし、してやったりと法正は口角を吊り上げた。

ちゅ、とリップ音で離れれば、漸く解放されたと言わんばかりにだらんと肩の力が抜けるななし。

「貴女が悪いんですよ。人の口に無理矢理押し込むから。」

「…………はい、すみ、ま……せん。」

余程緊張していたのか、耳まで真っ赤に染まっている。耳朶を触れば案の定熱を持っていて、頬もそれなりに熱い。

「ん、冷た、い。」

「ああ失礼……つい。」

「あの………法正さ……」

何かを言いかけた唇だが、それを掻き消す様に大きな音が空高く響き渡る。

「わ、花火!」

「もうそんな時間ですか。」

「ここからだと凄くよく見えますね。人も少ないし……もしかして隠れスポットなのかな。」

「かもしれないな。どうやら向こうに人の流れが結構あるようだ……ふ、知らない奴等は向こうで散々もみくちゃにされるがいい。」

「法正さん…………。」

悪党らしい辛辣な言葉で笑みを見せる法正に思わず苦笑いする。しかし、人がいないのはやはり嬉しい。あんな人混みの中ではまた彼と離れてしまう可能性があるからだ。

花火を見るフリして法正の見上げる横顔をそっと見つめるななし。気付かれない様に顔は斜め上に向けながらも、その視線はじっと彼の元。


彼が心配してくれているのは分かっている。だからこそ、さっきの様な寂しい思いは出来るだけさせたくはない。


「綺麗。」

「ああ………俺の顔がですか?」

「はい…………って、違……!」

「おや残念。」

「き、気付いていたんですか。」

「嫌でも気付きますよ……それだけ熱情的な目を向けられていたら。」

「う………。」

もしかして、さっきのでそういう気になってしまいましたか?そう悪戯に問い掛ければ千切った綿飴が顔面にクラッシュする法正。

「ぐ……っ。」

「今すぐ忘れて下さい……。」

「いずれ、倍返ししますよ……。」

渋々顔面にクラッシュした綿飴を食べ、その後も打ち上がる花火を見ながら残りの綿飴を食べ尽くした。





そうして人も少なくなり、回りに回って存分に祭りを堪能した法正とななしも神社に挨拶をして帰路に着く。途中掬いあげた金魚は袋の中で今も元気よく泳いでいる。

「……………。」

「ん、疲れたか。」

「え?あ、はい……疲れた分、凄く楽しかったです。」

そうか、とご機嫌よく頬をゆるめ、ぶらり手をふらつかせていると不意にぶつかる何か。法正はふと目を落としてそれを見ると、彼女の白い手が彼の指先を控えめに握っている。

「……………祭りの後って、寂しくなりません?」

「ええ、まあ……楽しいばかりの賑わいもいつかは消えて、残るのはいつだって無性な寂しさや虚しさですからね。」

「……………。」

「ななし、寂しいのか。」

そう言うと、はっと見上げるななし。憂う目がもっと一緒にいたいと、欲しているかのよう。

「だって、これが終わったら、法正さんはいつも通り仕事に戻って、私と会える時間が、もう……。」

「………………。」

ああ、寂しいのは俺だけじゃなかったか。

「………分かりますよ、俺だって、こう見えて寂しいですから。いつも考えてるのは、貴女の事ばかり。この手から離れる度、何処にも行って欲しくないとどれだけ心を蝕んだ事か。」

出来る事ならこうしてずっといたい、とじりじりと胸の奥に食い込む感情を抑えこんで、法正は切なく笑った。

「法正さん………。」

ふと足を止める法正。気付けばそこはもうななしの家の前だった。

「また、連絡しますよ。」

握った手からするりと抜ける指。名残惜しいが、今度会うのは当分先になるだろう。

「今日は楽しかった。じゃあ………」

と、背を向けて遠ざかろうとした身体は動けなくなった。腰辺りを見れば彼女の腕がしっかりとしがみついている。

「ななし。」

「嫌、です。」

手に握っていた金魚がゆらゆらと揺れる。

「……………。」

「まだ、終わって欲しくない………!だから、法正さん………。」


私を、このまま離さないで。

















「貴方が望むまま……私を、犯してください………。」

「………その言葉、忘れないで頂きたい。」

曝け出された柔肌に唇を押し付けて、痕を残す様に痛みを付ける。首、鎖骨、胸、腹、するすると艶めかしく唇は降りて、快楽に捩れる身体を法正は堪能し尽くした。

浴衣を全て剥ぎ取ると暗闇でもよく分かる程にその美しい裸体。ベッドの下に落とし、膨らんだ双丘を揉みしだいてその頂を軽く甘噛みをすれば、甘すぎる位に官能的な声を漏らす。

「ぞくぞくしますよ、その声を聞いていると。……抱く数が少ない分、手加減なんてものはしませんから。」

太く長い指先を既に濡れそぼつ下腹部へ忍ばせ、割れ部分をそっとなぞり上げれば厭らしく纏わる粘液。指で擦るように往復する度に肢体は喜ぶ様に痙攣を起こし、ななしは堪らず法正の胸板に縋り寄る。乱れた浴衣から覗かせる逞しく婀娜やかな鎖骨や胸板、ますます彼に支配されたいと唆らせる。

