05:Time is money

昨夜のトンデモ事件のせいで肉体的にも精神的にも相当疲れていたのか、瞼を閉じた瞬間から眠りに落ちていたらしい。けれど無意識に彼の事が気になっていた為か普段より1時間近くも早く目が覚めてしまった。

軽く深呼吸をした後、意を決してベッドから降りる。
どうか誰も居ませんように…と祈りつつそっとドアを開けた。が、残念ながら昨夜と同じく神様は聞く耳をもっていないのか。長い手足を組み、やや俯き加減の銀髪男が変わらずそこに居た。手渡したブランケットは使用された形跡がなく、ソファの隅に置かれている。先程から身動き一つしないところを見るとどうやら眠っているらしい。

これ幸い、と忍び足で横を通り過ぎようと試みた。

「起きたのか」

スッと向けられた視線とかち合う。
本当に、色んな意味で心臓に悪い。

「…それはこっちのセリフです」
「こんな得体の知れない場所で熟睡なんざ出来ると思うか?」
「ちゃんと寝ないから帰れなかったんじゃないんですか」
「……」
「朝が来れば全部元通りになってると思ったのに…どうしてまだ居るんですか」
「こっちが聞きてぇよ」

当然分かってはいる。彼だって好き好んで此処に居る訳じゃないことくらい。

「…で?」
「あ?」
「あなた、これからどうするつもりですか」
「…やめろ」
「は?」
「いい加減、その“あなた”ってのはやめろ…虫唾が走る」
「意味が判らないんですけど。大体あなたの方こそ私のことずっとお前呼ばわりで失礼だと、」
「名前」

少し色気を含んだような低い声で事もなげに私の名を口にする。不覚にも、その声色に一瞬ドキリとしてしまう。けれど次の瞬間には別の意味で心臓が跳ねた。

「っていうか、どうして私の名前…?」
「苗字名前、○○月××日生まれの24歳。勤務先は…」

突如、私の個人情報をスラスラと暗唱し始める。終いには私が所持しているクレジットカードの番号まで。
驚きのあまり口を開けたまま固まっていると彼はスッと何かを取り出し掲げて見せた。

「あ、それ私のお財布…!」
「お前に関する情報は粗方調べさせて貰った」
「本当に…黒ずくめの組織って碌な組織じゃありませんね」
「お褒めに預かり光栄だ…とでも云えばいいか?」
「褒めてません。馬鹿なこと言ってないで早くお財布返して下さい」
「チッ…ほらよ、」

すでに用済みだとばかりにポイッとぞんざいに投げて寄越される私の財布。かなりムッとしながらも念のため中身を調べる。保険証に免許証、クレジットカードとキャッシュカードも無事。その他も特に荒された形跡はなし。ところが―――

「…あの、」
「なんだ」
「諭吉さんが数名消失してます」
「気のせいだろう」
「いいえ。間違いありません」
「持ち主同様、財布の中まで貧相で笑えたぜ…」
「そっちこそ覗きの次は窃盗ですか?いい加減にして下さい」
「こんなはした金…倍にしてすぐに返してやる。暫くの間、俺に預けておけ」
「何が預けておけ、ですか。『無一文だからお金貸して下さい』って素直に言えばいいじゃないですか」
「……」
「睨んでも無駄です」
「全くもって可愛げのねぇ女だ…」
「可愛げがなくて結構。ところで朝ご飯はどうしますか、」

“ジンさん?”

少しわざとらしくその名を呼べば彼は一瞬、面食らったように僅かに目を見開く。ところが然程気分を害した様子もなく満更でもない表情。当然これも駄目だと言われれば次は“あんた”とでも呼んでやろうかと思っていたんだけど。

「“さん”は不要だ」
「さすがに呼び捨ては気が引けます、恋人でもあるまいし。それにジンさんの方が年上でしょう?」
「フン…まぁいいだろう、」

今までより幾分かマシだと彼は口角を上げた。そして朝食の問いにも予想に反して肯定の意を示される。いくら二次元のキャラクターで悪役と言えど、時間が経てば空腹にもなるらしい。ここで「朝もインスタントラーメンだ」と言ったらどんな顔をするのかと思ったけれど今日のところはやめておこう。

「要ると言ったからには文句はナシで」
「メニューは何だ」
「ご飯とお味噌汁。あとは適当に冷蔵庫に入ってる納豆と漬物でも出しますよ」
「……」
「今朝はいつもより早く起きたのでお味噌汁くらいはちゃんと作ってあげてもいいですけど」
「まさか普段は味噌汁もインスタントだとでも言うじゃねぇだろうな…」
「ええ、そのまさかですが何か?」

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お題配布元:fynch
2016/6/29