04:ビタミンドロップス
「では、得点板の用意とホイッスルの数の確認だけお願いします」
「了解です」
「あ、それともし自主練をしている生徒がいたら帰宅するよう声掛けをしてもらいたいのですが」
生憎僕はこれから会議があるので⋯と武田先生は申し訳なさそうにそう付け加えた。
学校行事の関係で体育館の使用は5時までとなっているこの日、そんなことはすっかり忘れて自主練を続けているバレー部1年コンビの姿がすぐさま思い浮かぶ。
「分かりました」
「すみません。よろしくお願いします、神崎さん」
***
第二体育館からは案の定、ボールのぶつかる音が漏れ聞こえている。
(とうとうこの目で目撃してしまうのか⋯)
放課後、この場所には絶対近づかない様にしていたのに⋯神の戯れは未だ続いているのだとしか思えない。が、任された仕事を放棄する訳にもいかない。
意を決し、ゆっくりと体育館入口の重い扉を開いた。
影山がトスを上げ、日向が軽やかに宙を舞う。
そして次の瞬間にはネットの向こう側にボールが叩きつけられる。
それを見てあの頃の記憶が鮮明にフラッシュバックする。
春高バレー最後の決勝戦。
ジャンプした直後、右脚に走った激痛。それでも何とか上げたバックトスは、、
「―神崎?」
影山の声に意識が引き戻される。
気が付けば、二人の視線が注がれていた。
「今日体育館が使えるのは5時までって言われませんでしたか」
「⋯あ!そういえば、」
「ぬっ」
日向と影山は今思い出したと言わんばかりに揃って時計に目をやる。
「分かったら練習切り上げて早く帰ってねー」
「わざわざそれを言いに来たのか」
「まさか。レクリエーションで使う用具の確認ついでに、まだ残ってる生徒が居たら声を掛けてくれって武田先生に頼まれたから」
影山の問いに返答していると、ぴょこんとオレンジ色が視界に飛び込んでくる。
「なになにー?影山の友達??」
「影山くんとは席が隣同士なの」
「そうなの!?おれ、1組の日向翔陽。よろしく!」
「3組の神崎春菜です。よろしく」
誰とでもすぐに打ち解けてしまう日向に影山は感心しながらも、そんな素振りはおくびにも出さず散らばったボールを黙々と拾い集めていく。
「あ、日向くん」
「なに?神崎さん」
「バレーのネットと支柱、片付けなくていいからこっちのハーフコートの方に移動してくれないかな?明日のレクで使うから」
「オッケー!」
「おい日向。お前は向こう側外してこい」
「えぇ〜?!お前が行けよ〜」
「いいからさっさと行け日向ボゲェ!」
くだらない言い争いを始めた二人に、こんなやりとりを本当にしてるんだと苦笑しつつ倉庫に得点板とホイッスルを取りに行く。
一通り確認を終えてとりあえず館内の隅に出しておくことにした。
「神崎、ネットはどうすんだ?張っておいた方がいいのか」
「支柱だけ移動してくれてたら大丈夫。どうもありがとう」
「どーいたしまして!そんじゃ、部室までダッシュだ〜!!」
「っ?! 待てゴラ日向ァ!!」
ダッシュで部室に向かう二人が去った後。
第一体育館に移動し同じ作業を終え、校内を出た所で再び変人コンビと出くわした。
「神崎さーん!」
「日向くん、さっきはありがとね。自主練お疲れ様」
「神崎さんもお疲れ!つか、おれのことは日向でいいよ」
「えっ?!いや⋯でも、」
「(じーーー)」
「うっ⋯ひ、ひな、た?」
「ははっ!神崎さん緊張し過ぎ〜」
ぐんぐん牛乳片手に和気藹々と言葉を交わしているのを傍らでじっと見つめる影山。クラスメートや普段よく一緒に居る藤本相手ですら呼び捨てになんかしねーくせに、と内心悪態を吐く。
(まぁ⋯どうでもいいけどな)
どうでもいいのに何故こんなことを考えているのか?と新たな疑問が生まれた気がしたが、その思考は日向によって掻き消された。
