16:朝食は君のワガママから

今日は久しぶりにバイトもなく、完全なるオフだ。
休日らしく時間を気にすることなく惰眠を貪り、現在少し遅めの朝ご飯を食し中。

そんな中、来客を告げるインターホンが鳴った。
玄関先にはまさかの訪問者。

「はざす」
「お、おはよう⋯どうしたの?」
「突然押しかけて悪い。借りてた数学のノート、返しに来た」
「ノート?月曜でいいよって言ったのにわざわざ?」
「⋯⋯」

そう返事をすれば影山はまだ他に何か言いたいことでもあるのか、僅かに口元をムズムズさせている。

「もしかしてノート返却は口実で、何か別の用事?」
「!!!」
「(影山くん分かりやす過ぎ)」
「⋯神崎」
「なに?」
「この後、何か予定あんのか」
「ううん。今日はバイトも休みだし、特には」
「だったら軽く練習付き合ってくれないか。ディグと⋯もう一回この前のアレも見たい」
「あれ??」
「バスケットゴールにバックトス決めただろ」
「あー⋯あれですか。―そういえば日向は?」
「今日部活休みで日向も朝から家族と出掛けるっつってた。体育館も照明の交換で使えない」
「それで手近な私を誘いに来た、と」
「まぁそんなところだ」
「⋯⋯」
「? 何か問題あるか」
「いや、問題があるとかないとかじゃなくて⋯いま朝ご飯食べてる最中だし」
「飯が済んでからでいい」
「そもそもどうして私?他のチームメイトに声掛けてみたらいいのに」
「連絡先知らねぇし。それに⋯鳥養監督に聞いた。神崎はリベロからセッターになった奴だって」
「えぇっ?!」

あの時ちゃんと口止めしたのに⋯!
悪戯っ子のように笑う烏養監督の顔が瞬時に思い浮かぶ。

「⋯⋯⋯どうしても?」
「駄目なのか?」
「⋯⋯」
「⋯⋯」
「はぁ⋯(負けたわ⋯)分かった、少しだけなら付き合うよ」
「あざっす!」
「とりあえず上がってよ。お茶淹れるから用意できるまで待ってて」


***


朝食と着替えを済ませ、バスケットコートのある近所の公園までやって来た。

「このまま始めてもいいか」
「ごめん、少しウォームアップさせて。久しぶりだからいきなりだと怪我しそうで怖いし」
「分かった。終わったら声掛けてくれ」

そう言うと影山はその場を離れてゴール下へ。
その間に軽いランニングとストレッチで体を温め解していく。

「影山くんお待たせ」
「もういいのか」
「うん」
「―これ、やっぱ難しいな」

言いながら影山はその場でバックトスをしてゴール方向にボールを送り出した。しかしボールは惜しくもリングに弾かれ、ガコッと音を立てて下に落ちた。

「ほんの数回やってリングに当たるだけでも充分凄いと思うけど」
「神崎はどれくらい練習したんだ」
「正確な数は覚えてないけど、毎日通常練習のあと100本くらいは」
「マジか」
「オーバーハンドは心底苦手だったから練習で補うしかなかっただけだよ」
「苦手でリベロからセッターってのがすげーよ」
「それなりに強いチームに属してるとリベロにしたって“ただ人よりレシーブが上手いだけ”じゃ段々いられなくなるでしょう?チームが強くなるためには二段トスもできるようにならなきゃ、とか」
「その過程でリベロからセッターに⋯って訳か」
「ご名答」
「じゃあ神崎は元々レシーブの方が得意なのか」
「うん。得意っていうか、感覚的に自分で一番上手くできる気がするから好き」
「ならポジションもセッターよりリベロ派ってのが本音か?」
「どうだろう?もっと背が高かったらスパイカーになりたかったかも。やっぱりバレーの花形は、」

突如、殺人的な視線が真横から突き刺さり言いかけた言葉を飲み込む。

「お前も日向と同じかよ。バレーはセッターが一番多くボール触れるんだぞ?スパイクだってセッターのトスがなきゃ打てねぇし、支配者っぽくて一番かっこいいだろーが!!」
「そのセッターのトスだってレシーブあってのことでしょ」
「ぐっ⋯!それは⋯」
「影山くんがセッター推しなのはよ〜く分かるけど、かっこよさや重要性は各ポジションによっても、人によっても感じ方が違うんだから自分の価値観をあまり他人に押し付けないように」
「ぬ⋯」
「―さて、お喋りはこのくらいにしてそろそろ始めようか」
「! そうだな」

ボールを弾く、心地よい音がする。
セッターを務めていた癖にオーバーハンドが心底苦手だと神崎は言った。しかし彼女の手から放たれるボールはとても柔らかで優しい。受け取る相手のことを常に意識しながらボールを捌いている、という事が影山には手に取るように分かる。

「神崎」
「んー?」
「お前のディグ見てみたいから打ってもいいか」
「構わないけど軽めにしてね。影山くんのスパイクなんて受けたら腕もげちゃいそうだし」
「女子相手に本気で強打するかよボゲ。──次、いくぞ」

加減されているとはいえ、流石に久々のレシーブは痛みを感じる。
それでもボールを受ける感覚は元居た世界の頃と同じで腕のどこに当てれば綺麗に返球できるか、瞬時に判断できた。

「――流石、元リベロなだけあるな」
「影山くんにそう言ってもらえるのは素直に嬉しいよ。ありがとう」
「今度日向にもレシーブ教えてやってくれ」
「日向、レシーブ苦手なの?」
「ド下手くそ」
「何もそこまで⋯」
「本当のことだ。―次、もう少し強めにいく」
「ちょっと。私これでも一応女の子だからね」
「あー⋯そういえばそうだったな(ニヤリ)」
「そのドS全開モードな顔やめて」

何度か影山からのスパイクをレシーブした後、本人も満足したのか今度は自分がディグ側にまわりたくなったようだ。

「俺にもスパイク織り交ぜて貰えるか」
「前後左右、揺さぶりも有りでいいの?」
「ああ、望むところだ」
「了解(ニヤリ返し)」


途中、何度か水分補給を兼ねた休憩を挟みつつ練習していたらいつの間にか数時間が経過していた。何となくキリのいいところで練習を終え、揃ってベンチに腰を下ろした。

「はぁ〜疲れた〜」
「悪ぃ⋯少しだけっつってたのに途中から時間忘れた」
「気にしなくていいよ、私も楽しかったし。明日の筋肉痛を想像するとちょっと怖いけど」
「柔軟しっかりやって今夜はシャワーで済ませず湯船に浸かれよ」
「はい王様」
「おい、神崎⋯」
「ごめんごめん。練習付き合ったんだからそんな怒らないでよ」
「ったく⋯」
「そういえば、あれから新バージョンのクイックは成功率上がった?」
「ああ。あれから毎日日向と合わせてるからな」

バイト終了後、合宿から戻ってきた日向と影山から鳥養監督の家へ来るよう誘われた日にあの新速攻を目の前でお披露目された。
中々思うようにいかず、今日はもう駄目かと思われた最後の最後で決めてみせた二人の自信に満ちた表情が今でも強烈に焼き付いている。

「試合で使うのが楽しみだね」
「そうだな。つーか、神崎も試合観に来ればいいだろ」
「ありがとう。考えとくよ」
「ついでにマネージャーの件も」
「あ、とうとう影山くんまで日向みたいになってるし」
「神崎がいれば自主練の質ももっと向上しそうだろ」
「今はバイトがあるから無理です」
「⋯⋯チッ」


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2020/10/12
お題配布元:Cock Ro:bin