海とあなたの物語@
「おでん様ーーー!!!」
なんだかやけに騒がしいな、と思えば次の瞬間絶叫が轟く。男の叫びで何となく状況に察しはついたけれど好奇心が勝り席を立った。
甲板に出ると案の定、ここ数日『船に乗せろ』と父様にしつこく嘆願していたおでんさんが鎖だけを頼りに海中を引きずられていて。
その一方で彼の家臣とおぼしき男は父様に憎悪を含んだ眼差しを向け暴言を吐きつつも、最後は床に頭を付けて主君を引き上げるよう懇願している。けれど父様は「止めたきゃお前が説得しろ」と軽くあしらい、おでんさんには「3日鎖を離さなければ船に乗せてやる」と条件を提示した。
やがて物珍しさで集まっていた大半のクルーは徐々に自分の持ち場に戻り始め、私もその流れに乗った。
午前0時を回った頃。
薬草の調合諸々、一段落した所で気分転換を兼ねて甲板に出た。
(そういえば⋯)
少し歩いた所で例の事件を思い出す。
出来るだけ気配を断ちながら歩みを進めると昼間と変わらぬ姿の男が居た。夕食時にサッチが『食事を持っていったが一切口を付けようとしなかった』と漏らしていたのであれから飲まず食わずのままなのだろうと推測する。
おでんの家臣を務める男だ。そう軟な身体ではないはず⋯と思いつつも一旦踵を返し、自室でグラスに水を注いでストローを添える。これなら拘束されたままでも飲めるだろう、と今度は堂々と足音を立てながら男に近づいた。
此方の気配に気付いた途端、彼は物凄い殺気を放ちながら振り返った。その中性的な外見とは裏腹な威圧感満載オーラに一瞬怯むけれど表向きはポーカーフェイスを装い、手にしていたグラスを差し出す。
「要らん」
にべもなく即答。
想定通りの反応をどうも。
「あれから飲まず食わずなんでしょう?せめて、」
「煩い!余計な世話だ、おれに構うな!」
夜は静かな分、少し声を荒げただけでも辺りに響く。
今の怒鳴り声が見張り台に居たクルーに届いたようで、何事かと身を乗り出して来たので慌てて手を左右に振って「何でもない、大丈夫」とジェスチャーを送った。
もうこれは何を言っても無駄だと判断し、彼に言われた通りこれ以上構うのはやめてこれみよがしにドンッ!と微妙な位置にグラスを置いてこの場を去った。
***
結局おでんさんは父様に認められこの船の一員となった。
更に彼が助けたトキさんとずっと船に潜んでいたというイヌ&ネコのコンビ二人、ついでにあの男――イゾウも。
彼らがこの船に馴染むのに然程時間は掛からなかった。あのイゾウでさえ当初あれだけ父様に突っかかる素振りを見せていたにも関わらず、島での冒険や宴を重ねる毎に刺々しさは消え今ではすっかり父様とも打ち解けた様子で。
加えて同い年な為かマルコとも随分気が合うようで最近甲板でよく一緒に居るのを見掛ける。おかげでマルコに用事があるとき気軽に話しかけ難くなって、少々困惑している今日この頃。
「おーい、アイラ―!」
そんな事を考えていた最中、まさに今思い浮かべていた当人らが前方にいて私を呼んでいる。マルコの声を無視する訳にもいかず仕方なく二人に近寄った。
「昨夜、近いうち買い出しに行きたいって言ってただろぃ?今からおれ達町に行くんだ」
お前も一緒に来ないか、とマルコが善意で誘ってくれているのは判る。判ってる⋯けれども。
イゾウとの“水拒否事件”が私の中で未だ尾を引いていて、あれからずっとイゾウとはまともに口をきいたことがないのでやんわりとお断りする。
「あー⋯悪いけど私まだやることあるから先に行って。用事済ませてから出掛けるから」
「そうかい。じゃあ行ってくるよい」
「うん、気を付けて」
そう言って彼らの横を通り過ぎる。
すれ違いざまにイゾウと一瞬目が合ったような気がしたのは、多分気のせい。
