Red AngelK
「まさか本当にご連絡していただけるとは正直思っていませんでした」
「突然ごめんなさい。それに場所とか時間とか、私の方で勝手に決めてしまって⋯」
「今日は丁度スケジュールも空いていましたし、名前さんともう一度ゆっくりお会いできる機会を貰えただけで充分です。それに僕は女性が好みそうなこういったお店には疎いので助かりました」
相も変わらずどこまでも紳士的な人だな、と名前は思った。聞けば寶井は3歳年上で大学で経営学を学びながら将来の取締役就任に備え、実務経験を積んでいる最中とのこと。家柄事情とはいえ学業と仕事を両立させているなんて大したものだ。その後も歳が近いこともあり、二人は他愛のない話に花を咲かせていたのだが⋯。
「――ところで、名前さん」
「はい、何でしょうか?」
「黒澤さんとはどういったご関係ですか?」
予期せぬ問いかけに名前は思わず息を飲んだ。ジンと出会った経緯など当然聞かせられるものではないし、かといって『友人』と答えるにもかなり無理がある気がする。困惑しきった彼女の様子に寶井は申し訳なさそうに苦笑いを浮かべた。
「すみません⋯。名前さんを困らせるつもりはなかったのですが」
「あ、いえ⋯」
「もしかして恋人、ですか?」
「えぇ?!ち、違いますっ」
「そうなんですか?僕はてっきり⋯、」
二人は付き合っているものだとばかり、という言葉を寶井はあえて飲み込んだ。そうでないのならこのまま彼女には無自覚でいてもらった方が自分としては都合が良い。
「⋯いいえ、何でも。しかし恋人ではないにしろ、それなりに親しい間柄とお見受けしましたが」
「親しいといえるのかどうかは別として、彼と知り合ってからは随分経ちました」
そう答えると彼は急に真剣な眼差しで名前の瞳を見つめた。
「名前さん。ご無礼を承知で、率直にお尋ねします。貴女は彼がどういった世界の人間か、ご存知なのですか?そして貴女も“そちら側の人間”なのですか?」
「⋯ごめんなさい。詳しいことは良く分かりません。ただ、」
ジンが裏社会の人間である、ということは当然ながら気付いている。常日頃から懐に銃を忍ばせている様な男だ。なによりも初めてジンと出会ったとき、自身も殺されるところだったのだ。正直なところ、現在生かされているからといって明日はどうなるのか分からない。あとほんの少しでもジンの闇の部分に触れてしまえばすぐにでも消されてしまうかもしれない。
言葉を詰まらせた名前を見て、寶井は彼女が“組織”の人間ではないことを理解する。ならば何故、彼女は未だこうして生かされているのか。何の利益もない、しかも己の存在を知られているにも関わらずあの男が彼女を消さない理由とは――。
「彼も貴女も、互いに干渉し過ぎない事で微妙なバランスを保っている⋯と解釈をしても?」
「はい。おっしゃる通りです」
「ならば今後一切、彼との接触は避けるべきです」
「っ⋯、」
「何か避けられない事情があるのなら僕がいくらでも力になります。決して危険な目には合わせません。貴女は闇を知らない。これからも知る必要はないし、足を踏み入れるべきではない」
寶井の忠告は至極真っ当で、耳が痛い。
それでも⋯それでも。
「ご忠告感謝します。けれど私にとって、彼はもう簡単に忘れ去ってしまえるような存在ではないんです」
「⋯⋯⋯」
「彼が⋯ジンがどんな世界に身を置いていようがそんなことは関係ない。私自身の気持ちの問題なんです」
「彼の事が好き、なのですか?」
「はい」
寶井の目をじっと見据え、名前も真っ直ぐに答えた。
彼は私のために真摯に忠告してくれたのだ。だから私も包み隠さず、真摯に向き合わなければと思った。そんな彼女の心情を察してか、寶井は表情を和らげてふっと微笑む。
「やはり貴女は素敵な女性だ。純粋さの中に何事にも揺るがない、凛とした強さがある」
唐突な賛辞の言葉にどうリアクションしていいのか分からない名前。照れくさくて頬に熱が集まり、困ったように視線を逸らす。
「ここまで来たら僕も正直に白状します。名前さん、僕は貴女に好意を抱いています」
「今、なんて⋯?」
「貴女が好きです。今日再びお会いして、確信しました」
「あ、あああのっ ちょっと⋯!」
「彼に対する名前さんの想いは重々承知しています。しかし僕も簡単に諦めることはできない」
初めて本気で人を好きになった。
だから彼女を振り向かせるための、チャンスが欲しい。
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2015/1/31
