09:and She Said
私の記憶と違う事なく音駒との練習試合決定をきっかけに鳥養さんは烏野高校男子バレー部のコーチを引き受けることになり、ダメ元でお願いしていたバイトも無事採用してもらえることになった。
まさか、その場の思い付きが本当に実現してしまうとは。
「本当にいいのか?雇ってやれるのは俺がコーチを引き受けてる間までで、バイト料だってそんなに弾んではやれないぞ?」
「大丈夫です。(シナリオ通りなら音駒との練習試合が終わっても鳥養さんはコーチ続けるし)バイト料も最低賃金さえ保障して頂ければ問題ありません」
「⋯お前、本当に高校生か?」
訝しげな視線にとっさに曖昧な笑顔を浮かべてごまかす。
確かに今の発言は高校生らしくなかった⋯。
「――とまぁ、業務内容は大体こんな感じだ。何か困った時は奥におふくろが居るから声掛けてくれ」
「分かりました」
過去のレジ打ち経験が役に立ち、仕事には2日もあれば慣れた。この店に訪れる客層も殆どが近隣住民と烏野高校に通う生徒なので変な輩に絡まれたり、クレームを付けられたりする心配はゼロに等しい。
おまけに鳥養さんのお母さんもとても親切にしてくれるし、改めて就業の場における人間関係の重要性を再認識した。
ストレスフリーな職場、万歳。
***
「春菜ちゃん。そろそろ上がり支度してちょうだいね」
「はい。この棚のチェックが終わったら上がります」
在庫の確認を終え、レジに戻りエプロンを外しかけた所でガラガラと店の扉が開く音が響いた。
「いらっしゃ――あ、」
「ちわ〜す⋯って、えぇ?!神崎さん?!!」
驚いてフリーズしている日向にヒラヒラと手を振る。
「何してんの?!」
「見ての通りバイト。数日前からここで働かせてもらってる」
「マジで!全然知らなかっ「おいクソ日向ボゲェーー!!!」
途中、物騒な叫び声に会話をぶったぎられる。
店の戸に手を掛け鬼の形相でゼェゼェと息を切らしている影山。
「日向テメェ⋯!いきなりチャリ使うとか卑怯⋯!?」
「影山くんもお疲れさま」
「神崎⋯?お前こんなとこで何やって、」
「神崎さんここでバイトしてんだって」
「は?」
「そういう訳なので今後も坂ノ下商店を是非ご贔屓に」
「マジかよ」
「マジです。―で、二人共何かご入り用ですか?」
聞けば日向と影山ははっと思い出したように同時に声を上げた。
「肉まん下さい!」「カレーまん!」
「ごめん⋯今日は中華まんの類は全部売り切れました」
『売り切れ』の言葉に、ものの見事に撃沈し脱力する黒とオレンジ。
「中華まんは無理だけど、ぐんぐんバーはどう?帰るまでの繋ぎに」
「ぐんぐんバー♪おれそれ食いたい!1本お願いシャス」
「じゃあ俺も」
「まいど」
代金を受け取り二人が店先に出たのを確認してからエプロンを外し、帰りの挨拶をして外へ出る。すれば丁度帰ってきた鳥養と鉢合わせた。
「鳥養さんお帰りなさい」
「「ちーっす」」
「何だお前ら⋯まだ帰ってなかったのか?神崎もお疲れさん」
「お疲れ様です」
「どうだ?店番にはもう慣れたか」
「はい。おかげさまで」
「影山と日向もこんなとこで油売ってないで、さっさと帰ってちゃんとした飯を食えよ」
「「うぃーす」」
「じゃあな」
中に入って行く背中に向かって三人揃っておじぎをする。
「そんじゃーな影山!神崎さんも暗いから帰り気をつけて」
「おう」
「ありがとう。日向もね」
「オス!」
その場で解散した後は帰路が同じなのでいつぞやのように影山と並んで歩き始める。
「練習はどう?充実してる?」
「今まで技術的な指導者がいなかったし、コーチが来てくれたおかげで密な練習ができるようになった」
「ほんと良かったね。私も今のとこ短期だけど鳥養さんがコーチ引き受けてくれたおかげで坂ノ下でバイト出来ることになったし」
「あの店、バイトの募集なんかしてたのか」
「募集はしてなかったけど少し前にダメ元で鳥養さんに掛け合っておいたの」
「へぇ⋯」
この間の定食屋の件といい、見かけによらず行動力があるなと影山は思う。
「そういえば今度練習試合があるんだってね」
「ああ。連休の最終日に音駒って学校と」
「みんないつも以上に練習気合が入ってるんじゃない?」
「当り前だ」
ぐっと握り拳を作って宣言する影山。
一生懸命練習に打ち込んでいるバレー部員の姿が否が応でも目に浮かんでくる。そんな彼らが微笑ましくもあり、また羨ましくもあり⋯。
そんな感傷じみた思考に浸っていると横から予期せぬ質問が飛んできた。
「つか、神崎はバレーに興味あんのか?」
何の他意もない純粋な問いに一瞬どう答えるか思案するも、タイミングが良いのか悪いのか⋯互いの家の分かれ道に差し掛かり、結局それには答えることなく意図的に挨拶を口にして何事もなかったかのようにその場で影山と別れた。
