Red AngelI
あの夜の一件からすでに1週間以上が経過していた。次の日ベルモットの自宅で目覚めた後は彼女が家まで送ってくれた。また近いうちに顔を出すわ、と言い残して。ベルモットの優しさと気遣いに感謝しながら名前は日常生活へと戻っていった。まるで何事もなかったかのように淡々と1日が始まり、終わって行く。何も変わらない。ただ、確実に変化したのは――。
名前はふと、感触を思い出すかのように時折自身の唇に触れてみる。そしてその度に胸が締め付けられるような思いに苛まれていた。怒り任せに与えられている筈なのにジンの口付けはとても熱くて、どこか切なげで。けれども彼が何故こんな真似をするのか理解できず、その時はただただ悲しくて。本来なら意中の相手にキスなんてされたら嬉しくて幸せな気持ちになるハズなのに。
ファーストキス、だったのにな⋯。
ジンに直接会って真意を確かめたい。けれど全てを知るのも、正直怖い。真意など確かめずとも答えは初めから決まっているようなものだから。彼が私と同じ気持ちを抱いている可能性など、ゼロに等しい。だからきっとジンが口にする答えは「その場の流れで」とか「衝動的に」とかそんな類のものだろう。そこに愛だの恋だのという感情が存在しない事は明白で。
その事実をジンの口から直接聞かされたとき、私は平静を保っていられるだろうか?何事もなかったように笑って流してしまえなければもう二度とジンには会えなくなるような気がする。
それだけは、どうしても嫌だ。最初から叶わぬ恋だと分かっている。気持ちが通じなくてもいい。これまで同様気紛れで構わない。時々ふらりと訪ねて来て私の傍に居てくれたら⋯ただそれだけで、私は強く生きていける。
***
ある日、放課後の教室で日誌を書いているとクラスメイトの一人が声を掛けてきた。
「――男の人が?私に?」
「ああ。なんか外車に乗ってて、髪の長い⋯」
ガタンッ!!
名前は勢いよく立ち上がった。
外車に乗っている髪の長い男性。思い当たる人物は一人しか、いない。
「ねえ!その人が乗ってたの黒い車だった?!」
「ビックリした⋯なんだよ急に。車の色は赤、だったけど」
「あか⋯?」
疑問に思いながらも一先ずクラスメイトに礼を言って急いで外に出てみれば、確かに正門の少し先の道路脇に赤い外車が一台停まっている。一体誰だろう⋯と正門前で立ち尽くしていると運転席側のドアが開く。車から降りて徐々に近づいてくる人物を見て、名前はハッとした。
「またお会いできましたね、名前さん」
「あなたは⋯」
「僕のこと覚えていますか?」
「覚えて、ます」
「良かった。もう忘れられていたらどうしようかと思いました」
そう云って、彼は微笑む。そして内ポケットから1枚名刺を取り出した。差し出された名刺を受け取ると名前は印刷されている氏名に目を落とす。
「あの時きちんと自己紹介が出来ず仕舞いだったので。改めましてよろしく。苗字名前さん」
それで、と寶井は続けた。
「もし良ければ今度僕とお茶でもご一緒しませんか」
「え⋯」
「貴女とはもう一度会ってゆっくりお話ししてみたいと思っていたんです」
「で、でも」
「無理強いはしません。気が向いたらで結構ですから、その時は連絡を下さい。
番号とアドレスは先程の名刺に。連絡は電話でもメールでもどちらでも構いません」
困惑気味の名前を余所に、寶井は用件を話し終えると時計で時間を確認した。
「すみません。これから会議があるので今日はこれで」
「あ、あのっ」
「連絡お待ちしています」
そう告げると彼は踵を返し車に乗り込んだ。軽くクラクションを鳴らし、そのまま去って行く。まるで嵐のような出来事に名前は茫然と立ち尽くしたままだった。
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2014/9/20
加除修正 2023/4/6
名前はふと、感触を思い出すかのように時折自身の唇に触れてみる。そしてその度に胸が締め付けられるような思いに苛まれていた。怒り任せに与えられている筈なのにジンの口付けはとても熱くて、どこか切なげで。けれども彼が何故こんな真似をするのか理解できず、その時はただただ悲しくて。本来なら意中の相手にキスなんてされたら嬉しくて幸せな気持ちになるハズなのに。
ファーストキス、だったのにな⋯。
ジンに直接会って真意を確かめたい。けれど全てを知るのも、正直怖い。真意など確かめずとも答えは初めから決まっているようなものだから。彼が私と同じ気持ちを抱いている可能性など、ゼロに等しい。だからきっとジンが口にする答えは「その場の流れで」とか「衝動的に」とかそんな類のものだろう。そこに愛だの恋だのという感情が存在しない事は明白で。
その事実をジンの口から直接聞かされたとき、私は平静を保っていられるだろうか?何事もなかったように笑って流してしまえなければもう二度とジンには会えなくなるような気がする。
それだけは、どうしても嫌だ。最初から叶わぬ恋だと分かっている。気持ちが通じなくてもいい。これまで同様気紛れで構わない。時々ふらりと訪ねて来て私の傍に居てくれたら⋯ただそれだけで、私は強く生きていける。
***
ある日、放課後の教室で日誌を書いているとクラスメイトの一人が声を掛けてきた。
「――男の人が?私に?」
「ああ。なんか外車に乗ってて、髪の長い⋯」
ガタンッ!!
名前は勢いよく立ち上がった。
外車に乗っている髪の長い男性。思い当たる人物は一人しか、いない。
「ねえ!その人が乗ってたの黒い車だった?!」
「ビックリした⋯なんだよ急に。車の色は赤、だったけど」
「あか⋯?」
疑問に思いながらも一先ずクラスメイトに礼を言って急いで外に出てみれば、確かに正門の少し先の道路脇に赤い外車が一台停まっている。一体誰だろう⋯と正門前で立ち尽くしていると運転席側のドアが開く。車から降りて徐々に近づいてくる人物を見て、名前はハッとした。
「またお会いできましたね、名前さん」
「あなたは⋯」
「僕のこと覚えていますか?」
「覚えて、ます」
「良かった。もう忘れられていたらどうしようかと思いました」
そう云って、彼は微笑む。そして内ポケットから1枚名刺を取り出した。差し出された名刺を受け取ると名前は印刷されている氏名に目を落とす。
「あの時きちんと自己紹介が出来ず仕舞いだったので。改めましてよろしく。苗字名前さん」
それで、と寶井は続けた。
「もし良ければ今度僕とお茶でもご一緒しませんか」
「え⋯」
「貴女とはもう一度会ってゆっくりお話ししてみたいと思っていたんです」
「で、でも」
「無理強いはしません。気が向いたらで結構ですから、その時は連絡を下さい。
番号とアドレスは先程の名刺に。連絡は電話でもメールでもどちらでも構いません」
困惑気味の名前を余所に、寶井は用件を話し終えると時計で時間を確認した。
「すみません。これから会議があるので今日はこれで」
「あ、あのっ」
「連絡お待ちしています」
そう告げると彼は踵を返し車に乗り込んだ。軽くクラクションを鳴らし、そのまま去って行く。まるで嵐のような出来事に名前は茫然と立ち尽くしたままだった。
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2014/9/20
加除修正 2023/4/6