10:落ちたインクが滲むように
(やっぱり繋がらない、か⋯)
両親の携帯番号は変わらず登録されてるのに何度掛けても呼出し音が流れるばかりで応答は無し。ここへきて入学式、学校生活、バイト⋯とそれなりに充実した日々を送ってはいるものの、当然ながら根本的な不安・疑念は何一つ解消されていない。
今までの自分は一体どうなってしまったのか。
両親、職場の同僚、友人⋯皆どうしているだろう?
いつか全てが元に戻るのだろうか。
普段あまり深く考えないようにしている事がふとした瞬間に頭を擡げ、考えずにはいられなくなる。元々プラス思考でどちらかと言えば前向きなタイプの人間だと自覚はしていても、時折精神が不安定になるとその度に“ああ⋯私は孤独だな⋯”と再認識させられる上に“此処で一体何をやってるんだろう⋯”と急に何もかもが虚しく思えてしまうのだ。
***
あっという間に5月が終わり6月に突入した。
音駒との練習試合の後、IH予選を迎えた男子バレー部は青葉城西と対戦し敗北。その敗北をバネに隣席の天才セッターはオレンジ髪の小さな相棒と春高予選に向けて再び動き始めている。そして動き出したのは彼らだけでは無かった。
「あの、ちょっといいかな?」
昼休み、飲み物を買いに行こうと廊下に出た時だった。背後から声を掛けられたので振り返るとそこには美人マネージャーの清水潔子がいた。間近で見る彼女は本当にキレイで、美しい。美人ってこういう人のことをいうんだと思う。
「―はい」
「突然ごめんね。私3年の清水潔子って言います。あなた、今何か部活はやってる?」
「いえ⋯特には」
「ほんと?!今男子バレー部のマネージャーやってくれる人を探してるんだけど、」
良かったら仮入部してみない?と誘いをかけられる。
「でも私、部活はやってないですけどバイトしてるので」
「そのバイトは毎日?」
「今は平均週4〜5日くらい、ですね」
なので引き受けるのは難しい、というニュアンスを含ませて伝えたけれど彼女は簡単に引き下がらなかった。
「そうなんだ。でもとりあえずの見学だけでも大歓迎だから。少しでも気になったらいつでも見に来てね」
「⋯⋯分かりました」
「ありがとう!それじゃ、」
にこやかに去っていく背中と手渡された『マネージャー募集』のチラシを黙視しながら、当初の目的であった自販機に向かって歩き出す。
プレイヤーではなく、マネージャーという形でバレーボールに――この世界に関わること。テレビの画面越しでも紙媒体でもない、生身の彼らと一緒にチームを盛り上げていけたら⋯想像するだけでワクワクする。
けれども所詮私は彼らにとって“存在しない人間”と同じ。
過去、私には私の青春 があったように、今現在この世界は彼らの青春真っ只中なのだ。イレギュラーな私が安易に関わるべきではないし、関わらないと当初から決めていた。その気持ちは今も変わっていない。それでもあんな風に、一生懸命な姿を目の当たりにすると正直⋯心が揺らいでしまう。
誰かに必要とされること。
ただそれだけで嬉しくて、泣きそうになる。
(ダメだ⋯今日はほんとにメンタル弱ってる⋯)
ネガティブ思考を振り払うかのように小さく頭を振り、手にしていたチラシを小さく折り畳んで制服のポケットに仕舞った。
next
2020/06/10
お題配布元:誰花
両親の携帯番号は変わらず登録されてるのに何度掛けても呼出し音が流れるばかりで応答は無し。ここへきて入学式、学校生活、バイト⋯とそれなりに充実した日々を送ってはいるものの、当然ながら根本的な不安・疑念は何一つ解消されていない。
今までの自分は一体どうなってしまったのか。
両親、職場の同僚、友人⋯皆どうしているだろう?
いつか全てが元に戻るのだろうか。
普段あまり深く考えないようにしている事がふとした瞬間に頭を擡げ、考えずにはいられなくなる。元々プラス思考でどちらかと言えば前向きなタイプの人間だと自覚はしていても、時折精神が不安定になるとその度に“ああ⋯私は孤独だな⋯”と再認識させられる上に“此処で一体何をやってるんだろう⋯”と急に何もかもが虚しく思えてしまうのだ。
***
あっという間に5月が終わり6月に突入した。
音駒との練習試合の後、IH予選を迎えた男子バレー部は青葉城西と対戦し敗北。その敗北をバネに隣席の天才セッターはオレンジ髪の小さな相棒と春高予選に向けて再び動き始めている。そして動き出したのは彼らだけでは無かった。
「あの、ちょっといいかな?」
昼休み、飲み物を買いに行こうと廊下に出た時だった。背後から声を掛けられたので振り返るとそこには美人マネージャーの清水潔子がいた。間近で見る彼女は本当にキレイで、美しい。美人ってこういう人のことをいうんだと思う。
「―はい」
「突然ごめんね。私3年の清水潔子って言います。あなた、今何か部活はやってる?」
「いえ⋯特には」
「ほんと?!今男子バレー部のマネージャーやってくれる人を探してるんだけど、」
良かったら仮入部してみない?と誘いをかけられる。
「でも私、部活はやってないですけどバイトしてるので」
「そのバイトは毎日?」
「今は平均週4〜5日くらい、ですね」
なので引き受けるのは難しい、というニュアンスを含ませて伝えたけれど彼女は簡単に引き下がらなかった。
「そうなんだ。でもとりあえずの見学だけでも大歓迎だから。少しでも気になったらいつでも見に来てね」
「⋯⋯分かりました」
「ありがとう!それじゃ、」
にこやかに去っていく背中と手渡された『マネージャー募集』のチラシを黙視しながら、当初の目的であった自販機に向かって歩き出す。
プレイヤーではなく、マネージャーという形でバレーボールに――この世界に関わること。テレビの画面越しでも紙媒体でもない、生身の彼らと一緒にチームを盛り上げていけたら⋯想像するだけでワクワクする。
けれども所詮私は彼らにとって“存在しない人間”と同じ。
過去、私には私の
誰かに必要とされること。
ただそれだけで嬉しくて、泣きそうになる。
(ダメだ⋯今日はほんとにメンタル弱ってる⋯)
ネガティブ思考を振り払うかのように小さく頭を振り、手にしていたチラシを小さく折り畳んで制服のポケットに仕舞った。
next
2020/06/10
お題配布元:誰花