Red Angel@

ジンの姿を見てからもうどれくらい経っただろう。
突然ふらりとやってきて、ふらりと消える全身黒づくめの冷たい瞳をした男。

出逢った当初、何気なく職を尋ねたら「死にたいなら教えてやる」となんとも恐ろしい返事をいただいた。だから私は何も訊かないことに決めた。彼の気まぐれに付き合ってやろうじゃないかと。ジンに対して恋愛感情など持っていない私には容易いことだ。

けれど、最近になってそれは容易いことではなくなってきていた。少しずつジンに惹かれているのかもしれない。好きになったって、そんなことは全く意味を持たないというのに。何故なら未だに彼の素性を知ることも、自ら連絡を取ることすら許されていないのだから。

「⋯もう寝よ」

寝室へ移動しようとリビングの灯りを消そうとしたら突如、インターホンが鳴り響いた。そろそろ深夜1時になろうかという時間。不審に思いつつ、モニターで相手を確認する。するとそこには真っ黒な服を着た男が映っている。

───ジンだ!

名前は急いで玄関に駆け寄る。いつもなら合鍵を使って我が物顔で入ってくるのに、何かおかしいと感じながら。
ドアを開けるとそこにはやはりジンの姿。相変わらずコートと帽子で顔の大半が覆われていて表情は見えない。

「久しぶりだね。こんな夜更けにどうし⋯っ!?」

刹那、ジンの身体が倒れこんで来た。名前は慌ててその身体を受け止める。

「ちょっ⋯ジン、」

同時にフワリと床に落ちた帽子。現れたジンは荒い呼吸でしかも大量の汗をかいている。それを見た名前はそっと首筋に手を伸ばしてその体温に驚いた。尋常ではない様子に名前は何とかベッドまで運ぼうと問いかけた。

「ジン、ベッドまで歩ける?」
「⋯⋯」

肩を貸しながらやっとのことでベッドまで辿り着き、どうしようもないのでコートだけ脱がせて横にならせた。氷枕やタオルなど必要な物を早急に準備する。着替えがないので出来るだけ丁寧に汗を拭ってやりながらジンの顔を見つめた。

「もう⋯あんまり心配かけないでよ」

言いながら名前はジンの手を優しく握った。


***


「どういうつもりだ⋯」

ジンのこの一言で私はハッと目を覚ました。徹夜で看病して、ジンの手を握ったままうっかり眠ってしまって⋯。ところがジンは物凄い形相で睨みつけてくる。これが徹夜で看病してくれた者に対する態度なんだろうか、と少しばかり怒りを感じつつも下手なことを言うと殺されかねないのでそこは見て見ぬ振りをする。名前は何事もなかったように手を離して「ごめん」と告げた。

「いつから此処にいる⋯」
「いつからって。私ずっと前からここに住んでるじゃん」
「馬鹿か。俺がいつ此処に来たのかと訊いている」
「ん〜確か深夜1時かそこら辺りだったと思うけど」
「⋯そうか」
「もしかして、昨夜のこと全然覚えてないの?」

再びギロリと一睨み。
あーハイハイ。これ以上訊くなってコトですね?
名前はクスクス笑いながらリビングへと移動し熱い珈琲を準備する。そしてコートと帽子を手に取ると再び寝室へ。ジンはその間、黙々と身支度を整えていた。

「はいこれ。ちゃんと掛けておいたから皺にはなってないと思うけど」
「余計な真似はしてないだろうな⋯」
「するわけないよ」

目を見つめ、名前が嘘を吐いていないことを確認するとジンはそれらを受け取った。コートを羽織り内ポケットの銃の有無を確認する。

「リビングに珈琲準備してあるから良かったら飲んで。今何にもないから朝ごはん調達してくる」

そう言って名前は財布を手に取ると足早に部屋を出て行った。きっと帰った時にはジンは姿を消しているだろう。
それでいい。世話になった礼なんて口が裂けても言わないだろうけど、彼に些細なことでも気を遣わせたりしたくなかった。昨夜、ジンが無意識でも自分を頼って来てくれたことが嬉しかったから。

名前はわざと時間をかけて帰宅した。
案の定、すでにジンの姿はなかった。しかしふとテーブルの方を見遣ると黒い物体が。コーヒーカップの横に置かれた、ジンの帽子。

ジンってば忘れてる⋯!

慌ててテーブルに駆け寄った名前。
けれどそこに1枚のメモが残されていることに気づく。

『また来る。それまで預かっておけ』

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