15:クロックワーク・ノンフィクション

「ほら、中入れよ」
「お邪魔します⋯」

結局押し問答を制した王様に従う羽目となり影山家を訪問することになった。言っていた通り両親は不在のようで、部屋に入ると影山は肩に掛けていた鞄を隅に置く。

「俺着替えてくるからその辺適当に座っててくれ」
「ありがとう」

お言葉に甘えてソファに腰掛け、あまりジロジロ見ては失礼になると思いながらも見渡せる範囲で雰囲気を確かめる。部屋の中は綺麗に清掃・整理整頓されていてとても居心地が良い。言動は時々横暴さが表れるものの、元々彼は育ちがいいのだろうと察しが付いた。

「悪い。待たせた」

二階から降りてきた影山はTシャツにハーフパンツというラフな格好になっている。影山はそのままキッチンの冷蔵庫からカレーの入った鍋を取り出すと火にかけた。

「良ければ私も手伝うよ。―あ、でもその前に手だけ洗わせてくれる?」
「ああ。洗面所の方が良ければそこ出て右だ」
「ううん、此処で大丈夫」

シンクで手を洗わせてもらい、彼の指示通り食器棚からお皿を出して炊飯器の前へ。

「ご飯大盛りだよね?」
「おう」

結構な量を盛り付けて自分の分と合わせて鍋を掻き混ぜている影山の所まで運ぶ。

「おい神崎、お前これだけでいいのか」
「うん」
「遠慮なんかしてんじゃねーよ」
「全然遠慮はしてません」
「は?マジかよ。お前もっと食わねぇとデカくなんねぇぞ」
「⋯それ、身長が伸びないぞって意味?」
「あ?他にどんな意味があんだよ」

あの影山が胸の大きさを指す筈ないかと妙な納得をしながらも完全なるバレー基準でデリカシーの欠片もない発言に閉口しつつ、それぞれの皿にルーをかけていると丁度電子レンジの音が鳴った。
影山はいそいそとレンジから出来上がったばかりの温泉玉子を取り出し、ワクワク顔でカレーの上に乗っけている。

(本家本元、影山家のポークカレー温玉乗せ⋯!)

心の中で密かに感動していると徐に影山が振り返った。

「神崎も温玉乗せるか?」
「私はこのまま頂くのでお構いなく」
「おまっ⋯温玉のウマさを知らないのか!?」
「ごめん影山くん。私カレーはシンプルに食べるのが好きなの」
「⋯⋯」
「そんなあからさまに落ち込んだ顔しないでよ」
「⋯別に落ち込んでねぇし」

言いつつも影山は未だ納得いかない様子でぶつくさ独り言を呟いていた。


***


「「いただきます」」

テーブルに向い合せで座り同時に手を合わせる。そして人生初の影山家のポークカレーをゆっくりと口に運んだ。
甘過ぎず、辛過ぎず⋯そして口当たりはまろやかなのにしっかりコクもあって凄く美味しい。目の前で勢いよくカレーを頬張るのを時折視界に入れながらその味を堪能する。

「いつもこの時間は一人?」
「まぁ、大抵は。姉ちゃんの仕事も不規則で県外に出てることの方が多い」
「姉ちゃんって⋯え?影山くんお姉さんがいるの?!」
「おう」

知らなかった。
てっきり一人っ子だとばかり⋯。

予備知識がない所へさらりとカミングアウトされ、内心驚愕の嵐。

「お姉さん、何のお仕事してるのか聞いても良い?」
「なんか人に化粧したりとかする仕事」
「? ヘアメイクアーティストかな」
「多分それだ」
「そうなんだ。ちなみに影山くんはいつからバレー始めたの?」
「チームに入ったのは小学生ん時だけど、もっとガキの頃から一与さんに教えてもらってた」
「一与さん??」
「俺のじいちゃん」

新情報再び。
びっくりが満載過ぎてなんだか会話だけでお腹いっぱいになってくるけど、気になったのはその寂しげな表情。

「もしかしておじいさんは、もう⋯?」
「ああ」
「そう⋯」
「神崎は?いつからバレー始めたんだ」
「小さい頃から母親が地域のバレーチームの練習に行くのについて行ったりしてるうちに何となく興味持って、休みの日に近所の公園とか自宅の庭でアンダーとオーバー教えてもらったりしてたから。けど本格的に始めたのは小学校高学年辺り、かな」
「へぇ⋯なんか似てんな、俺達」

大好きなバレーの話と自身と似通った境遇である事が嬉しかったのか、そう言ってナチュラルに笑んだ影山。
いつも『笑顔が怖い』と揶揄されている彼の、初めてみた自然な笑顔に不意打ちを食らい意図せず心臓が跳ねた。元々容姿端麗なこともあり、その破壊力ときたら⋯。

日向は天然の人誑しだけど、王様はギャップ萌えの人種だと確信する。

「影山くん」
「なんだ」
「今の笑顔を忘れなければ学校でモテること間違いなしだよ」
「あ”ぁ”?!」
「この前うちで『モテない原因がどうの』って日向と話してるのがチラッと聞こえたからアドバイスを、と」
「〜〜〜余計なお世話だッ!日向みてーな事言ってんじゃねぇよ!!」


そんなこんなで他愛のない話をしながら食事をしていたらいつの間にか時は過ぎていて。気が付くと時計の針は9時42分を指していて慌てて席を立ち、使用した食器を洗うべくキッチンに立った。

「そのままでいい」
「そういう訳にはいかないよ。夕飯ご馳走になったし、お皿くらい洗わせて」
「⋯うす」

影山家が食器は拭いて仕舞う派なのか自然乾燥派なのか分からないので、とりあえず手早く洗って水切りに伏せておくまでで勘弁してもらうことにする。

「突然訪問した上に長居しちゃってごめんね」
「別に」
「カレーとっても美味しかった。ご馳走様です」
「俺もバレーの話しながら誰かと夕飯食ったの久し振りで、なんつーか⋯その、」
「影山くんはバレーが大好きなんだなってことが改めてよく分かったよ」
「わ、悪かったなボゲェ」

迫力皆無の『ボゲェ』に吹き出してしまいそうになったけれど、またグワッと怒られるのが目に見えているので何とか堪えた。

「それじゃお邪魔しまし⋯って、影山くん?」

何故か靴を履き始めたのを見てギョッとする。

「ロードワークついでに送ってく」
「いいよいいよそんな。ここから5分位だし」
「だからついでだっつってんだろうが」
「もう遅い時間だし危ないよ。ランニングは早朝にして早くお風呂入って休んだ方が、」
「それはこっちのセリフだボゲ!」


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2020/06/27
お題配布元:誰花