虚ろながらに見上げれば、彼もまた艷っぽい表情を浮かべている。

「あっ………駄目、ぇ……ん……っ。」

「ふ、見え透いた嘘を。気持ちいいと言わんばかりに溢れ出てるじゃないですか。」

その通りに粘液は止めどなく溢れて急く様に彼の物を欲している。その為に弄っていた指は手の甲まで流れるように濡れて、奥の蜜壺に誘うように更に纏わりつく。

「…………焦らしだけでは満足しないか、淫乱め。」

「やっ、言わない……で……あぁ!」

ぬぷりと潤滑な中へと指を押し挿れ、容赦なく熱い肉壁を掻き乱す。その衝撃で彼女はベッドに倒れ込み、枕を千切れんばかりに抱き締めて声抑えるように顔を埋めた。

「それじゃあ貴女の顔が見えないでしょう。」

「ーーーーっ!」

喘ぐ顔が見えぬと不服を申し立てる法正は、無理に枕を引っペ返して覆い被さるように口付ける。蠢く朱い舌で口内を蹂躙し、指で蜜壺を激しく刺激され、ななしはあっという間に絶頂へと導かれた。

イッた後も一切の妥協を許さぬように、舌を奥へと捩じ込んで互いの唾液をからませ、彼女に聞かせるようにわざとらしく水音を響かせる。

まるで獣のようだ、と法正は制御出来ない自分をまた嘲笑う。それでも、互いが寂しいと望んだ結果だ、後悔しない一夜にしたい。

「…………っは、このままだと朝まで抱いてしまいそうだ。」

「あぁ、ぅ………。」

「……あまりの気持ち良さに、言葉も出ませんか。」

ぺろりと滴る唾液を舐め取り、呼吸させる時間を与える。それでも尚、胸を弄るのと下腹部に与える快感は止めないのは、必死に息を吸いながらも小さく喘ぎ声を漏らす、そんな感じている姿がどうしようもなく愛おしいのだ。

「はっ、ぁ……ん………苦し、法正、さ………!」

「…………簪………外すぞ。」

するりと髪を纏める簪を外すとバラバラと規則正しくベッドに散らばる黒髪。それを一房手に掬い取っては唇で口付ける。

微かに香るシャンプーの匂いが背筋をぞくりとさせた。どうやらこれが彼女の匂いだと錯覚させる程に嗅覚が狂ってしまっているようだ。

「ああ、貴女の匂いがします。」

「………っ………。」

「愛してますよ……ななし………。」

すると鋭い痛みが突如として彼女を襲う。上に気を取られている間、法正は自分の浴衣から器用に己の肉棒を取り出して濡れに濡れた蜜壺に宛てがっていた。

「ん………っ!」

「キツイな………。」

グリグリと腰を回して奥へと押し込めば、ななしは痛みと快感の波に飲まれて中を激しく収縮させる。荒々しくベッドのシーツを握り締めて耐えに耐えぬくが、法正の苦悶なる顔を見るなり腕を伸ばしてその首に絡みついた。

「………っぐ……流石に、まずいか……。」

締め付けだけで果ててしまいそうだ、途切れがちに言葉を吐き捨てる。気持ち良さに飲まれないように腰を掴んでは何度も打ち付け、挙句の果てに法正は訳もなく弧を描いて笑った。

「ななし。」

「……は、い……っ。」

「お前との、子が欲しいと、言ったら……?」

「………あっ、う………それ、って……っあぁ!」

「そうすれば、俺達は……」

これからは寂しい思いはしなくて済む。

と、言葉が過ったと同時に子宮に吐出する大量の精液。くらりと何処かに頭を打ち付けた感覚を覚えてうっかり彼女の上にのしかかってしまう。

久々に中に出したからか。一人慰めではこうはいかないだろう。

「悪、い。」

「法正、さ………苦し………。」

退けようにも身体が重くて腕で支えるので精一杯だ。だからといって引き抜こうにも締りが良すぎて外れない。

……これで朝まで抱こうなど、無理があるか。



「……………。」

お互いの鼻がつく程に近い距離で吐息をかけ合う。暫くして先に言葉を続けたのは法正から。

「……トチ狂った事を言った気がする。」

「え………さっきの、話、ですか。」

「すみません、忘れて下さい。」

「……そんな………賛成だったのに…………。」

まさか、とやっと動けるようになった身体を持ち上げて様子を伺えば、嫌がる素振りを見せないで笑うななし。

「そうすれば、寂しい思いをしなくてすみますし………ね?」

「………………。」

「でも、結婚が先がいいかなぁ………ずっとウェディングに憧れていたから、その後に子供でも………って、法正、さん?」

「…………何も言うな。」

抜かないでいた熱が再び暴発したようだ。虚しくも彼女の中でそれはみるみる膨らみを戻していく。

「え、ちょっと、待って……!」

「生殺し、する気ですか。朝まで持たんと思っていたが……どうやら、身体はそうでもないらしいな。」

やれやれ、皮肉な笑いを薄っすら浮かべて、法正は彼女の身体を強く抱き締めた。




(明日、会社じゃ……っ)

(ご心配なく……優秀な部下に任せとけばどうにでもなる。それに……俺をこうさせたのは、貴女なんですから)