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なんだかやけに騒がしいな、と思えば次の瞬間絶叫が轟く。男の叫びで何となく状況に察しはついたけれど好奇心が勝り席を立った。
甲板に出ると案の定、ここ数日『船に乗せろ』と父様にしつこく嘆願していたおでんさんが鎖だけを頼りに海中を引きずられていて。
その一方で彼の家臣とおぼしき男は父様に憎悪を含んだ眼差しを向け暴言を吐きつつも、最後は床に頭を付けて主君を引き上げるよう懇願している。けれど父様は「止めたきゃお前が説得しろ」と軽くあしらい、おでんさんには「3日鎖を離さなければ船に乗せてやる」と条件を提示した。
やがて物珍しさで集まっていた大半のクルーは徐々に自分の持ち場に戻り始め、私もその流れに乗った。
午前0時を回った頃。
薬草の調合諸々、一段落した所で気分転換を兼ねて甲板に出た。
(そういえば⋯)
少し歩いた所で例の事件を思い出す。
出来るだけ気配を断ちながら歩みを進めると昼間と変わらぬ姿の男が居た。夕食時にサッチが『食事を持っていったが一切口を付けようとしなかった』と漏らしていたのであれから飲まず食わずのままなのだろうと推測する。
おでんの家臣を務める男だ。そう軟な身体ではないはず⋯と思いつつも一旦踵を返し、自室でグラスに水を注いでストローを添える。これなら拘束されたままでも飲めるだろう、と今度は堂々と足音を立てながら男に近づいた。
此方の気配に気付いた途端、彼は物凄い殺気を放ちながら振り返った。その中性的な外見とは裏腹な威圧感満載オーラに一瞬怯むけれど表向きはポーカーフェイスを装い、手にしていたグラスを差し出す。
「要らん」
にべもなく即答。
想定通りの反応をどうも。
「あれから飲まず食わずなんでしょう?せめて、」
「煩い!余計な世話だ、おれに構うな!」
夜は静かな分、少し声を荒げただけでも辺りに響く。
今の怒鳴り声が見張り台に居たクルーに届いたようで、何事かと身を乗り出して来たので慌てて手を左右に振って「何でもない、大丈夫」とジェスチャーを送った。
もうこれは何を言っても無駄だと判断し、彼に言われた通りこれ以上構うのはやめてこれみよがしにドンッ!と微妙な位置にグラスを置いてこの場を去った。
***
結局おでんさんは父様に認められこの船の一員となった。
更に彼が助けたトキさんとずっと船に潜んでいたというイヌ&ネコのコンビ二人、ついでにあの男――イゾウも。
彼らがこの船に馴染むのに然程時間は掛からなかった。あのイゾウでさえ当初あれだけ父様に突っかかる素振りを見せていたにも関わらず、島での冒険や宴を重ねる毎に刺々しさは消え今ではすっかり父様とも打ち解けた様子で。
加えて同い年な為かマルコとも随分気が合うようで最近甲板でよく一緒に居るのを見掛ける。おかげでマルコに用事があるとき気軽に話しかけ難くなって、少々困惑している今日この頃。
「おーい、アイラ―!」
そんな事を考えていた最中、まさに今思い浮かべていた当人らが前方にいて私を呼んでいる。マルコの声を無視する訳にもいかず仕方なく二人に近寄った。
「昨夜、近いうち買い出しに行きたいって言ってただろぃ?今からおれ達町に行くんだ」
お前も一緒に来ないか、とマルコが善意で誘ってくれているのは判る。判ってる⋯けれども。
イゾウとの“水拒否事件”が私の中で未だ尾を引いていて、あれからずっとイゾウとはまともに口をきいたことがないのでやんわりとお断りする。
「あー⋯悪いけど私まだやることあるから先に行って。用事済ませてから出掛けるから」
「そうかい。じゃあ行ってくるよい」
「うん、気を付けて」
そう言って彼らの横を通り過ぎる。
すれ違いざまにイゾウと一瞬目が合ったような気がしたのは、多分気のせい。
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