「じゃあ神崎さん!影山!また明日なー!!」
「おう」
「帰り道気を付けてね」
自転車を漕ぎ出す日向の背中に手を振り影山と帰路につく。
先日のコンビニ遭遇事件で互いの家が割と近所だということが発覚した事もあって自然と並んで歩いていく。
「家がひと山越えた先なんて毎日通うの大変そう⋯。夜遅い時なんて凄く心配だよね」
「ったく⋯神崎はいつもそれだな」
「ん?何が?」
「お節介で心配性な近所のオバサンかよ」
「お、おばさん?!」
おばさんと言われる程大きく歳が離れている訳ではない(と思いたい)けれど、意識せずとも年上としての保護欲が勝手に働いてしまう。高校生なんて身体はどんどん大人に近づいてはいるけれどまだまだ子供の部類だ。ましてや一年生なら尚更。経験者がいうのだから間違いない。
「だって夜は人通りも少ないし余計危ないでしょ」
「俺も日向ももうガキじゃねぇし、男だぞ」
「性別は関係ナシ。高校生なんてまだまだ十分子供だよ」
「はぁ?自分だってタメのくせに何言ってんだ」
マジでオバサン思考じゃねーか、と影山は鼻で笑って言い放つ。
しまった、つい本心が⋯と思うが下手に否定することもできずジト目で牽制するに留めて気を取り直す。
「そういえば明日のレク、影山くんは何にしたの?」
「バドミントン」
「部活でやってる種目は選べないルールだもんね。バレーできなくて残念だね」
「別に。素人混じりのチームでやってもイライラするだけだろ」
「影山くんらしい非情なコメント」
「非情ってなんだよ。そう思うんだから仕方ないだろ。―で、神崎は何やるんだ?」
「私は実行委員だから点付けとか審判とか」
「つまんねぇな」
「⋯影山くんはもう少し言葉をオブラートに包むってことを覚えた方がいいと思う」
「???」
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2020/05/22
「了解です」
「あ、それともし自主練をしている生徒がいたら帰宅するよう声掛けをしてもらいたいのですが」
生憎僕はこれから会議があるので⋯と武田先生は申し訳なさそうにそう付け加えた。
学校行事の関係で体育館の使用は5時までとなっているこの日、そんなことはすっかり忘れて自主練を続けているバレー部1年コンビの姿がすぐさま思い浮かぶ。
「分かりました」
「すみません。よろしくお願いします、神崎さん」
***
第二体育館からは案の定、ボールのぶつかる音が漏れ聞こえている。
(とうとうこの目で目撃してしまうのか⋯)
放課後、この場所には絶対近づかない様にしていたのに⋯神の戯れは未だ続いているのだとしか思えない。が、任された仕事を放棄する訳にもいかない。
意を決し、ゆっくりと体育館入口の重い扉を開いた。
影山がトスを上げ、日向が軽やかに宙を舞う。
そして次の瞬間にはネットの向こう側にボールが叩きつけられる。
それを見てあの頃の記憶が鮮明にフラッシュバックする。
春高バレー最後の決勝戦。
ジャンプした直後、右脚に走った激痛。それでも何とか上げたバックトスは、、
「―神崎?」
影山の声に意識が引き戻される。
気が付けば、二人の視線が注がれていた。
「今日体育館が使えるのは5時までって言われませんでしたか」
「⋯あ!そういえば、」
「ぬっ」
日向と影山は今思い出したと言わんばかりに揃って時計に目をやる。
「分かったら練習切り上げて早く帰ってねー」
「わざわざそれを言いに来たのか」
「まさか。レクリエーションで使う用具の確認ついでに、まだ残ってる生徒が居たら声を掛けてくれって武田先生に頼まれたから」
影山の問いに返答していると、ぴょこんとオレンジ色が視界に飛び込んでくる。
「なになにー?影山の友達??」
