03:アイデンティティー

学生は勉強が本分とはいえ、テストの為の勉強となると精神的にキツイものがある。
こんな気分の時はお酒でも飲んでちょっと一息つきたい。

成人後に覚えた酒の味とほろ酔い時のふわふわした感覚がふいに蘇り、急激に飲酒欲求が高まる。⋯が、残念ながら今は未成年。しかし本来の自分はれっきとした成人女性で社会人だったのだ。

家の中で酎ハイ一杯くらいならもしかしたら有り、かも⋯?

そんな都合のいい解釈を頭の中で巡らせ、気がつけば近所のコンビニまでやって来ていた。
すかさず店の最奥まで突き進みドリンクコーナーの前に立つ。ソフトドリンク、ビール、と続きその横にはお目当ての缶チューハイが並んでいる。

(あっ、あれは…!)

大のお気に入りだった“グレフルソルティ”の文字を発見しテンションは急上昇。商品名は微妙に違ってるけど味が同じなら問題はない。ゴクリ⋯と小さく唾を飲み込んで恐る恐る手を伸ばした。

「おい」
「ヒェッ」

目当ての品をカゴに入れようとしたまさにその時、背後から突然の低音ボイス。

「っ、影山くん?!」
「神崎。それ酒だぞ」
「こ、これはその〜お父さんに頼まれて買いに来た⋯的な?」
「今は一人で暮らしてんじゃねーのか」
「え?!私影山くんにそんな話、したっけ?」
「藤本といつも話してんだろ」

ぐうの音も出ない返しに顔を引き攣らせていれば、手にしていた酎ハイはあっという間に取り上げられて元の位置に。じぃっと上から見下ろされるとかなりの迫力で身が縮こまる。
すると影山は徐に横の冷蔵棚のドアを開け『グレープフルーツソーダ』のラベルが貼られたペットボトルを1つ取るとそれを差し出した。

「どっちにしろ、未成年じゃ酒は買えねぇよ」
「⋯やっぱり?」
「当たり前だボゲ」

ピシャリと言い放つと影山は踵を返して雑誌が並ぶ方へ。
初の影山節を浴びせられた事にちょっぴり感動しつつ、手渡された炭酸飲料と目についたお菓子をカゴに放り込んでからレジに向かった。


会計を済ませ、外に出てから買ったばかりのソーダの栓を捻る。所望していたものとは違うけれどこれが思いのほか美味しくて、一気に半分程減ってしまう。

そうこうしている内に影山も店から出てくる。

「影山くんは何買ったの?」
「月バリ」
「月バリ?」
「バレー雑誌。⋯つか、なんか意外だな」
「?」
「神崎はもっとマジメな奴だと思ってた」

実は不良だったんだな。と真顔で言い放つ影山。

「ふ、不良じゃないし!」
「全然説得力ねーよ」
「未遂だったんだからもう勘弁してよ⋯」

これ以上は墓穴を掘るだけだ、と素直に降参すれば影山は勝ち誇ったようにドヤ顔をみせる。

さすがはコート上の王様。

「それにしても、毎日こんな遅くまで練習してるの?」
「まぁ⋯自主練してたら大抵このくらいになる」
「そっかー。けど怪我と事故には気を付けてね。帰りが遅いとご両親も心配だろうし」

意外な反応に影山は少し驚いた。
これまでの経験上、部活の話をすれば大概否定的なニュアンスで『大変そう』だの『練習ばかりで嫌にならない?』だの言われることが多かった。けれど彼女の様にただ純粋に己の身を案じてもらう、というのは悪くない気分だ。

「つーか、それを言うなら神崎もだろ」
「ん??」
「急用でも無ェのにこんな時間に一人でフラフラ出歩いてんなボゲ」
「コート外でも王様モード発動だ⋯(ぼそ)」
「あ”?」


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2020/05/22