06:今ならサンタクロースだって信じれる

職場から帰宅するや早々、徐に差し出されたショップ袋をジンは怪訝な表情で見遣る。

「とりあえずですけど外出着と部屋着、それから下着類です。洗濯するにも替えが無いと困るでしょうから」
「⋯⋯」
「今“どうせ安物だろう”とか思いませんでした?」
「ほぅ⋯悪くねぇ推察力だ」
「そうですか。なら返品してきます」
「⋯誰も不要とは言ってねぇ」
「素直にありがとうと言えないんですか」

フンと鼻を鳴らしつつ、中身を検めるジンさん。

「当たり障りなく色はモノトーンで揃えておきました。サイズが多少合わない分は我慢して下さい」
「ああ⋯」
「それから、」
「なんだ」
「煙草、臭いが酷くて不愉快です」
「あ?」
「せめてベランダに行くとか換気扇の下で吸うとかして下さい」
「窓は開けて吸っている」
「それでは不十分。部屋や家具に臭いが染み付くのが嫌なんで」
「チッ⋯」

物凄く不満そうな顔をしていたけれど何だかんだで煙草に関しての要望は聞き入れてくれたらしく、以降部屋に煙と臭いが充満することはなくなった。
彼がシャワーを浴びている間に私は夕食の準備に取り掛かる。今夜も手軽に、パスタに落ち着く。茹でて市販のソースを絡めるだけ。サラダを付けても野菜を切って盛るだけだから簡単。後はトマトを乗せるだけ、というタイミングで彼が戻ってくる。

「――あ、そのスウェット意外と似合ってる」
「⋯⋯」
「ジンさんって黒のトレンチコート着てるイメージしかないんで凄く新鮮に見えます」

些か複雑そうな表情をしているものの、特にこれといった反論をしてくることもなくダイニングテーブルの椅子に腰掛ける。

「ミートソースとカルボナーラ、どっちがいいですか?」
「⋯ミートソース」
「分かりました。サラダはこの中からお好きなドレッシングでどうぞ」
「昨夜よりマシだが⋯今夜も適当だな」
「パスタとサラダ、れっきとしたイタリアンじゃないですか」
「⋯⋯」
「さ、早く食べましょう」

コミックやアニメで彼が食事をしているシーンは未だかつて見た事がないけれど予想通り、その動作はとても優雅というか、上品で無駄がない。

「ところで、今日は1日何を?」
「主に情報収集だ⋯」
「何か成果はありました?」
「お前の言う通りどうやら此処は俺の知る日本とは少し違うようだな⋯」
「でしょうね」
「あとは酒と煙草を買いに外に出た」

そういえばさっき何気なく注意して終わったけど、彼が煙草を吸っている=何処かで調達して来たということ。どうして気が付かなかったんだろう⋯!

「外って、まさかそのままの姿で⋯?」
「あ?当然だろう」
「誰にも何も言われませんでした?!」
「別に」
「そうですか⋯」

昨夜いくらパソコンで検索してもコナンに関する情報がヒットしなかった。ということは世の中でもコナンという著作は元々存在していなかったものとなっているのだろうか。明日、職場で休み時間にでも個人的に調べてみようと思う。

「⋯おい、」
「はい?」
「お前の名義で口座を1つ作って俺に寄越せ」
「は?嫌です」
「⋯⋯」
「どう考えても悪用される結末しか見えてきません」
「⋯⋯」
「あの黒ずくめの組織のジンさんですよ?一体何を企んでるんですか」
「何も企んでなどいない」

もしもの時は此処から追い出すなり、警察に突き出すなりすればいい。
ジンさんは決して冗談ではない口調で私にそう言った。

「⋯分かりました。そこまで言うなら今使ってない口座があるのでそれを貸します」

確か残高も300円くらいしかなかった筈だし、近いうちに解約しようと思っていたこの口座なら問題ないだろうと結論付ける。それにあんなに真剣な眼をして訴えられたら⋯流石に無碍にはできない。

「あ、あとジンさんの怪我ですけど、」
「どうした」
「抜糸とかしなくていいんですか?」
「必要ない。自然に体内で吸収される」
「でも消毒はしないと、ですよね?消毒液一式もついでに買ってましたけど」
「⋯そうか」
「辛いならお風呂から出たら私がやりましょうか?」
「構うな⋯自分で出来る」
「そうですか」

消毒液や脱脂綿が入った袋はあそこだと説明してこの日の会話らしい会話は終了。当然ながら今夜もジンさんはソファ、私は自室のベッドで就寝。ベッドの中で早く元の生活に戻りたいと思いつつ、彼のことを考える。流石にここまで来たら完全にこれは夢ではなく、現実なのだと認めざるを得ない。

next

お題配布元:Cock Ro:bin
2016/7/6