「影山くんとは席が隣同士なの」
「そうなの!?おれ、1組の日向翔陽。よろしく!」
「3組の神崎春菜です。よろしく」
誰とでもすぐに打ち解けてしまう日向に影山は感心しながらも、そんな素振りはおくびにも出さず散らばったボールを黙々と拾い集めていく。
「あ、日向くん」
「なに?神崎さん」
「バレーのネットと支柱、片付けなくていいからこっちのハーフコートの方に移動してくれないかな?明日のレクで使うから」
「オッケー!」
「おい日向。お前は向こう側外してこい」
「えぇ〜?!お前が行けよ〜」
「いいからさっさと行け日向ボゲェ!」
くだらない言い争いを始めた二人に、こんなやりとりを本当にしてるんだと苦笑しつつ倉庫に得点板とホイッスルを取りに行く。
一通り確認を終えてとりあえず館内の隅に出しておくことにした。
「神崎、ネットはどうすんだ?張っておいた方がいいのか」
「支柱だけ移動してくれてたら大丈夫。どうもありがとう」
「どーいたしまして!そんじゃ、部室までダッシュだ〜!!」
「っ?! 待てゴラ日向ァ!!」
ダッシュで部室に向かう二人が去った後。
第一体育館に移動し同じ作業を終え、校内を出た所で再び変人コンビと出くわした。
「神崎さーん!」
「日向くん、さっきはありがとね。自主練お疲れ様」
「神崎さんもお疲れ!つか、おれのことは日向でいいよ」
「えっ?!いや⋯でも、」
「(じーーー)」
「うっ⋯ひ、ひな、た?」
「ははっ!神崎さん緊張し過ぎ〜」
ぐんぐん牛乳片手に和気藹々と言葉を交わしているのを傍らでじっと見つめる影山。クラスメートや普段よく一緒に居る藤本相手ですら呼び捨てになんかしねーくせに、と内心悪態を吐く。
(まぁ⋯どうでもいいけどな)
どうでもいいのに何故こんなことを考えているのか?と新たな疑問が生まれた気がしたが、その思考は日向によって掻き消された。
「じゃあ神崎さん!影山!また明日なー!!」
「おう」
「帰り道気を付けてね」
自転車を漕ぎ出す日向の背中に手を振り影山と帰路につく。
先日のコンビニ遭遇事件で互いの家が割と近所だということが発覚した事もあって自然と並んで歩いていく。
「家がひと山越えた先なんて毎日通うの大変そう⋯。夜遅い時なんて凄く心配だよね」
「ったく⋯神崎はいつもそれだな」
「ん?何が?」
「お節介で心配性な近所のオバサンかよ」
「お、おばさん?!」
おばさんと言われる程大きく歳が離れている訳ではない(と思いたい)けれど、意識せずとも年上としての保護欲が勝手に働いてしまう。高校生なんて身体はどんどん大人に近づいてはいるけれどまだまだ子供の部類だ。ましてや一年生なら尚更。経験者がいうのだから間違いない。
「だって夜は人通りも少ないし余計危ないでしょ」
「俺も日向ももうガキじゃねぇし、男だぞ」
「性別は関係ナシ。高校生なんてまだまだ十分子供だよ」
「はぁ?自分だってタメのくせに何言ってんだ」
マジでオバサン思考じゃねーか、と影山は鼻で笑って言い放つ。
しまった、つい本心が⋯と思うが下手に否定することもできずジト目で牽制するに留めて気を取り直す。
「そういえば明日のレク、影山くんは何にしたの?」
「バドミントン」
「部活でやってる種目は選べないルールだもんね。バレーできなくて残念だね」
「別に。素人混じりのチームでやってもイライラするだけだろ」
「影山くんらしい非情なコメント」
「非情ってなんだよ。そう思うんだから仕方ないだろ。―で、神崎は何やるんだ?」
「私は実行委員だから点付けとか審判とか」
「つまんねぇな」
「⋯影山くんはもう少し言葉をオブラートに包むってことを覚えた方がいいと思う」
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