07:王様の休日

「「――あ、」」

担当者からの説明を聞き終え、帰る前に何気なく店内をブラブラしていると影山と鉢合った。

「神崎⋯何してんだ?」
「ちょっとバイトの件で説明受けに来たの」
「ここでバイトすんのか」
「まだ検討中。影山くんは?」
「シューズ見に来た。あとテーピングとかコールドスプレーとか⋯ショップ行ったらついでに買ってくるように先輩に頼まれてて今探してる」
「それなら向こうでみたよ」

言いながら、成り行きでその場所まで案内すると影山はメモを見ながら必要な品を物色し始める。それにつられて何となしに商品を眺めていると微妙にメーカー名は違っているものの、昔自分が愛用していた物と同じものかも?と思う品が多数目についた。仮にこの世界が現実世界を模倣して作られているとしたら、使い心地なんかもほぼ同等なんじゃないだろうか。

そんなことを考えている間に、影山は必要な品をすでにカゴの中に放り込んでいた。

「影山くん」
「なんだ」
「また余計なお節介かもしれないけど、今から支払うお金って後日先輩に請求したりする?」
「ああ。マネージャーが部費で購入するっつってた」
「だったら念のため領収書貰っといた方がいいかも」
「? レシートじゃダメなのか」
「駄目ではないけど、その方が後々顧問の先生も助かるかもしれない」
「その領収書ってのはどうやって貰うんだ?」
「⋯いいよ分かった。一緒にレジまで行こう」

口で説明するよりその方がてっとり早いと判断しレジへ向かう。

「すみません領収書下さい。宛名は『烏野高校男子バレー部』でお願いします」

会計もスムーズに終わり影山と共に店外に出た。
絶対なくさないように、と念押しして受け取った領収書を手渡す。

「あざッス」
「どういたしまして」
「⋯なんか腹減ったな」
「確かに。もうお昼だしね。影山くんこの辺で美味しいご飯屋さんとか知らない?」
「バーガー屋とファミレスなら知ってる」
「それってどこにでもあるチェーン店の?」
「そうだけど」
「ふーん⋯」

この辺りまで足を延ばしたのは初めてで、運良く土地勘のありそうな人と遭遇できたからと尋ねてみたけれど⋯尋ねる相手を間違えた。
まぁよくよく考えてみたらこの年頃の男の子は皆そんなものだろうな、という結論に至った。だからと言ってすぐに諦めるなんてことはしない。キョロキョロと周りを見渡し、飲食店とおぼしき建物を注視する。

「―ねぇ、あの定食屋さん雰囲気良さ気じゃない?折角だから入ってみようよ」
「はぁ?!」
「初めてのお店って一人だとちょっと気後れしちゃうし、奢るからお昼付き合って。⋯あ、もしかしてお家の人がご飯作って待ってたりする?」
「いや⋯夕方まで俺一人だけど」
「それならレッツゴー」
「おい神崎っ、ちょっと待て⋯!」

店内は外観のイメージ通りアットホームな雰囲気で優しそうなおかみさんが出迎えてくれた。価格帯も殆どが千円以内でランチとしては合格ライン。あとは味が良ければ二重丸だ。
初めてのお店にわくわくしながらメニューを見ていると、目の前の少年の瞳がキラキラ輝いたのが分かった。さてはポークカレーの文字を見つけましたね?天才セッターくん。

「影山くん決まった?」
「おう」
「じゃあ注文しよう」

予想通り、影山はポークカレーをオーダー。
これで温玉があれば最強だな⋯などと一人ぼやいている。
暫くすると注文した料理が運ばれてきて、熱々の湯気と共に食欲をそそる匂いが鼻腔を擽った。

「「いただきます」」

いつもはクールな少年も、この時ばかりは年相応のまだ幼さが残る無邪気さでカレーを口いっぱいに頬張っている。そんな姿を見ていると何とも微笑ましくて、ついついじっと見入ってしまう。

「⋯あんだよ?食わないのか」
「ちゃんと食べてるよ」
「さっきから全然減ってねぇぞ」
「良かったら味見する?」
「⋯⋯ウス」

若干戸惑い考える素振りを見せたものの、食べ物の欲求には逆らえなかったようで最後は素直に頷いてみせる影山。

「熱いから気を付けて」
「―んん?!これ、ウマいな!」
「想像してたよりも量が多かったから、良ければおかず食べるの手伝ってくれると嬉しいかも」
「おしっ!そういうことなら任せろ!」
「(よっぽど気に入ったんだね)」

互いにお腹いっぱい食べて、いざ会計を⋯となった時にちょっとした押し問答が勃発した。最終的に『最初に私が奢るからって言ったでしょ』と強引に押し切りお金を現金トレーに乗せる。
おかみさんが「あらあら⋯」と苦笑いしていたのは見なかったことにして定食屋を後にした。

「影山くんはまだご機嫌斜めですか」
「⋯⋯」
「そんなに私に奢られるのが嫌だったの?」
「なんかガキ扱いされてるみたいで腹立つ」
「今日はタダ飯食えてラッキー♪くらいに思っとけばいいのに」
「そんなんでいいのかよ」
「いいのいいの」
「ったく⋯」

同い年のはずなのに、時折年上の人間と接しているような感覚に陥る。俗に女の方が精神年齢が高いとはいうが⋯何となくそれだけではないような気がしている今日この頃。

「じゃあね影山くん。今日はありがとう」
「おう。じゃあな」


翌日。
買って来た品物と共に領収書をマネージャーに手渡すと、一瞬驚きで瞠目した潔子は予想外の完璧なお遣いにグッジョブのサインを出し影山を静かに褒め称えた。

それを横目で見ていた清水潔子親衛隊の二人がすかさず大声を張り上げる。

「「影山てめぇーー!!潔子さんに褒められるとは一体どういう了見だーーー!??」」

(領収書ってすげぇな⋯)


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2020/05/25