02:ラブリーベイベー

「春菜〜お昼食べよー」
「うん。お腹すいたね」

前の席に座る彩ちゃんとはあれから随分親しくなった。
女子高生を絵に描いたような子だけれど、性格もさっぱりしていて距離感も心地良くて丁度いい。

「春菜のお弁当今日も美味しそ〜!しかもカワイイ!!」
「そうかな?ありがとう」

お弁当作りはいわば趣味みたいなもので学生時代からよく自分で作っていた。キャラ弁なんて手の凝ったことをしなくても彩りを良くして、可愛いピックやバランを使うだけで小洒落て見えるものだ。

そんな他愛無いお喋りをしている最中。
隣で鞄を執拗に漁っているのは烏野バレー部の天才セッター。

「やべぇ⋯」

最後、この世の終わりみたいな顔をして一言。
悲壮感漂う姿を目撃した私達は思わず顔を見合わせる。

「影山、どうかしたの?」
「⋯弁当忘れた」
「マジで?財布は?」

藤本の問いかけに学ランのポケットを探るも、出てきたのは100円玉と50円玉が1枚ずつ。難しい顔をして無言のまま机上の小銭を見下ろす影山。
これは非常事態だと察し、すかさず鞄から財布を取り出し千円札を差し出した。

「影山くん、良かったらこれ使って」
「え⋯いいのか」
「今日も部活だよね?ちゃんと食べとかないと体持たないよ。お金は明日返してくれればいいし、遠慮しなくていいから購買行って!早くしないと売り切れちゃう」
「っ、あざッス!!」

猛ダッシュで教室を出て行くのを見てホッとし、食事を再開する。

「春菜良かったの?あんなポンとお金渡しちゃって」
「だって困ってたし。それに影山くんならちゃんと返してくれるかなって」
「まぁ確かにその辺律儀な感じはする」
「でも良かった。今日帰りスーパーに寄るつもりでお金持ってたから」
「影山は不幸中の幸いだ!持つべきものは良き隣人だね〜」


***


翌日。
そろそろ一限目に使う教科書を準備しておこう、と机の中を漁っていると。

「神崎⋯⋯さん」

ぎこちなく名を呼ばれて顔を上げれば影山が立っていた。

「昨日は助かった。―これ」

手渡されたのは白い封筒と小さなキャンディの詰合わせ。

「え、いいの?」
「母さんに一緒に渡せって言われた」

そこは“お母さんが”と口にしない方がより好印象ですよ?
なんて心の中で助言しつつも、この正直さが彼の良い所なのかと思い直せばそれすらも微笑ましくなる。

「そうなんだ?ありがとう。お母さんにも『お気遣いありがとうございます』って伝えてくれる?」
「ウス」
「あと無理に『さん』付けはしなくても大丈夫だから」
「! あざす!」

これで任務は全うした!と言わんばかりに満足気な表情を浮かべると影山は自分の席に着く。
窓から吹き抜けていく風が、優しく彼の黒髪を揺らした。


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2020/05/18