14:いつかこの手を取ってくれたら
「未成年の飲酒は法律で禁じられている」
突如響いた声に名前はムッとした。
また巡回中の警察官か。いつもなら「違いますよ〜」とにこやかに応対する所だが、生憎今日は朝から心中穏やかではない。
私、未成年じゃありません!!
ちょっぴり怒りを込めて言い返してやろうと思った。ところが振り向くとそこにはしてやったり、な風貌で意地悪く微笑む赤井の姿が。拍子抜けした名前は途端にむくれた表情になる。
「赤井さん⋯今のわざと、ですね?」
「さて、どうだろうな」
「顔笑ってるじゃないですか!」
「それは失敬」
しれっとした態度の赤井に名前は腑に落ちない様子で正面に向き直ると缶チューハイに口を付けた。少しからかい過ぎたか、と若干苦笑いを浮かべながら赤井は更にベンチに近づく。
飲み物を持参していることから察して彼も自分と同じ動機でここへ来たのだろう。そういえば、此処はFBIのオフィスがあるビルの近くでもある。名前は鞄とコンビニの袋を引き寄せて赤井が座れるようにスペースを作った。
「気を遣わせてすまない」
「いえ。っていうか、赤井さん最初から此処に座るつもりだったんでしょう?」
「ホォー⋯なかなか鋭いな」
「だって他にもベンチ空いてるのに立ち去らないでこっちに近づいて来たじゃないですか」
「嫌ならすぐにでも移動するが?」
「嫌、じゃないです」
そう言って名前は微笑む。一瞬『もう奴とは関わるな』というジンの言葉が過ったが、彼とは顔見知りでもあるし偶然出会っただけだ。ここで変に拒絶するのもそれこそ可笑しな話で。赤井も彼女の返答に柔らかく口角を上げ、隣に腰掛けると珈琲缶のプルタブを引いた。
「まだお仕事中ですか?」
「いや、今日はもう上がりだ」
「こんな遅くまで大変ですね」
「日によって区々だがな。君も仕事帰りか」
「はい。この公園、大学生の時に見つけて以来気分転換したくなった時によく来るんです。今の職場からはわりと距離があるんですけど」
「確かに此処は静かで落ち着く。特に夜はな」
「そうなんですよねー。あのライトアップされた噴水と花壇を見てるだけでも心が落ち着きます」
「名前、俺で良ければ話くらいは聞いてやれるが」
少しの沈黙の後、赤井が発した台詞に名前は目を丸くして彼の顔を見上げた。
「如何した?」
「あ、いえ⋯。赤井さんに名前呼ばれたの、初めてだな〜と思って」
「ああ、すまない。アメリカでの生活が長くてな。つい敬称も使わずファーストネームを」
「それは気にしないでください。友達や同僚もみんな名前って言いますし、突然でちょっと驚いただけですから」
「そうか?では遠慮なく」
「はい。それに⋯」
「なんだ?」
「赤井さん、今日は『私』じゃなくて『俺』なんですね」
「今はプライベートだからな」
「いつもきちんと使い分けてるんですか?」
「時と場合と⋯あとは相手にもよるな」
「なら私にも使い分けは必要ないですよ?一緒にランチした仲じゃないですか」
「くくっ、そうだな」
他意のない笑顔。
ジンが彼女に対し常に気が気でない心境である事も大いに頷ける、と赤井は思う。
「それで、何があったんだ」
「え⋯?」
「仕事帰りにこんな所で一人で酒を口にして。何か家に帰り辛い事情でもあるのか」
「赤井さんも相当鋭いですね⋯」
「俺の場合は職業柄、な。勿論言いたくなければ無理にとは言わない。だが話せば楽になることもある」
「そう⋯ですね」
「ジンと喧嘩でもしたのか」
「喧嘩っていうのかな⋯。今朝出掛ける前にちょっとした口論になっちゃって。結局最後は私が一方的に捲し立ててそのまま家を出てきちゃったんですけど⋯」
「それで帰り辛いから直帰せず此処へ来た、という訳か」
「はい⋯。私が謝れば済む話なんですけど、それだとまたいつか同じ事を繰り返しそうな気がして」
名前は自嘲気味に嗤う。
「ジンの言った事は正しいんです。彼が言うことはいつも論理的で筋が通ってて冷静で。だけど私にはそれだけじゃ片付けられない事もあって。やっぱり女だから、ですかね⋯。いざという時に感情が先走っちゃうのって」
「⋯⋯」
「別に何か答えを求めてた訳じゃなかったんです。ただ話を聞いて、頷いて、できたら最後にお前なら大丈夫だって、言ってほしかったんです」
「まるで自分の事を言われている様で、正直耳が痛い⋯」
「?」
「俺もどちらかと云えば奴と同じタイプの人間だからな。女心に関しては鈍感であると認めざるを得ない」
「ふふ⋯」
「⋯? 何か可笑しな事を言ったか?」
「ジンと赤井さんって、対照的な様でいて本質的な部分はすごく似てるな〜と思って。なんだか兄弟みたい」
「おいおい⋯勘弁してくれよ」
「ごめんなさい」
そう言って笑った彼女の顔はいつもの名前で。それを見た赤井は安心すると同時に別の気配を察した為、手中にある珈琲を一気に飲み干した。
「さて⋯俺はそろそろ失礼するよ。どうやらお迎えが来たようだからな」
「お迎え?」
「今夜は楽しかった。おやすみ」
「え、あ、はい⋯!おやすみなさい」
未だ状況が良く飲みこめていない彼女を残し、赤井は背を向けたまま片手を上げると足早に去って行った。
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※お題配布元:OSG
2014/10/7
突如響いた声に名前はムッとした。
また巡回中の警察官か。いつもなら「違いますよ〜」とにこやかに応対する所だが、生憎今日は朝から心中穏やかではない。
私、未成年じゃありません!!