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2020/06/08
まさか、その場の思い付きが本当に実現してしまうとは。
「本当にいいのか?雇ってやれるのは俺がコーチを引き受けてる間までで、バイト料だってそんなに弾んではやれないぞ?」
「大丈夫です。(シナリオ通りなら音駒との練習試合が終わっても鳥養さんはコーチ続けるし)バイト料も最低賃金さえ保障して頂ければ問題ありません」
「⋯お前、本当に高校生か?」
訝しげな視線にとっさに曖昧な笑顔を浮かべてごまかす。
確かに今の発言は高校生らしくなかった⋯。
「――とまぁ、業務内容は大体こんな感じだ。何か困った時は奥におふくろが居るから声掛けてくれ」
「分かりました」
過去のレジ打ち経験が役に立ち、仕事には2日もあれば慣れた。この店に訪れる客層も殆どが近隣住民と烏野高校に通う生徒なので変な輩に絡まれたり、クレームを付けられたりする心配はゼロに等しい。
おまけに鳥養さんのお母さんもとても親切にしてくれるし、改めて就業の場における人間関係の重要性を再認識した。
ストレスフリーな職場、万歳。
***
「春菜ちゃん。そろそろ上がり支度してちょうだいね」
「はい。この棚のチェックが終わったら上がります」
在庫の確認を終え、レジに戻りエプロンを外しかけた所でガラガラと店の扉が開く音が響いた。
「いらっしゃ――あ、」
「ちわ〜す⋯って、えぇ?!神崎さん?!!」
驚いてフリーズしている日向にヒラヒラと手を振る。
「何してんの?!」
「見ての通りバイト。数日前からここで働かせてもらってる」
「マジで!全然知らなかっ「おいクソ日向ボゲェーー!!!」
途中、物騒な叫び声に会話をぶったぎられる。
店の戸に手を掛け鬼の形相でゼェゼェと息を切らしている影山。
「日向テメェ⋯!いきなりチャリ使うとか卑怯⋯!?」
「影山くんもお疲れさま」
「神崎⋯?お前こんなとこで何やって、」
「神崎さんここでバイトしてんだって」
「は?」
「そういう訳なので今後も坂ノ下商店を是非ご贔屓に」
「マジかよ」
「マジです。―で、二人共何かご入り用ですか?」
聞けば日向と影山ははっと思い出したように同時に声を上げた。
「肉まん下さい!」「カレーまん!」
「ごめん⋯今日は中華まんの類は全部売り切れました」
『売り切れ』の言葉に、ものの見事に撃沈し脱力する黒とオレンジ。
「中華まんは無理だけど、ぐんぐんバーはどう?帰るまでの繋ぎに」
「ぐんぐんバー♪おれそれ食いたい!1本お願いシャス」
「じゃあ俺も」
「まいど」
代金を受け取り二人が店先に出たのを確認してからエプロンを外し、帰りの挨拶をして外へ出る。すれば丁度帰ってきた鳥養と鉢合わせた。
「鳥養さんお帰りなさい」
「「ちーっす」」
「何だお前ら⋯まだ帰ってなかったのか?神崎もお疲れさん」
「お疲れ様です」
「どうだ?店番にはもう慣れたか」
「はい。おかげさまで」
「影山と日向もこんなとこで油売ってないで、さっさと帰ってちゃんとした飯を食えよ」
「「うぃーす」」
「じゃあな」
中に入って行く背中に向かって三人揃っておじぎをする。
「そんじゃーな影山!神崎さんも暗いから帰り気をつけて」
「おう」
「ありがとう。日向もね」
「オス!」
その場で解散した後は帰路が同じなのでいつぞやのように影山と並んで歩き始める。
「練習はどう?充実してる?」
「今まで技術的な指導者がいなかったし、コーチが来てくれたおかげで密な練習ができるようになった」
「ほんと良かったね。私も今のとこ短期だけど鳥養さんがコーチ引き受けてくれたおかげで坂ノ下でバイト出来ることになったし」
「あの店、バイトの募集なんかしてたのか」
「募集はしてなかったけど少し前にダメ元で鳥養さんに掛け合っておいたの」
「へぇ⋯」
この間の定食屋の件といい、見かけによらず行動力があるなと影山は思う。
「そういえば今度練習試合があるんだってね」
「ああ。連休の最終日に音駒って学校と」
「みんないつも以上に練習気合が入ってるんじゃない?」
「当り前だ」
ぐっと握り拳を作って宣言する影山。
一生懸命練習に打ち込んでいるバレー部員の姿が否が応でも目に浮かんでくる。そんな彼らが微笑ましくもあり、また羨ましくもあり⋯。
そんな感傷じみた思考に浸っていると横から予期せぬ質問が飛んできた。
「つか、神崎はバレーに興味あんのか?」
何の他意もない純粋な問いに一瞬どう答えるか思案するも、タイミングが良いのか悪いのか⋯互いの家の分かれ道に差し掛かり、結局それには答えることなく意図的に挨拶を口にして何事もなかったかのようにその場で影山と別れた。
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2020/06/08