08:イノセント
「おかえりなさい」
FBIでの定例報告を終えてジンは帰宅した。彼女はいつもと変わらず笑顔で出迎えてくれたが、先程の赤井とのやりとりが脳裏を掠め無意識のうちに険しい表情になってしまう。
「ジン⋯?どうかしたの?」
どこか様子がおかしいと敏感に感じ取る名前。不安気に見つめてくるその瞳に些か苛立ちを覚えてしまうのは、気のせいではない。
「名前⋯」
「ん?」
「お前、またあの男と会っていたそうだな」
「あの男?」
「赤井秀一」
「あぁ!赤井さんね。先週の土曜日、料理教室の帰りに」
「なぜ俺に黙っていた⋯?」
「なぜって、別に深い理由なんてないよ。偶然会っただけだし。それにジンは赤井さんのことあんまり好きじゃないみたいだから⋯」
険悪になるくらいなら口外しない方が良いと思った、と。
「ミュールの件もあったし、なあなあになる前にちゃんとお礼ができてスッキリしたよ」
「何もそこまでする必要はなかっただろうが」
「赤井さんは気にしなくていいって言ってくれたけど、やっぱりそこは人としてきっちりしておきたくて」
明らかに他意はない。それは名前の目を見れば分かる。元々彼女はそういう性格であることも十分理解していた。だからジンはあからさまに名前を責めることはしなかった。
それについ今しがた“言って険悪になるのが嫌だった”と宣言されたばかりだ。ここで事を荒立ててしまっては元も子もない。大人げない自分を晒すだけとなってしまう。けれども赤井がその事をきっかけに彼女に好意を寄せてしまったことは事実で⋯。
言葉にならない焦燥感がジンの心を埋め尽くしていた。
「とはいえ、明らかに菓子は不要だ」
「余分にあったから手土産に丁度良いかと思って⋯っていうか、何でそんなことまで知ってるの?」
「今日の監査は奴が担当だった」
「そうなんだ。それで赤井さんに聞いてきたんだね」
“クッキー、美味かったと伝えておいてくれ”
そんなもの、伝える訳がない。仮に伝えたとしても名前はその言葉通り素直に受け取り喜びを表すだけだろうが、それでもジンとしては面白くない。誰が好き好んで宿敵からの伝言をわざわざ本人に伝えねばならないのか。
一方の名前はそっかそっか、と一人納得した様子。更に「黙ってたこと気に障ったならごめんね?」と最後に付け加える。彼女にここまで云われてしまってはどうしようもない。ジンはそれに応えるように名前の頭を撫でつけた。
当然、釘を刺すことも忘れてはいないが。
「名前、もう奴とは関わるなよ」
「私も監査受けなきゃいけないから来週オフィスに出向くけど、赤井さんも含めてFBIの人とそれ以外で自分から関わることなんて、まずないよ」
「⋯そうか」
「何?ジンってば、もしかしてヤキモチ?」
「フン。勝手に言ってろ」
「たまには妬いてくれてもいいよ?」
「お前な⋯。そんなに俺を煽りたいなら、望み通りにしてやる」
「え?!ちょ、ちょっと待って」
そんなつもりで言ったんじゃなーい!!
と襲いかかってくるジンに対して名前の絶叫がこだました。
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2014/9/22
FBIでの定例報告を終えてジンは帰宅した。彼女はいつもと変わらず笑顔で出迎えてくれたが、先程の赤井とのやりとりが脳裏を掠め無意識のうちに険しい表情になってしまう。
「ジン⋯?どうかしたの?」
どこか様子がおかしいと敏感に感じ取る名前。不安気に見つめてくるその瞳に些か苛立ちを覚えてしまうのは、気のせいではない。
「名前⋯」
「ん?」
「お前、またあの男と会っていたそうだな」
「あの男?」
「赤井秀一」
「あぁ!赤井さんね。先週の土曜日、料理教室の帰りに」
「なぜ俺に黙っていた⋯?」
「なぜって、別に深い理由なんてないよ。偶然会っただけだし。それにジンは赤井さんのことあんまり好きじゃないみたいだから⋯」
険悪になるくらいなら口外しない方が良いと思った、と。
「ミュールの件もあったし、なあなあになる前にちゃんとお礼ができてスッキリしたよ」
「何もそこまでする必要はなかっただろうが」
「赤井さんは気にしなくていいって言ってくれたけど、やっぱりそこは人としてきっちりしておきたくて」
明らかに他意はない。それは名前の目を見れば分かる。元々彼女はそういう性格であることも十分理解していた。だからジンはあからさまに名前を責めることはしなかった。
それについ今しがた“言って険悪になるのが嫌だった”と宣言されたばかりだ。ここで事を荒立ててしまっては元も子もない。大人げない自分を晒すだけとなってしまう。けれども赤井がその事をきっかけに彼女に好意を寄せてしまったことは事実で⋯。
言葉にならない焦燥感がジンの心を埋め尽くしていた。
「とはいえ、明らかに菓子は不要だ」
「余分にあったから手土産に丁度良いかと思って⋯っていうか、何でそんなことまで知ってるの?」
「今日の監査は奴が担当だった」
「そうなんだ。それで赤井さんに聞いてきたんだね」
“クッキー、美味かったと伝えておいてくれ”
そんなもの、伝える訳がない。仮に伝えたとしても名前はその言葉通り素直に受け取り喜びを表すだけだろうが、それでもジンとしては面白くない。誰が好き好んで宿敵からの伝言をわざわざ本人に伝えねばならないのか。
一方の名前はそっかそっか、と一人納得した様子。更に「黙ってたこと気に障ったならごめんね?」と最後に付け加える。彼女にここまで云われてしまってはどうしようもない。ジンはそれに応えるように名前の頭を撫でつけた。
当然、釘を刺すことも忘れてはいないが。
「名前、もう奴とは関わるなよ」
「私も監査受けなきゃいけないから来週オフィスに出向くけど、赤井さんも含めてFBIの人とそれ以外で自分から関わることなんて、まずないよ」
「⋯そうか」
「何?ジンってば、もしかしてヤキモチ?」
「フン。勝手に言ってろ」
「たまには妬いてくれてもいいよ?」
「お前な⋯。そんなに俺を煽りたいなら、望み通りにしてやる」
「え?!ちょ、ちょっと待って」
そんなつもりで言ったんじゃなーい!!
と襲いかかってくるジンに対して名前の絶叫がこだました。
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2014/9/22