02:レーザービーム

「ごめんね。練習前に付き合って貰っちゃって」
「部活用のスポドリ買い足しに行くんだろ。別に謝らなくていい」
「本当助かるよ。粉末とはいえまとめ買いとなると結構な重さになるから。でも影山くんが居るなら予定より少し多めに買っちゃおうかな」

特売中のドラックストアが自宅から近いので先日買い出し役を引き受けたところ、影山も荷物持ち要員として同行してくれることになったのだ。

「――あ、これだ」

顔を見合わせ、互いに小さく頷いて商品をカート上のかごの中へ。二人で持ち運び出来そうな数になった所でレジに移動し支払いを済ませて店を出た。

「影山くん重くない?」
「大したことねぇ。神崎は?」
「うん。程よい筋トレって感じ」

この後練習があるのでこのまま学校へ…と歩みを進めようとしたその時。

「あれ、飛雄じゃん」

背後からの声に振り返るとそこには青城の及川徹が。

「お、及川さん…ちわっす」

いつかは烏野以外の主要キャラとも対面する日が来るだろうとは思っていた。――が、“出来れば彼とは直接関わることがありませんように…”と淡い希望を抱いていたのにその願いは見事に打ち砕かれた。

「―ん?この子は…え、まさか飛雄の彼女?!」
「新しいマネージャーです」
「へぇ〜烏野はまた新マネちゃんが入部したの?」

言うが早いか、及川は春菜を見遣ると得意の笑みを浮かべた。
流石に無視する訳にもいかず、現状では及川の方が先輩にあたるので自ら挨拶を口にする。

「……初めまして。烏野1年の神崎春菜です」
「初めまして。俺は…って、改めて自己紹介しなくてももしかして知ってたりするー?」
「青葉城西・セッターの及川さん、ですよね」
「おお、大正解!どうぞよろしくね〜春菜ちゃん」
「…はい」

この声と及川が纏う雰囲気。
元居た世界で付き合っていた彼ととても良く似ている。

大学卒業後、就職してから若干遠距離気味にはなったものの暫くは上手くいっていた。このまま行けばいつかは彼と結婚するのかもしれない、なんて時々考えることもあったのに…いつからか徐々に連絡を取ることも会うことも極端に少なくなっていた。
当然及川と容姿は全然違うけれどそれなりに整った顔立ちで人当りも良かった彼はモテるタイプだったし、就職した先で他に好きな人ができたのかもしれないと想像したけれど…それを直に確かめる勇気もなくて。そんなことを悶々と考えているうちに此方の世界へ来てしまい現在に至っている。

隣に居た影山は珍しく歯切れが悪い様子の春菜を見て、無意識に彼女を背中で庇うように前に出た。初対面であるにもかかわらず、及川が馴れ馴れしく春菜の名前を呼んだことにも何となくムカついて。

「すみません及川さん。俺達この後部活あるんで失礼します」
「あっそう。――じゃあ春菜ちゃん、部活頑張って。まったね〜」

影山への態度とは打って変わり、さわやかスマイルを全面に押し出して愛想良く手を振る及川。それに対し影山の背後からペコリと小さく頭を下げてからその場を後にした。


***


「神崎は及川さんが苦手なのか」

暫く行ったところで影山はストレートに問う。

「!…そんな風に見えた?」
「ああ。神崎は日向ほど人懐っこいワケじゃねーけど、初対面の相手でも割と平然としてるだろ」
「え、そうかな」
「おう」

そう言われてみれば確かに。
この世界で出会う人は自分本来の感覚的には殆どが皆年下で、元々認知しているキャラクターが多いからかもしれないと初めて自覚した。

「まぁでも、及川さんには気をつけろ。あの人は…なんつーか、女好き?だから」

この間及川と会ったとき連れていた甥っ子が『彼女に振られた』と口走っていたのをふと思い出し、影山はさりげなく春菜に忠告した。
彼女が及川にキャーキャー熱を上げている取り巻き達のようになってしまう事はないとは思う。…が、女性の扱いに慣れていてあれだけモテるということはあの軽薄さも女側からすれば満更でもないのだろう、と影山なりに解釈している。

「大丈夫だよ。及川さんとそんな関わる機会もないし。―あ、ちなみに影山くんはどういう女の子がタイプなの?」
「…?」
「え、今まで気になる子とか好きになった子とかいないの?」
「いない」
「即答だね(予想通りといえば予想通りだけど)」
「……あ、」
「ん?」
「『俺のバレー好きを理解してくれる人がいい』」
「???」
「俺にはそういう人がいいって、この前姉ちゃんがそんなこと言ってた…ような気がする」

難しい顔をして懸命に姉から告げられたであろう助言を思い出している影山。そんな彼を見て、本当に今までバレー一直線で生きてきたんだろうなと改めて思う。

「ふふ、流石は影山くんのお姉さん。すごく的を得たアドバイスだと思う」
「そうか?」
「もし付き合ってる彼女が一緒にバレーやってくれたり、バレーの試合観て盛り上がれたりする子だったら影山くんも楽しいでしょう?あとは…料理が得意な子とか。影山くんの好きなカレー作ってもらえるよ」

そう言われ、影山は想像してみた。
一緒にバレーして、試合のDVD見て、料理ができる―――頭の中でイメージしている内に、最終的に自分の横に並んで歩いている人物へと辿り着く。

「つまり、神崎みたいな奴ってことか?」

暫しの沈黙の後、急に立ち止まり真顔で言い放った影山。

「……」
「……」
「……はい?」
「俺が知ってて関わりのある女子の中でバレーできて料理できるっつったら今んとこ神崎しかいな「いや、うん、そうじゃな…いや、なんていうのかな…私にも当てはまる部分はあるかもしれないけど、世の中には沢山女の子が存在してるんだよ」
「まぁ、それはそうだろうな」
「そうそう。だから将来影山くんにそういう素敵な人との出会いがあるといいねって話だよ。分かる?」
「……つか、時間ヤバくないか」

単純にこの話題が影山にとってどうでもいいと判断されたのか、それとも一番大事なバレーのことを思い出していきなり我に返ったのか。
唐突な影山の問いかけに促されて時計を確認すれば、あれほどあった時間の余裕は無いに等しい状況になっている。

「あっ ほんとだ…!影山くん急ごう!」
「おい神崎っ ちゃんと前見て走らねぇと転ぶぞボゲ!」


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2021/02/17