03:なにぶん恋は不得意でして

休憩中、館外脇にある水飲み場で日向がバシャバシャと顔を洗いタオルで水気を拭った直後だった。真横から不機嫌さを物語る舌打ちが聞こえたのは。

何事かと影山の視線の先を辿れば月島と春菜が話をしていて、途中月島がいつもの人を小ばかにした表情で何かを発した。だがそれに対して彼女はムキになることもなく上手く躱したようで月島の揶揄いは失敗に終わった。その腹いせか、今度はその小さな頭を月島の手がガシリと掴んでいる。

「影山さぁ⋯」
「――んだよ」
「最近神崎さん絡みの不機嫌が過ぎるぞ」
「⋯はぁ?何言ってんだお前、」

ここのところ日向が気になっていた影山のその態度。分かりやすく云えば、まるで小さな子供がお気に入りのオモチャをいきなり横取りされて機嫌を損ねる⋯みたいな。
それは春菜が他の男子(主に月島)と一対一で他愛もない会話をしている時に多く見受けられる。しかし練習中や皆で集まっている時などは決してそんな素振りは見せないし、先程のようにあからさまに不機嫌さが表に現れるのはこうして少し離れた距離から影山的に気に入らない現場を目撃したとき限定なので、王様の些細な変化に気づいているのは日向のみと思われる。

そしてそれを裏付けるかのように、指摘された張本人でさえ全く真意が理解できていない様子。

「じゃあさっきの舌打ちは何なんだよ」
「? 舌打ちなんかしてねぇ」
「いや、してたし!つーか完全に無意識かよっ」

影山、日向、谷地の3名による粘り強い勧誘がついに実を結び、ひと月ほど前から神崎春菜は臨時マネージャーとしてバレー部に顔を出すようになった。
ずっと『中途半端はかえって迷惑になる』とやんわり拒否し続けられていたのだが、最終的に3年マネである清水や鳥養コーチも"一先ず無理のない範囲で構わない”とそれとなく彼女を説得してくれたおかげで現状に至った。もちろん当人達だけでなく他の部員も大歓迎で喜んでいる。

「今は臨時だけど神崎さんがバレー部の一員になった以上、他のメンバーとも親しくするのは当然だろ」
「んなもん、当たり前だ」
「分かっててアレかよ!無自覚こわっ」
「???」
「つか⋯⋯影山は神崎さんが好き、なの?」
「あ?好きか嫌いかなら、そりゃ好きだろ」

バレーの話をすれば此方の意図をすんなり理解してくれるし、余計な気遣いや説明は不要。男女の力・体格差はあれど練習相手としても不足ということはない。更に云えば勉強面でも頼れば力になってくれる。同クラスで隣席、おまけに自宅も近くて休みの日も自主練に誘いやすい。

嫌いになる要素はない、と暗に伝えれば。
日向は呆れたような眼差しを浮かべてから自身の頭をグシャグシャと掻いた。

「あ〜〜も〜〜!だから、そうじゃなくって!」
「???」
「恋愛的な意味で神崎さんが好きなんじゃねーのって言ってんの!!」

レンアイテキナイミデ⋯
れんあいてき⋯⋯

ああ、恋愛的な意味で、か。
想定外過ぎる日向の言動に理解するまで数秒かかった。

「おれが見てた限り、影山がこんなんなるのって神崎さんだけじゃん?仮に谷地さんや清水先輩が同じ状況になってても気にも留めないだろ」
「⋯⋯」

――まぁ、そう言われればそう⋯なのか?

「ぬぉー!影山クンもとうとうバレー以外の青春を見つけちゃいましたか〜」
「⋯⋯おい、人のこと勝手に色々決めつけてんじゃねーよ」
「バレー馬鹿な王様にも人間らしい感情があったんだなぁ。なんかおれ、感動した!」
「日向テメェ⋯!いい加減に、」

影山が言いかけたそのとき。
練習再開の掛け声が耳に入ると二人は即座に真面目な顔つきになり、ダッシュで館内へと戻っていった。


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2020/11/18
お題配布元:Cock Ro:bin