加除修正 2023/4/6
「突然ごめんなさい。それに場所とか時間とか、私の方で勝手に決めてしまって⋯」
「今日は丁度スケジュールも空いていましたし、名前さんともう一度ゆっくりお会いできる機会を貰えただけで充分です。それに僕は女性が好みそうなこういったお店には疎いので助かりました」
相も変わらずどこまでも紳士的な人だな、と名前は思った。聞けば寶井は3歳年上で大学で経営学を学びながら将来の取締役就任に備え、実務経験を積んでいる最中とのこと。家柄事情とはいえ学業と仕事を両立させているなんて大したものだ。その後も歳が近いこともあり、二人は他愛のない話に花を咲かせていたのだが⋯。
「――ところで、名前さん」
「はい、何でしょうか?」
「黒澤さんとはどういったご関係ですか?」
予期せぬ問いかけに名前は思わず息を飲んだ。ジンと出会った経緯など当然聞かせられるものではないし、かといって『友人』と答えるにもかなり無理がある気がする。困惑しきった彼女の様子に寶井は申し訳なさそうに苦笑いを浮かべた。
「すみません⋯。名前さんを困らせるつもりはなかったのですが」
「あ、いえ⋯」
「もしかして恋人、ですか?」
「えぇ?!ち、違いますっ」
「そうなんですか?僕はてっきり⋯、」
二人は付き合っているものだとばかり、という言葉を寶井はあえて飲み込んだ。そうでないのならこのまま彼女には無自覚でいてもらった方が自分としては都合が良い。
「⋯いいえ、何でも。しかし恋人ではないにしろ、それなりに親しい間柄とお見受けしましたが」
「親しいといえるのかどうかは別として、彼と知り合ってからは随分経ちました」
そう答えると彼は急に真剣な眼差しで名前の瞳を見つめた。
「名前さん。ご無礼を承知で、率直にお尋ねします。貴女は彼がどういった世界の人間か、ご存知なのですか?そして貴女も“そちら側の人間”なのですか?」
「⋯ごめんなさい。詳しいことは良く分かりません。ただ、」
ジンが裏社会の人間である、ということは当然ながら気付いている。常日頃から懐に銃を忍ばせている様な男だ。なによりも初めてジンと出会ったとき、自身も殺されるところだったのだ。正直なところ、現在生かされているからといって明日はどうなるのか分からない。あとほんの少しでもジンの闇の部分に触れてしまえばすぐにでも消されてしまうかもしれない。
言葉を詰まらせた名前を見て、寶井は彼女が“組織”の人間ではないことを理解する。ならば何故、彼女は未だこうして生かされているのか。何の利益もない、しかも己の存在を知られているにも関わらずあの男が彼女を消さない理由とは――。
「彼も貴女も、互いに干渉し過ぎない事で微妙なバランスを保っている⋯と解釈をしても?」
「はい。おっしゃる通りです」
「ならば今後一切、彼との接触は避けるべきです」
「っ⋯、」
「何か避けられない事情があるのなら僕がいくらでも力になります。決して危険な目には合わせません。貴女は闇を知らない。これからも知る必要はないし、足を踏み入れるべきではない」
寶井の忠告は至極真っ当で、耳が痛い。
それでも⋯それでも。
「ご忠告感謝します。けれど私にとって、彼はもう簡単に忘れ去ってしまえるような存在ではないんです」
「⋯⋯⋯」
「彼が⋯ジンがどんな世界に身を置いていようがそんなことは関係ない。私自身の気持ちの問題なんです」
「彼の事が好き、なのですか?」
「はい」
寶井の目をじっと見据え、名前も真っ直ぐに答えた。
彼は私のために真摯に忠告してくれたのだ。だから私も包み隠さず、真摯に向き合わなければと思った。そんな彼女の心情を察してか、寶井は表情を和らげてふっと微笑む。
「やはり貴女は素敵な女性だ。純粋さの中に何事にも揺るがない、凛とした強さがある」
唐突な賛辞の言葉にどうリアクションしていいのか分からない名前。照れくさくて頬に熱が集まり、困ったように視線を逸らす。
「ここまで来たら僕も正直に白状します。名前さん、僕は貴女に好意を抱いています」
「今、なんて⋯?」
「貴女が好きです。今日再びお会いして、確信しました」
「あ、あああのっ ちょっと⋯!」
「彼に対する名前さんの想いは重々承知しています。しかし僕も簡単に諦めることはできない」
初めて本気で人を好きになった。
だから彼女を振り向かせるための、チャンスが欲しい。
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2015/1/31
加除修正 2023/4/6