ちょっぴり怒りを込めて言い返してやろうと思った。ところが振り向くとそこにはしてやったり、な風貌で意地悪く微笑む赤井の姿が。拍子抜けした名前は途端にむくれた表情になる。
「赤井さん⋯今のわざと、ですね?」
「さて、どうだろうな」
「顔笑ってるじゃないですか!」
「それは失敬」
しれっとした態度の赤井に名前は腑に落ちない様子で正面に向き直ると缶チューハイに口を付けた。少しからかい過ぎたか、と若干苦笑いを浮かべながら赤井は更にベンチに近づく。
飲み物を持参していることから察して彼も自分と同じ動機でここへ来たのだろう。そういえば、此処はFBIのオフィスがあるビルの近くでもある。名前は鞄とコンビニの袋を引き寄せて赤井が座れるようにスペースを作った。
「気を遣わせてすまない」
「いえ。っていうか、赤井さん最初から此処に座るつもりだったんでしょう?」
「ホォー⋯なかなか鋭いな」
「だって他にもベンチ空いてるのに立ち去らないでこっちに近づいて来たじゃないですか」
「嫌ならすぐにでも移動するが?」
「嫌、じゃないです」
そう言って名前は微笑む。一瞬『もう奴とは関わるな』というジンの言葉が過ったが、彼とは顔見知りでもあるし偶然出会っただけだ。ここで変に拒絶するのもそれこそ可笑しな話で。赤井も彼女の返答に柔らかく口角を上げ、隣に腰掛けると珈琲缶のプルタブを引いた。
「まだお仕事中ですか?」
「いや、今日はもう上がりだ」
「こんな遅くまで大変ですね」
「日によって区々だがな。君も仕事帰りか」
「はい。この公園、大学生の時に見つけて以来気分転換したくなった時によく来るんです。今の職場からはわりと距離があるんですけど」
「確かに此処は静かで落ち着く。特に夜はな」
「そうなんですよねー。あのライトアップされた噴水と花壇を見てるだけでも心が落ち着きます」
「名前、俺で良ければ話くらいは聞いてやれるが」
少しの沈黙の後、赤井が発した台詞に名前は目を丸くして彼の顔を見上げた。
「如何した?」
「あ、いえ⋯。赤井さんに名前呼ばれたの、初めてだな〜と思って」
「ああ、すまない。アメリカでの生活が長くてな。つい敬称も使わずファーストネームを」
「それは気にしないでください。友達や同僚もみんな名前って言いますし、突然でちょっと驚いただけですから」
「そうか?では遠慮なく」
「はい。それに⋯」
「なんだ?」
「赤井さん、今日は『私』じゃなくて『俺』なんですね」
「今はプライベートだからな」
「いつもきちんと使い分けてるんですか?」
「時と場合と⋯あとは相手にもよるな」
「なら私にも使い分けは必要ないですよ?一緒にランチした仲じゃないですか」
「くくっ、そうだな」
他意のない笑顔。
ジンが彼女に対し常に気が気でない心境である事も大いに頷ける、と赤井は思う。
「それで、何があったんだ」
「え⋯?」
「仕事帰りにこんな所で一人で酒を口にして。何か家に帰り辛い事情でもあるのか」
「赤井さんも相当鋭いですね⋯」
「俺の場合は職業柄、な。勿論言いたくなければ無理にとは言わない。だが話せば楽になることもある」
「そう⋯ですね」
「ジンと喧嘩でもしたのか」
「喧嘩っていうのかな⋯。今朝出掛ける前にちょっとした口論になっちゃって。結局最後は私が一方的に捲し立ててそのまま家を出てきちゃったんですけど⋯」
「それで帰り辛いから直帰せず此処へ来た、という訳か」
「はい⋯。私が謝れば済む話なんですけど、それだとまたいつか同じ事を繰り返しそうな気がして」
名前は自嘲気味に嗤う。
「ジンの言った事は正しいんです。彼が言うことはいつも論理的で筋が通ってて冷静で。だけど私にはそれだけじゃ片付けられない事もあって。やっぱり女だから、ですかね⋯。いざという時に感情が先走っちゃうのって」
「⋯⋯」
「別に何か答えを求めてた訳じゃなかったんです。ただ話を聞いて、頷いて、できたら最後にお前なら大丈夫だって、言ってほしかったんです」
「まるで自分の事を言われている様で、正直耳が痛い⋯」
「?」
「俺もどちらかと云えば奴と同じタイプの人間だからな。女心に関しては鈍感であると認めざるを得ない」
「ふふ⋯」
「⋯? 何か可笑しな事を言ったか?」
「ジンと赤井さんって、対照的な様でいて本質的な部分はすごく似てるな〜と思って。なんだか兄弟みたい」
「おいおい⋯勘弁してくれよ」
「ごめんなさい」
そう言って笑った彼女の顔はいつもの名前で。それを見た赤井は安心すると同時に別の気配を察した為、手中にある珈琲を一気に飲み干した。
「さて⋯俺はそろそろ失礼するよ。どうやらお迎えが来たようだからな」
「お迎え?」
「今夜は楽しかった。おやすみ」
「え、あ、はい⋯!おやすみなさい」
未だ状況が良く飲みこめていない彼女を残し、赤井は背を向けたまま片手を上げると足早に去って行った。
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※お題配布元:OSG
2014/10/7