16:錯綜フェルマータ

※番外編「運命の人ならここにいる」夢主意識trip

「やはり一時的な記憶喪失及び記憶の混濁だろうというのが医師の見解だ」
「フン、とてもそうとは思えねぇがな⋯」
「だが現にFBIについては全く認識できていない。俺やジョディとも初対面だ、と」
「それだけなら医師の見解も納得がいく。しかしな⋯」

今朝もいつもの休日と変わらず、名前は寝ぼけ眼でジンよりも後に目覚めてリビングにやってきた。おはようの挨拶も、ソファに座ってテレビのリモコンを手に取る仕草も何一つ変わらない。ところが次の瞬間、空気は一変した。

「そういえば、今日は朝からお仕事じゃなかったの」
「あ?仕事?」
「8時には家を出るからって昨夜言ってたじゃない」
「?⋯何寝惚けたこと言ってやがる。そんなことより、お前の方こそとっとと準備した方がいいんじゃねえのか」
「え?」
「今日は監査だろう。送ってやるから朝食を済ませて早く着替えてこい」
「監査?監査って何?」

その後も互いの会話は些か噛み合わず、ジンは仕方なく赤井に連絡を入れた。状況を説明された赤井は監査の件も考慮し二人で本部に訪れるよう指示を出す。その間、ジェイムズに事の次第を報告して念のため信頼できる脳外科医ともコンタクトを取ることに。

やがて二人が到着して赤井とジョディが出迎えるとそこには普段と全く違った様子の名前が。戸惑いながら「初めまして⋯」と小さく口にした彼女に赤井とジョディは閉口して思わず顔を見合わせた。

話をしているうちに思い出すこともあるかも知れない、と一応通常通り監査という名目でジンを残して応接室に名前を連れて行ったものの状況は芳しくなく⋯。結局医師の診断を仰ぐことになり病院まで訪れた。

「俺と名前はすでに籍を入れていて、尚且つ俺が組織に身を置いたままだと主張していたんだぜ⋯」
「医者曰くそれらが記憶の混濁であり、加えてそこに己の願望が複雑に入り混じっているんだろう⋯と」
「⋯⋯」
「どうする?念のため精密検査も検討した方がいいとは思うが」
「それも当然必要だが⋯FBIの立場としてこのままでいいのか?司法取引で身元引受人となった名前には今その時の記憶が無い」

ジンのいわんとしている事を察した赤井はフッと笑って見せた。

「その件については今此処で答えを出すことはできない。俺一人で判断できる事でもないしな」
「なら、暫くは今まで通りの生活で問題ないんだな」
「ああ。俺達に関する記憶の他は粗方しっかりしているようだし、その方が彼女にとっても記憶が戻りやすいだろう」

その代わり何かしら状況に変化があった場合はすぐに連絡を入れるようにと赤井は念押しした。


***


「ジン、ごめんね⋯?」
「別に謝る必要はない」
「だってすごく迷惑掛けちゃってるし⋯」
「何があろうが、お前はお前だろう」
「⋯うん、そうだね。ありがと」

名前はようやく柔らかい笑みを浮かべた。

「だけどびっくりしちゃったなぁ」
「何がだ」
「ジンが普通の生活してて、しかもFBIの人達とも関わりを持ってるなんて」
「⋯⋯」
「もしかしたらパラレルワールドって本当に存在するのかもね」
「パラレルワールド?」
「うん。前にね、ジンとパラレルワールドの存在について話したことがあって⋯」

覚えてる?と名前に問われるがジンは少し考えた後、首を横に振った。そんな話をした覚えは一切なかったからだ。

「やっぱり。ジンはジンだけど、私が昨日まで一緒にいたジンとは違うみたい」
「まさか別の時間軸からやって来た、なんて言い出すんじゃねーだろうな⋯」
「その“まさか”じゃなきゃ説明つかないもん」
「まぁ⋯物理学の世界で可能性・仮説が語られちゃいるが」
「わぁ〜すごい!ジンと同じこと言ってる!」
「お前な⋯」
「あ⋯ごめんなさい。何があっても私が私なように、ジンはジンだよね」
「フン、分かればいい」

ジンは満足気に口角を上げるとそっと名前の髪を撫でつけた。

「記憶喪失だか何だか知らねぇが、俺と生活を共にしていた記憶はあるんだろう?」
「うん。こうやって私のマンションで一緒に暮らしてた」
「なら今まで通り生活すればいい。赤井もそれでいいと言っていた」
「了解。っていうか、ジンの組織が無くなっちゃったってことは⋯人目を気にしないで普通にデートもできるの?」
「ああ」
「ほんとに?!」
「当然だろう。⋯なんだ、俺とデートしたいのか」
「したいしたい!」

名前は目をキラキラさせて今日1番の笑顔を向けた。

「明日はちょうど日曜だ。何処か出掛けるか」
「うん!ジンが構わないなら」
「だったら何処に行くか考えておけ」
「え〜どうしよう!ありすぎて迷っちゃう」
「クッ⋯あまりはしゃぎ過ぎるなよ」

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※お題配布元:Cock Ro:bin
2015/5/17