17:純情エゴイスト

「おいお前ら、自主練はいいけど今日の練習ハードだったから程々にしてちゃんと体を休めろよ」
「ハイ!」「ウス」
「じゃあお疲れ」
「「っしたー!!」」

そう言って体育館を後にする澤村に頭を下げて見送った日向と影山は早速ボールを手にする。

「影山!トス、上げてくれ」
「トスはいいけど先にサーブレシーブの精度を上げる努力しろよ。そのための自主練だろうが」
「うっ⋯」
「俺がサーブ打ってやる」
「えぇ〜〜〜」
「『えぇ〜〜〜』じゃねぇよボゲ!このどヘタクソが!」
「ヘタクソ言うなっっ」

当然日向自身レシーブが上手くなりたい気持ちはある。
しかしスパイクと比べるとどうもレシーブは苦手意識があり、経験値も圧倒的に不足している。それを補う為にも人一倍練習を積まなければならないことは承知しているのだが、烏野の守護神である西谷に以前アドバイスを求めた際も天才型であるが故に感覚的な物言いで今一つピンと来ず。

そして現在目の前にいる相棒も西谷と同類で指導の仕方も極度のスパルタ+怒鳴られっぱなしになる事が判りきっているので影山と二人でレシーブ練習に取り組むのは正直遠慮したい⋯というのが本音だ。

「だって影山ずっと怒ってばっかじゃんかー」
「お前がちゃんと教えた通り出来ないからだ」
「そんな言われてすぐホイホイ言う通り出来たら苦労しねぇよ!それに仮に上手く出来ても絶対褒めてくんないだろ!?」
「あ?お前、俺に褒められたいのか」
「そりゃあ怒鳴られてばっかじゃモチベーションも上がら⋯いや、でも影山から素直に褒められてもなんか気持ち悪い」
「あ”ぁ”?!――つか、今度お前も神崎に相手してもらえよ」

元々リベロなだけあってディグも上手いぞ、と影山が口にすると日向は目を輝かせた。

「神崎さんがバレーしてるとこ見たのか?!」
「見たっつーか、最近偶に相手してもらうことがある。軽いパス程度だけど」
「な、なんですと⋯!」

何気なくサラリと告げられた日向は羨ましいやら悔しいやらでムギギギ⋯と歯を食いしばりながらジト目で影山を見遣る。

「神崎さんなら影山と違っておれにも判りやすくアドバイスくれそうなのに⋯!」
「だから今度頼んでみろって言ってんだろう」
「でも神崎さんだってバイトしてるし、おれ達の都合ばかり押し付ける訳にいかないだろ」

そもそも現時点で彼女はバレー部と何の関わりもない立場で。
それに少し前までバレーの話題を口にするのすら躊躇していたくらいだ。何かがきっかけでバレーに対して頑なだった気持ちに多少変化があったのは間違いないだろうが、あまり図々しくなるのは良くないと日向は思う。

「家が近所で影山も気軽に誘いやすいんだろうけど、少しはその辺考えて行動しろよな!」
「んぬん⋯」

日向に指摘されて初めて自覚する影山。
ノート返却を口実にダメ元で誘いを掛け、パス練に応じてもらってから無意識に味を占めてしまっていたのかもしれない。
勿論バイトの事は考慮しつつだが、少し物足りない⋯と感じた日には自然と神崎の自宅へと足を向ける事が多くなっていた。祖父を亡くしてからというもの、部活以外で気軽にバレーの話をしたり、練習相手をしてくれる人間が身近にいなくなっていたから尚更。

「あ〜でも神崎さんが正式にマネージャー引き受けてくれたらいつでも堂々と『相手して下さい』って頼めるのになぁ」
「俺もそう思ってそれとなく声は掛けてるけどバイトを理由にあっさり躱される」
「⋯影山クン、不満オーラが全開になってますよ」
「つーか日向の方が勧誘するのとか向いてんだろ。多少強引でもいいからあいつ引っ張ってこい」
「王様こわっ!独裁政権こわっっ!!」

そんな二人のやり取りを、洗い終えたスクイズボトルを手にしたまま鉄の扉の向こう側で谷地仁花がひっそりと耳にしていた。


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2020/11/10